電通事件 なぜ死ぬまで働かなければならないのか

著者:北 健一

旬報社( 2017-01-26 )


 「好きで仕事をやっている人に対しての労働時間だけの抑制は絶対に望まない。好きで仕事をやっている人は仕事と遊びの境目なんてない。」  この発言は、エイベックスが労基署から是正勧告を受けたあとに、社長である松浦勝人氏がブログで書いたものです。彼は「時代に合わない労基法なんて早く改正してほしい」とも述べています。
 彼の発言は、とうてい認められるものではありませんが、いまの「日本の働き方」を象徴しているとも言えるでしょう。電通の高橋まつりさんが過労自殺したことに対して「月当たり残業時間が100時間を超えたくらいで過労死するのは情けない。」とツイートして炎上した武蔵野大学教授の認識も、こうした「日本の働き方」の延長線上にあります。
 本書は、電通事件を通じて、「日本の働き方」を考えるきっかけになってもらいたいと思い、企画しました。
 それは、本書の「プロローグ」で、「電通だけの話ではない。そんな時代錯誤の働き方とそれを強いる文化、慣行は、この国の企業に蔓延し、今日も働き手と家族を苦しめている。……電通は変われるかという問いは、だから、日本の企業社会と、そこで働く私たちが変われるか、という問いかけでもある。」と書かれているように、電通を批判する本ではなく、「死ぬまで働かなければならない」ような状況に置かれている日本の「異常な働き方」に対する警鐘の本です。
 いま、政府は「働き方改革」を進めています。法律や制度を変え、規制をすることによって「働き方」を変えていくことも重要ですが、わたしたちの「働き方」に対する考え方を変えることも、それ以上に重要なことではないでしょうか。本書を読んでいただければいまの「日本の働き方」についての問題の深刻さがご理解いただけると思います。  
これまで仕事で亡くなられた多くの方々の犠牲がありながら、日本でなかなか進まなかった長時間労働是正の議論に本書が少しでもお役に立てればと切に願います。 (編集者 古賀一志)