今年2016年5月11日、西瀬戸内海に浮かぶ祝島で、舟(ふな)おろしがおこなわれた。新しく造った船を初めて水に浮かべる進水式のこと。祝島の新庄造船所の新庄和幸さんが、NHK大河ドラマ『平清盛』のために2隻の中世舟を再現して以来の舟おろしである。前日までの雨が止み、雲も晴れはじめた空の下、祝島では祭りのように賑やかに、約5年ぶりの舟おろしを祝った。

 1000年以上続く伝統神事「神舞(かんまい)」を支える祝島の船大工・新庄さんが今回つくったのは、やはり800年以上つづく伝統神事「祇園(ぎおん)舟」の舟2隻。鎌倉幕府の鬼門にたてられたという、神奈川県は横浜市の富岡八幡宮からの注文だ。和船のつくり手は全国で激減しており、遠くからの依頼となったと聞く。

 新庄さんが新しく完成させた舟は、1隻が重さ約1トン。それを20メートルほど先の浜まで、手伝いに出た島人が手で運ぶ。浜に出した舟を飾り、米や餅や酒や鯛、木でつくったフナダマ様や銭や墨つぼを舟上に並べると、新庄さんはフナダマ様を祀る儀式をおこなった。終わると扇を手にとって開き、小振りの紅白餅をのせて、前後左右で見入る人びとへと撒く。

 船大工による儀式が終わり、新庄さんが舟から降りると、かわって若い衆(し)が餅や菓子を持ち舟に乗りこむ。舟おろしを祝う餅まきの始まりだ。集まってきたたくさんの人が賑やかに餅を拾う。

 それから舟の飾りや櫓(ろ)などを外し、ふたたび20〜30人ほどで担ぐと、いよいよ舟を海水につけた。離島の祝島から運びだす第一歩は、とうぜん海路となる。ただ、本来は櫓で漕いで進む舟ではあるが、この場合は漕がずに別の船で曵(ひ)いていく。もっとも舵(かじ)とりは必要で、そのために祝島の漁師さんが数人、舟に乗りこんだ。

 最初の目的地は上関町室津。半島の突端に位置し、本州島の一部である。そこで2隻の舟をトラックに積みこみ、そこから横浜までは陸路を行くという。

 新庄さんは潮どきを見計らう。重い舟を運んで海に浮かべるのだから、満ち潮が都合よい。太平洋から豊後水道を通って瀬戸内海に流れこむ海流が、周防灘と伊予灘の境にぶつかる地に浮かぶ祝島。周囲はとうぜん潮が早い。それを乗りこえて伊予灘へと少し入ったところに、室津は位置する。祝島から室津へ舟を曵くにも、やはり満ち潮の潮に乗るほうが都合よかろう。

 祝島の舟おろし、横浜へと舟を運んでいく様子、祝島の周囲———特に約3.5キロメートル対岸の田ノ浦や、その東に浮かぶ鼻繰(はなぐり)島あたりまで———の荒波を越えて進む舟を、今回は動画でお伝えします。約8分です。この機会にぜひご覧ください。

【動画:祝島の舟おろし2016年5月11日】 


※連続エッセイ『潮目を生きる』の前回までは次のURLからご覧いただけます。http://wan.or.jp/general/category/shiome