【転載】
>2017年3月28日夕刻、「働き方改革実行計画」がとりまとめられた。私たち「真のポジティブアクション法の実現を目指すネットワーク」は、働く人のジェンダー平等実現が、日本社会の抱える問題の解決にとって根本的に重要であるとする観点から、この計画について、「緊急コメント」として、以下の通り、問題を指摘する。

「1.働く人の視点に立った働き方改革の意義」について

  この「働き方改革実行計画」は、冒頭、「1.働く人の視点に立った働き方改革の意義」を述べ、この改革が、「働く人の視点に立った」ものであることを強調している。「(2)今後の取り組みの基本的考え方」では、「働く人の視点に立って、労働制度の抜本改革を行い、企業文化や風土を変えようとするもの」とし、 その改革の目指すところとして「働く方一人ひとりが、より良い将来の展望を持ち得るようにすること」を 掲げているのである。
 しかしながら、この「働き方改革」は、「日本経済再生に向けて、最大のチャレンジ」であるともされている。求められているのは「投資やイノベーションの促進を通じた付加価値生産性の向上と労働参加率の向 上」である。曰く、正規非正規の処遇格差を埋めていけば労働生産性が向上する、長時間労働を是正すれば 労働生産性向上につながる、柔軟な労働市場や企業慣行を確立すれば生産性の向上につながるなどと繰り返 され,「働き方改革こそが、労働生産性を改善するための最良の手段である」と結論づけられる。
 しかし、労働生産性は、第一に経営側の問題である。その向上のための最良の手段が働き方改革であるとするこの実行計画は、実のところ、「働く人の視点」に立つというよりは、「経営側の視点」を第一とする ものなのである。その結果、働く人にとって重要なジェンダー平等の実現は、この「働き方改革」の埒外に 置かれている。
 このような見方から、特に「2.同一労働同一賃金など非正規雇用の処遇改善」「4.罰則付き時間外労 働の上限規制の導入など長時間労働の是正」を取り上げ、それぞれ、問題を指摘する。

「2.同一労働同一賃金など非正規雇用の処遇改善」について

  現在、働く人の4割となっている非正規雇用の70%が女性であり、その意味で、非正規雇用の処遇改善 は、ジェンダー平等、殊に女性の貧困問題解決のための最重要課題と位置づけられる。「実行計画」でも、 非正規雇用とシングルマザーや単身女性の貧困問題との関係を述べており、この点認識されている。しかし、具体的な内容は、以下に見るように、非正規雇用者の処遇を顕著に改善するものではないことから、非正規 雇用の女性の貧困問題の解決策となりえるものではない。
 「実行計画」では、「同一労働同一賃金」の実現のため、正規と非正規の間の「不合理な待遇差の解消」 を目指すとされている。必要な法改正の基となる「ガイドライン案」は、諸手当や福利厚生については、同一にすべきものとしている点、また、基本給や諸手当の格差の理由として、「将来の役割期待の違い」といっ た主観的・抽象的説明では足りないとしている点は評価できる。しかし、それ以外に関しては、労働契約法 20条や、パートタイム労働法8条など、現行法の枠組みを超えるものではなく、「同一労働同一賃金」の実 現というには程遠い。なお、労働契約法20条違反として正規非正規の賃金格差について争われたメトロコマー ス裁判東京地裁判決(2017年3月23日)は、比較対象を正社員全員とし、また手当の格差も「有為な人材 確保」のためとするなど格差を不合理なものと認めておらず、この「ガイドライン案」が実効性を持たないことを予め明らかにしたというべきである。
 また、「実行計画」では、非正規労働者についても、その雇い入れ後に、比較対象となる正社員との待遇 差に関する説明義務を課するとしているが、それは、非正規労働者からの「求めに応じて」の義務である。 すなわち、契約更新を求める非正規労働者が説明を求めること自体の困難さへの目配りがなく、実効性に欠ける。
 「再チャレンジ可能な社会をつくるためにも」として「正規化、非正規かといった雇用の形態にかかわらない均等・均衡待遇を確保する。そして、同一労働同一賃金の実現に踏み込む」とした「ニッポン一億総活躍プラン」においては、「正規労働者と非正規労働者の賃金差について、欧州諸国に遜色のない水準を目指す」とされたが、上記のような施策によってそれが実現できるのかは、まことに疑わしいと言わねばならない。
 私たちは、ILOも提唱する「同一価値労働同一賃金原則」の実現を主張してきた。「ガイドライン案」では、「問題とならない例」が列挙されているが、「同一価値労働同一賃金原則」に基づく職務評価(知識・ 技能、責任、負担、労働環境の4大ファクターとサブファクターに基づいて職務の価値を測定する「要素得 点法」の実施)により、職務内容を点数化し、その点数に応じた支給額とすれば、均等・均衡待遇を合理的 に実現することができる。


「4.罰則付き時間外労働の上限規制の導入など長時間労働の是正」について

  今回、「実行計画」は、時間外労働の限度を大臣告示から法律に格上げし、月45時間、年間360時間として違反には罰則を課すとした。政権は、これを「日本の働き方を変える改革にとって、歴史的な一歩」と自賛しているものの、ワークライフバランスの観点がみられない。現行の告示(平成21年労働省告示第316 号)に記載されている労働時間の延長限度週15時間違反への罰則規定は盛り込まれなかった。ワークライフバランス、健康保護の観点からは、休日労働も含め、最低限「延長限度週15時間、月45時間、年間360 時間」などと明記し、罰則を定めることが必要である。また、同様に、インターバル規制についても義務づけるべきである。
 さらに、「全国過労死を考える家族の会」や労働組合、法律家団体の強い反対にもかかわらず、今回年間720時間(休日労働は含まない)までの特例が認められ、2-6か月の平均で月80時間以内、単月では100時 間未満とされた。これはまさに過労死を容認するものであり、この基準が法定化されれば、これまで過労死・自死として裁判において労災を認められ損害賠償裁判で補償されていたケースにおいても、法定内であるとして企業を免責することになりかねない。さらには現行の労災認定基準の後退も懸念される。
 時間外労働の上限規制基準の設定に当たってワークライフバランスの観点が重要であるのは、長時間労働 が、日本社会におけるジェンダー平等実現の阻害要因となっているからである。今回の基準は、ワークライ フバランスや女性の働きやすさ(ひいては男性の働きやすさ)を度外視したものと言わざるをえない。
  なお、この節末尾に、「意欲と能力ある労働者の自己実現の支援」として、「高度プロフェッショナル制 度の創設や企画業務型裁量労働制の見直しなどの多様で柔軟な働き方の実現に関する法改正」が盛りこまれている。これは、労基法改正案として国会に上程されながら、労働者側の強い反対にあって審議入りできず にいるものである。こうした項目を「働く人の視点に立った働き方改革」と題する政策に盛りこむことは、 欺瞞以外の何物でもなく、働く人にとっては有害である。

2017年3月31日
真のポジティブアクション法の実現を目指すネットワーク(ポジネット)
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