5月20日(土)、北海道・札幌エルプラザにて、WANシンポジウム2017「“自分ゴト”から始まる社会づくり-半径3メートルをこえて」を開催いたしました。
本シンポジウムには、札幌市男女共同参画センターの共催のほか、北海道の多くの団体・企業の皆様から後援のご協力をいただき、当日は、一般参加者の皆様や全国から集まったWAN会員参加者が209名、メディア関係者の皆様や登壇者・スタッフ・ボランティアを含めると総勢240名の大盛会となりました。
【オープニングセッション】
シンポジウム開会前のオープニングセッションでは、WAN会員でハンガリー在住のピアニスト・石本裕子氏によるピアノ演奏「『陽の当たらなかった女性作曲家たち』より」、アメリカ・ブラジル・日本・フランス出身の4名の女性作曲家の作品が披露されました。
【基調講演】
基調講演「さあ、『社会を変える』を始めよう」では、法政大学総長の田中優子氏にご登壇いただき、本シンポジウムのタイトルの由来でもある、田中優子・法政大学社会学部「社会を変えるための実践論」講座編著『そろそろ社会運動の話をしよう-他人ゴトから自分ゴトへ。社会を変えるための実践論』(2014年、明石書店)の出版経緯や内容、また法政大学総長としての取り組みについて触れながら、「市民として社会で生きる」ことと「社会運動」がどのようにつながっているのか、ご講演いただきました。
市民とは、社会で生きる中で問題に直面したとき、疑問を自力で調べ、事実に基づいて考え、ふさわしい相談相手を見つけ、議論の場を自ら創るという「行動するための知性」を持った人である。また当事者として問題に直面したとき、その解決に向けて主体的に行動する意欲と方法を持ち、個人の問題を社会の問題として捉え直す視点と思考を持った人である。そして、その先にある「社会を変える」という行動を、日々の暮らしの中で実践することが、市民として生きることであり、社会全体が目指す価値、理想に向けて、どうすればよいのかを考え続けながら生きるということが、運動であり、自由である、という力強いメッセージからのスタートとなりました。
【事例報告】
事例報告「“自分ゴト”から『社会を変える』実践」では、北海道内外で活動をされている4名の登壇者の方から活動事例の紹介があり、それに対して参加者がどのように共感したか、4色の「いいね」カードを旗揚げすることで意思を表示するという流れで行われました。
一人目の報告者、コミュニティ・オーガナイジング・ジャパン代表理事の鎌田華乃子氏からは、20世紀初頭に社会的弱者の声を社会に届ける取り組みとしてアメリカで始まった「コミュニティ・オーガナイジング」という社会運動の手法が紹介されました。また、その手法を性犯罪に関する刑法改正、そして社会の文化を変えるための運動に用いたビリーブ・キャンペーンという実践例では、アンケートや漫画・動画、イベント、アート・パフォーマンス、ワークショップなどの問題意識を広めるための取り組みや、国会議員に声を届けるためのオンライン署名、ロビー活動、ダンスプロジェクトなど様々なバリエーションの運動事例が紹介されました。これに対しては、会場の参加者から「課題に共感した」という意味の「黄色」のカードがたくさん挙げられました。
二人目の報告者である武村若葉氏からは、所属するChange.orgが提供するオンライン署名という社会運動の手法に関して、「保育園落ちた日本死ね」ブログを発端に広がった運動の事例が紹介されました。武村氏ご自身も子育て中で「保育園に落ちる」経験をしたときに、たまたまサポートすることになったこの運動が、一人ひとりの自分ゴトから社会ゴトの運動へと広がった成功要因として、個人のストーリーの共有や時事性の高さ、メディアの活用、「声」の可視化などを提示。また現在は、横のつながりを作って、仲間を増やし、ネットワークをつくるという方向性に運動が発展しており、風化を避けるために継続的なロビー活動にも取り組んでいるということが紹介されました。
参加者からは、「社会の変化を感じた」という「赤色」のカードが特に多くあげられました。
三人目の報告者、札幌学生ユニオン執行委員の下郷沙季氏からは、問題解決策としての「社会運動」という選択肢というテーマで、社会運動をしている理由、そして運動をする中で感じている社会運動の問題点についても踏み込んだお話がありました。下郷氏は、自身が不快な経験をしたとき、その原因と問題に直面したことの意義について考え、場合によってはそれを解決するために運動し、他の人の役にも立つというところまで行動を起すことで、不快な経験や疑問を解消してきたと述べられました。しかし、それでも運動する中で、「誰のものでもない自分自身の経験が社会運動の道具にされていく不快」にも直面してきたと語り、不快なことを解消するための社会運動で、不快なことを増やさないために、自分の経験を過度に一般化・単純化されない、また自分でもそうしないことを心がけていると問題提起されました。これに対して会場からは「課題に共感した」という「黄色」のカードで共感が寄せられました。
