『フェミニストソーシャルワークー福祉国家・グローバリゼーション・脱専門職主義』レナ・ドミネリ著/須藤八千代訳 明石書店 2015年
貧困女子とか性暴力、DVと女性をめぐる社会問題に関心が高まっている。しかし日本では、そのような社会問題に関わるべきソーシャルワーカーまた社会福祉学からの発言はほとんどない。それはこれら女性の今日的問題を考える理論的立場を作ってこなかったからではないだろうか。
社会福祉学における女性福祉が、売春防止法による婦人保護事業に限定され、またソーシャルワークが今や「相談援助」という日本語に言い換えられて、私たちはこのような社会問題に対して完全に無力である。本書はそのような私たちに、一つのモデルを示してくれるものである。
目次を紹介しておこう。
序章 21世紀の社会とフェミニストソーシャルワーク
第1章 フェミニストソーシャルワーク実践の理論
第2章 フェミニストソーシャルワークを取り巻く状況
第3章 専門職の再構築
第4章 男性に関わる
第5章 子どもと家族に関わる
第6章 高齢者に関わる
第7章 犯罪者に関わる
終章 フェミニストソーシャルワークの原則
本書はイギリス社会の階級的、人種的問題にさらにジェンダーという視点を組み込んで、ミクロ、メゾ、マクロレベル全体を理論対象としている。そしてこれがソーシャルワークだと私たちに示している。
福祉国家はソーシャルワーカーという「女性の仕事」を創出し、女性が地域社会や家族の中で担ってきた役割を社会福祉政策のサービスに変えた。まさに個人的なことを社会的な課題に移したのである。はじめに女性ありきであるソーシャルワークの様々な問題は、フェミニズムやジェンダーによる分析抜きでは本質が見えない。
日本の女性福祉は‘クライエント’としての女性だけを取り上げているが、フェミニストソーシャルワークは‘クライエント’もソーシャルワーカーも、またそれを取り巻く社会構造全体を研究対象とする。
本書は男性への関わりや司法福祉といわれる領域にもフェミニズムの視線を向けている。司法福祉はドミネリ自身がソーシャルワーカーとして働いた分野である。イギリスの刑務所が民営化されていることには驚くが、日本が社会福祉の基礎構造をイギリスの制度や政策から学んできた歴史から、コミュニティケアや民営化の論述にさほど違和感はない。
本書は私たちが見落としているミクロなエピソードを、ジェンダーの視点から検証することの大切さを教えている。現実を緻密に見直す視点としてフェミニストソーシャルワークは生成され、再構築されていくに違いない。それによって今、顕在化している女性の問題に介入する力を獲得することができる。本書がそのような現実的な役割を果たしてくれることを期待している。
(須藤八千代)