本書は、最新かつ最大の社会調査に基づいて、現代日本に飛び交う言説や流説の正誤を見極め、わたしたちの社会の近未来の姿を俯瞰するものだ。エビデンスに基づいた研究でありつつも、近未来の実情を幅広い読者に訴えようとしている。
分析枠組みはあっけないほどシンプルだ。まず視点を現役世代(20〜60歳)の約6千万人に絞りこむ。そして男/女、若年/壮年、大卒/非大卒という分断線によって、8つのセグメントを切り分ける。その結果、女性たちは、壮年大卒女性、壮年非大卒女性、若年大卒女性、若年非大卒女性の4セグメントに分けられ、男性たちは、その4つのカウンターパートに分けられる。
今の日本社会は、この「8人」のレギュラーメンバーが支えている。それぞれの社会経済的地位や家族関係、心のあり方や社会とのかかわり方をみると「あ、それあるある」と腑に落ちる実態ばかりなのだが、やがて副題である「切り離される非大卒若者(レッグス)」の深刻な実情が浮き彫りになっていく。
以上があらすじだが、ここではジェンダー視点で本書の見どころを紹介したい。それは、随所にちりばめられているとおり、この男女「8人」の現役世代の切り分けが、「ジェンダー論の解像度を上げるフィルター」としてとても役立っているということである。
周知のとおり、ジェンダーを語るとき、「男性は…」「女性は…」という2つの集団の対立構図では、もはや現実は語り切れない。女性のなかにもいろいろなライフコースの選び方があって、同性内格差もはっきりしている。男たちだって一枚岩ではなく、やたらと力を振りかざす男性もいれば、あまりにも頼りない男性だっている。この多様性を、男性を4パターン、女性を4パターンに分け、それぞれの人生・生活の有利不利を整理していくと、実情がとてもすっきりと頭に入ってくる。
例えば、女性であれば理系女子、キャリア所女、貧困女子、美魔女、ヤンママ、女性の貧困… 男性であれば、セクハラ部長、イクメン、自炊男子・弁当男子、草食系男子、ガテン系野郎… そうした様々な言葉はすべて、本書が提示する整理箱に収まり、そこから社会学の議論との接点をもつ。著者としては、この点を、多くの方に利用していただきたいと願っている。
2018.04.21 Sat
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