
政府が「地方創生」を掲げて膨大な予算を地域振興に回し始めたのが2014年9月のことでした。地方を創生するってどういうこと!? 地方の活性化で重要なのは「創生」? どこかピンとこないというのが本音です。
本書の著者・金丸弘美さんは、内閣府や総務省の地方創生プロジェクトにも関わり、食を軸にした地域プロデュースで活躍され、全国からひっぱりだこの方です。ですが、その活躍のフィールドを、国が旗振りをする「地方創生」で一括りにするのは不正確です(WAN読者の方は、連載「ニッポンはおいしい!」を通してご存知かもしれません)。
金丸さんがスポットを当てるのは、地元の人・コミュニティが主体性をもって地域の歴史や文化に根ざした価値を見つけ、活かしていく取り組みです。そうした草の根の活動こそが、持続的に地域社会に豊かさをもたらすということを、本書では17の事例をもって紹介しています。
例えば、山形県飯豊町の中津川地区は高齢化比率が55.4%のいわゆる「限界集落」です。冬場は積雪が3メートルを超えるこの山間地に、1年中、国内外から観光客がやってくるのです。
来訪者をもてなすのは、御年78歳になる女性をはじめ、地区の農家の方々です。改修した自宅に山村留学の子どもや修学旅行生、台湾からの観光客などの宿泊を受け入れ、地元の食材を使った家庭料理をふるまい、かんじき体験やかごづくりなどを通して地元の暮らしや文化を発信しています。
地区の仲間で民宿組合を立ち上げ、IT講習会や県外への研修旅行などをおこなっているのにも驚嘆します。外国人観光客とのコミュニケーションにもまったく臆することはありません。覚えてきてくれる「ありがとう」「おいしい」などの言葉、漢字の筆談、スマートフォンの翻訳アプリも使いこなし、あとはハグ。
「限界集落といわれる地元を豊かにしたい」「いつまでも挑戦」と語る1939年生まれの大先輩のバイタリティに思わず胸が熱くなりました。
本書には、自治体関係者などから「地域の活性化に取り組む人のかっこうの教科書」とのありがたい声も届いております。一方で、自分のコミュニティを豊かにしたいと、知恵を出し、仲間をつくり、さまざまなチャレンジする人びとの姿に、わたしは編集者としてというよりも、個人として励まされました。だから、もっとこの本を多くの人にお読みいただきたいのです。
全体にわたる本書の概要を、2017年11月13日更新の「女の本屋」で著者が紹介しています。あわせてご高読いただければ幸いです。
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