四人目の登壇者、公立はこだて未来大学教授の美馬のゆり氏からは、サイエンス・サポート函館の取り組み事例が紹介されました。科学技術に囲まれた社会の中で、賢く生きていくための科学リテラシーや、科学技術に関わる問題を考えていくための科学コミュニケーションがますます必要になっているという世界的な流れ、問題意識から、「はこだて国際科学祭」という活動を行った実践例を報告。科学館がない函館に、ハコモノを作るのではなく、科学祭という「祭り」を行う意義は何か。「祭り」は、観賞するものではなく、参加するものであり、敷居が低いこと、多様なコンテンツを入れることが可能であり、予算をその時々で必要なものに対して柔軟に当てられるという利点がある。そして何よりも、「祭り」には高揚感という「ハレの場」の意義があり、子どもも大人、素人も専門家も誰もが参加できるものとして紹介されました。また、身近な問題から世界を考える、世界の問題から身近な生活を考えることを重視して「祭り」という形で市民と科学をつなぐ美馬氏の活動に、会場からは、「課題に共感した」という黄色のカードがたくさん挙げられました。
【パネル討論】
パネル討論「“半径3メートル”をこえるために」では、特定非営利活動法人さくらネット代表理事の石井布紀子氏にファシリテーターをしていただきました。
社会運動におけるオンラインとオフラインのツールの使い方について、の話題を皮切りに、下郷氏が問題提起した「一般化」をめぐっては、自分ゴトを社会問題として考えるにはある程度一般化された枠組みで捉える必要性があるということ、また一般化することで、他者にとっても分かりやすくなり、伝わりやすくなる、しかし一方で、過度な一般化が自分や他者を傷つけることや、複雑な事を単純化して特定の「引き出し」に入れてしまうことで、思考停止に陥ってしまうという2つの側面が指摘されました。これについて田中氏からは、言葉を運動の中で、どう大切にするか、運動する側が常に言葉に敏感であることが必要であるということ、また自分たちで自分たちをオーガナイジングすることにより、他者から一般化されることを防ぐことができるというご指摘がありました。
美馬氏が提起した「祭り」という運動の方法には、田中氏から、人が集まることから多様性が生まれ、またそこに参加することで、まさに自分ゴトになる、さらにハコモノをやめることで、新しいことができる、との共感が寄せられました。
武村氏が紹介したオンラインの署名についても、田中氏より、どんなに忙しくても署名できる、どんどん新しい話題がくることで、考えるということにつながる、さらに自分でも署名という活動ができるというのが新しいスタイルとのご指摘がありました。それに対して、武村氏からは、手軽さだけでなく、署名をした後で、署名した人たちにメールでイベントや成果のお知らせを届けられることや、賛同してくれた人との双方的なコミュニケーション、そしてその先の行動にもつながるといった利点について話が広がりました。
パネル討論の途中では、参加者から回収した「いいね」の集計報告と「コメント」が石井氏より紹介され、コメントに対してのパネリストらから回答や意見を提示する場面もありました。
全体の議論を通して、田中氏からは、自分が情熱をかけてやっていることが、実際にはどういう結果をもたらしているのか、常にチェックするよう意識することの重要性について指摘がありました。
【総括】
上野千鶴子理事長によるシンポジウムの総括では、まず、横だけでなく、世代間という縦のネットワークにより、知恵とノウハウを使い合っていこうと力強く語られました。また、オンラインもオフラインもメディアを活用していくことの重要性を改めて強調した上で、パネル討論の論点になった「言葉」のインパクトについては、反発だって反響の一つと捉えられるという指摘も出されました。さらに、下郷氏が提起した社会運動のセカンドステージの問題については、運動という手段が目的になり、思考停止に陥らないためにも自分の言葉で語ること、そして主体性をもって入っていった運動の中で主体性を失うことについての危機意識の共有がありました。WANという組織は、オフラインで既にネットワークを作っているからこそ、オンラインでネットワークをつくっているのだ、我慢しない女達、「なぜなぜなぜ」度の高い女達が今後は「縦にも横にもつながっていこう」という、WANのこれから、未来を目指す方向性をもって締めくくられました。
シンポジウムの最後には、男女共同参画センター横浜の石山亜紀子氏より、来年5月19日にWANシンポジウム2018が横浜で開催されることが告知されました。
“自分ゴト”から始まる社会づくりの輪を縦にも横にも更に広げ、来年もWANシンポジウムという「祭り」で、また皆様とお会いできますことを楽しみにしております!
WANシンポジウム2017 実行委員一同
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