2015.04.09 Thu
「こじらせ女子」ということばを流行らせた、雨宮まみさんの『女子をこじらせて』(ポット出版、2011年)が幻冬舎から文庫になりました。4月10日発売。ご本人に頼まれて、文庫版解説を書きました。題して「こじらせ女子の当事者研究」。思わずリキが入って、なが〜い解説になりました。
その一部をご紹介します。「中略」と「後略」だらけの引用ですが、全文をお読みになりたい方は、新刊の文庫をお買い求め下さい(と言うことに、編集者との約束でなっているので)。
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こじらせ女子の当事者研究
痛い。痛い本だ。読むのも痛いから、書くのはもっと痛かろう。
このイタさは、本人の気づかない無様さを第三者が嗤うイタさのことではない。これほど鋭利な自己分析と徹底した自省のもとに書かれたテキストは、ざらにあるものではない。他人に突っこみを入れられる前に、そんなこととっくにわかってるよ、と著者なら言うだろう。
なぜわたしは女の身でAVライターになったのか?なぜなら女子をこじらせたから。なぜ女子をこじらせたのか?なぜなら・・・自分とはじぶんにとって最大の謎だ。その謎にありったけの知性と内省で挑んだ。おもしろくないはずがない。
だからわたしは、本書をこじらせ女子の当事者研究と呼ぼうと思う。
(中略)
「AV女優にならない/なれない女」という安全圏にいったんは身を置いたはずなのに、女であることから彼女は逃げられない。AVレビューのプロとしてまじめに仕事をすればするほど、男に受ければ「女でも、コイツはちがう」「わかってる」と名誉男性の評価を受けるいっぽうで、逆に「女だから」とか「女目線」が評価の対象となることに傷つく。
女でなくても傷つき、女であっても傷つく。これは多くの女にとって見慣れた風景だろう。しごとができればできたで、「女にしては」と評価されるいっぽうで、「女だから」評価されたのだと貶められそねまれる。しごとができなければ論外だ。男の社会のうちに女の居場所はないし、逆に女の指定席に座ってしまえば一人前に扱われない。あまりになじみの経験なので、これに「ウルストンクラフトのジレンマ」と名前がつけられているぐらいだ。19世紀のフェミニスト、メアリ・ウルストンクラフトが指摘して以来の、性差別のディレンマのことである。
こう書くと、本書が「全国のこじらせ系女子に捧ぐ!」という経験の普遍性を持っていることがわかるだろう。
(中略)
当事者研究は、読み手の当事者研究を誘発する。この本を読みながら、わたしは、自分が「すれっからし」だった頃のことを思い出した。(わたしは今でも「すれっからし」だが。)男を侮り、男の欲望をその程度の陋劣なものと見なし、そのことによってかえって男の卑小さや愚かさに寛大になるという「ワケ知りオバサン」の戦略である。セクハラにあってショックを受ける女性を「男なんてそんなもんよ」となだめ、下ネタには下ネタでかえすワザを身につけ、男の下心だらけのアプローチをかわしたりいなしたりするテクを「オトナの女の智恵」として若い娘にもすすめる…そんなやり手ババアのような存在になっていたかもしれない。そしてこんなワケ知りオバサンほど、男にとってつごうのよい存在はない。
「すれっからし」戦略とは、男の欲望の磁場にとりかこまれて、かりかりしたり傷ついたりしないでやりすごすために、感受性のセンサーの閾値をうんと上げて、鈍感さで自分をガードする生存戦略だった、と今では思える。男のふるまいに騒ぎ立てる女は、無知で無粋なかまととに見えた。そうでもしなければ自分の感受性が守れなかったのだが、ツケはしっかり来た。感受性は使わなければ錆びつく。わたしは男の鈍感さを感じなくなり、いつのまにか男にとって便利な女になっていた。著者のいう「ハメ撮りしていることを知ってて、うまく行っている(AV監督の)奥さん」と、その対極にいる「奥さんがいることを知っていて男の欲望に応じ、トラブルを起こさない女」のセットほど、男にとってつごうのよい存在はないだろう。
(中略)
わたしも若い女たちに言いたい。はした金のためにパンツを脱ぐな。好きでもない男の前で股を拡げるな。男にちやほやされて、人前でハダカになるな。男の評価を求めて、人前でセックスするな。手前勝手な男の欲望の対象になったことに舞い上がるな。男が与える承認に依存して生きるな。男の鈍感さに笑顔で応えるな。じぶんの感情にふたをするな。そして…じぶんをこれ以上おとしめるな。
(中略)
女であることの謎を、痛みを伴いながらここまで率直にえぐりだし、みずから自己分析する当事者研究の最上のテキストがこうして次々に生まれている。
(後略)
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