2011.07.29 Fri
フェミニズムのパイオニアは常に先頭を走って
NPO法人こうち男女共同参画ポレール 木村 昭子
「聴く」という人間の脳の機能は、自分の「聞きたいこと」、「必要なこと」をより分けて聞き取るのだという。近頃、聴きたいことも、必要なことも、なかなか耳に届かない話が多く、その聞き分け能力が衰えたのかと思っていたが、今回の上野千鶴子さんの講演では久しぶりに脳が「聞きたいこと」をしっかりと聞き分ける能力を働かせ、ドーパミンを潤沢に放出してくれたらしい。
数年ぶりにお目にかかる上野さんは「耳順」の還暦を越えられたとのこと、そのせいか表情、話しぶりとも実にしなやか。けれども鋭い舌鋒は衰えるどころか円熟という衣をまといながら更に鋭く、フェミニズムのパイオニアここにあり!を示してくれた。
「リブとフェミニズム」がタイトルの今回のブックトーク(主催・会場共 こうち男女共同参画センター ソーレ)、上野さんは「いい時代になりましたね!リブとフェミニズムを堂々と男女共同参画センターで語れるとは40年前は考えられなかった」といい、「一番先に手を挙げてくれたソーレはすばらしい!さすが、高知のはちきん!」とも言われた。東京都下ではフェミニズムは危険思想と云われ、危険思想を語る「札付きの女」として行政から敵視され続ける上野さんならではの感慨だったのだろうか。
フェミニズムが誕生して40年、不惑だという。フェミニズムを産んだリブは世の顰蹙を買い、今や片隅に追いやられてしまったかのようだ。しかし、「女性学・ジェンダー研究」という学問分野はリブが大学に殴り込みをかけたもの、と上野さんは言われた。そして1975年の国際婦人年。女性問題の解決は国策になり、今、男女共同参画へと社会は変わりつつあるが、これもリブの活動あってこそ、ソーレもリブが生んだのだ、リブが無かったらソーレは無かった!という上野さんの言葉に強くうなづかされた。
「女の女による女のための学問研究」である女性学・ジェンダー研究は当事者である女性が研究するから主観的であるといわれるが、では、誰がやるのか?と上野さんは問う。男がやれば中立か?否、男の男による女性論は数あるが、結局は男に都合のいい論でしかない。学問の客観・中立性が言われるが、それは神話でしかない、と一刀両断に切り捨てられた。胸のすく思いである。
女性学以前の学問は「女性問題論」であり、赤線の女性や女性工場労働者の不正出産など、いわゆる「問題女性の問題」が中心であったという。しかし、「主婦」という女の指定席に納まった女性たちに果たして問題は無いのか?上野さんが取り上げられた「主婦研究」は女性の家事労働に光を当てることになった。
家事が労働か否か、上野さんが提起した問題に経済学者たちは強く抵抗をしたそうだ。なぜなら、かのマルクスが家事は労働ではない、とのたまったからだとか。しかし、上野さんは断固として言う。「女が家の中でやっている不当に報われない家事は『不払い労働』である」と。
不惑を迎えたフェミニズムはこの40年間、何を成し遂げたのか?時代の旗手として主張し、戦い、走り続けてきたフェミニストたちの闘いの歴史を、そして得たものを次の世代に渡すために日本のフェミニズムのアンソロジーを編んだのだと上野さんは言われた。フェミニズムと同じ年に生まれたアラフォー真っ盛りの娘は、男性は言うまでも無く、女性にもフェミニズムを話せる相手が自分の周囲にはいないと嘆く。40年たって尚、なのか、40年たった今だから、なのか、私もまた迷っている。
40年間、女たちが要求し、闘って手に入れたものは、「欲しいと言った」ものも、「欲しいものとは違う」ものもあった。もちろん望んでも手に入らないものもある。しかし、「ようやく手にしたものも放っておくととりあげられたり、変わったりしていく」と上野さんは警鐘を鳴らされた。
日本国憲法14条、24条の男女平等条項を起草されたベアテ・シロタ・ゴードンさんが12年前、この高知で話された。
「女性が幸せでなければ平和にはなりません。日本の女性は平和のため、自分たちの幸せのために日々戦わなければならないのです」
この言葉と上野さんの言葉が、そして「自由と権利の保持義務」の条文がしっかりと重なった。
カテゴリー:拡がるブックトーク2011
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