2012.07.28 Sat
第9回 wan上野ゼミ 書評セッション
新雅史『商店街はなぜ滅びるのか――社会・政治・経済史から探る再生の道』光文社新書
福岡 愛子
東京大学大学院人文社会系研究科 研究員
書評・・・というより読後感
✧同書の歴史的叙述の中心である1960~1990年代の生活実感と専門職経験に照らして。
✧博論を一般書向けに改訂する作業を前にして。
(1)入りやすさ・読みやすさ・わかりやすさという魅力
◎導入の妙
・序章は大震災後の希望の灯、第1章は村上春樹のジャズ喫茶開店エピソード。
・しかもターゲットを忘れない。「現在の閉塞状況」という語の現在的訴求力。
◎読者の疑問の先取り ◎文献の選定と提示のタイミング ◎シンプルな図示の効果
◎各章のまとめと確認 ◎「あとがき」で一気に縮まる著者との距離
(2)目からウロコの快感
◎既成の見方、言い古された固定観念への挑戦
・戦後日本社会の政治的・経済的安定は、「雇用の安定」だけで実現したわけではない[18-19]
・高度経済成長期、農業層の減少がすべてサラリーマンの増加につながったのではない[20]
➔総中流化を支えた豊かな(都市型)自営業の増加と安定という要因の重要性
・「反規制」信仰への懐疑、規制緩和による弊害
➔郊外ショッピングモールの増加による「自営業の安定」の崩壊
➔バブル崩壊は「雇用の安定」と同義ではない。
➢但し、商店街は伝統的な存在とみなされてきたという「誤解」については、疑問
私自身の生まれ育った町では、「市」が伝統的な存在(17世紀元禄時代に町民の「口上書」によって開始)、商店街は新しい。従来「市」が開かれていた街道沿いに商店街ができ→やがて「市」はその一本裏の通りに移転→スーパーマーケットの進出により客足が激減して衰退。
反面、商店街の方は生き残る(採算のとれないスーパーが撤退、ネット注文などによる販路拡大)
(3)共感の数々
◎零細自営商の保守性・権威主義的性格、革命主体とはなりえない←E・フロムの影響
進取の気風、生活の現場に近い問題意識と行動力、ネットワークの強み
零細自営商の政治性・党派性については、再検討の余地あり
ドキュメンタリー『原発に映る民主主義~巻町民25年目の選択』『続・原発に映る民主主義』
60年代半ばの国の原子力政策→1971年の巻原発建設公表、学生・労働者らによる反対運動
→土地買収問題で建設凍結→1994年、凍結を公約に当選した町長が凍結を解除して三選
→1995年 住民の中から新たな原発反対運動、その中心になったのが酒屋の店主
→1996年 住民投票で原発建設反対派が圧勝→2004年 建設中止最終決定
(4)時代感覚のズレ
●「流通革命」(林周二1962)「価格破壊」「バリュー主義」(中内功1969→2007)
60~70年代に、一般に認知されていたとは思われない。
あるいは、従来の60年代の語り方(左翼/新左翼史観)によって、
大衆/消費×社会/文化という観点からの当時の重要な変化が見過ごされてきたのかもしれない。
●歴史的転換点としての1970年前後――戦後の二極体制の揺らぎ・アメリカの相対化
米中接近~田中・ニクソン会談の象徴的意味~日中国交回復
それ以後のキーワードの変化
日米貿易摩擦(日本の特殊性の強調)・国際化・自由化・規制緩和
➔そのような経済・社会の変化が、一般の商店経営に及ぼした具体的な影響がみえてこなかった。
●自民党の「包括政党化」[135]⇔「革新ブーム」(地方レベル)&「支持政党なし」急増1967年4月の統一地方選挙で東京都に初の革新都政、同年以降、岩手・京都・大阪・沖縄・埼玉・神奈川・島根など、1970年代半ばまでに10人の革新知事が出現。
1969年12月2日の総選挙以降では、投票率の大幅低下(前回より5.5減少の68.5%)の影響が社会党の得票に最も強く現れて、「社会党離れ」の始まり。そしてその直後から「支持政党なし」層が急上昇。
(5)あえてのないものねだり
●文化、あるいは価値という面からの考察の欠如
・いわゆる「1968」の解釈
――「自分探し」という個人化、あるいは政治的には挫折したが文化革命としては強い影響力を残したという評価
・近年の商店街活性化の試みとして、マスコミなどがとりあげる地元の若手アーチストとのコラボや、コミュニティセンター的な役割を、どう説明するか。
●海外の影響、海外との比較
・たとえば、一時はやった「アントレプレナー」という語彙のアメリカとの対比
ex.日本では「企業内アントレプレナー」
やはり文化・価値の問題としても考えられるのではないか。
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