気が付けば、何と4,108冊になっていた。2013年5月にミニコミ図書館が開館して、丸5年。当初322冊からスタートしたミニコミ誌の収蔵は、私たちの想定を上回る規模に育っている。
そもそも、ミニコミは女性たちが自分たちの身体や言葉を主体的に位置づけなおす表現方法だった。と同時に、商業誌に比べ少ない部数にも関わらず女性たちをつなぎ、1970年のウーマン・リブ運動ひいては第2波フェミニズムを展開していった。『資料日本ウーマン・リブ史』を紐解いてみると、恋愛や結婚、身体の自己決定、家族像、労働等といった今に通じる日常の課題について、女性たちの問い直しがミニコミという形でつづられている。だが、多くのミニコミの軌跡は50年近くが経った今、当時の作り手(担い手)の高齢化とともに、散逸状況にある。ミニコミ図書館はそのような日本ウーマン・リブ以降の女性のあゆみを半永久的に保存し、女性たちの肉声や体験を世界に発信し、次世代に伝えることを目的としている。従って、収蔵条件も①1970年以降の女性を中心とした民間ミニコミを収蔵の対象とし、②創刊後から最終号までの全部の頁を収録すること、③商業出版物は扱わないことを基準に選考してきた。
ところが、転機は2015年の「全国女性史交流のつどい」であった。もちろん、ミニコミ図書館の取り組みをアピールするべく3日間にわたり参加したのだが、遠野・大槌・宮古と東日本大震災後の岩手の復興の軌跡をめぐりながらの各プログラムは、日本の各地域で長らく地に足をつけた活動を継続してこられた女性たちとの出会いの場でもあった。宿泊や移動も含め企画運営を担った実行委員会をはじめ、女性史の著書でお名前を拝見する参加者たちの思いもよらぬパワフルなご様子には驚かされつつ、大変刺激を受けた。
そして最終日の全体会の場で、インターネットを利用してのデジタルアーカイブ化は各地域で培われてきた女性史の取り組みの保存という課題への福音とのありがたいコメントと共にWANミニコミ図書館を紹介いただいた。地域女性史において、デジタルアーカイブに関心が寄せられるようになった背景には、他のミニコミと同じく担い手の高齢化に加えて、図書館、女性センターなどでは史料の保存はするが公開をしない上に、地方独自のものを所蔵しないという状況があった。私たちは大いなる期待に応えるべく収蔵条件を見直し、1970年以前のミニコミも対象としたことで、それまで知らなかった様々な地域の数多くのミニコミ収蔵へとつながったのだ。
もちろん貴重なミニコミ誌を提供してくださる発行団体の方々のご協力があってのことだが、関心をもって閲覧してくださる利用者のご支援に加え、PDFデータ作成やデータのアップといったボランティアスタッフの地道な作業の積み重ねが4000冊を超えたことはとても感慨深い。
昨年からはミニコミ誌を保存・公開するだけでなく、「ミニコミに学ぶ」と題してオフラインでのイベントも開催している(ブックトーク『こうして戦争は始まる―孫世代が出会う「銃後の女たち」』)。ミニコミ図書館への興味・関心を持ってもらうのが目的だが、実際に顔の見える機会は双方向での情報交換と世代を超えた新たなつながりが広がるとても熱気あふれる場となった。今年も9月3日に「〈化外〉のフェミニズム 岩手・麗ら舎読書会の〈おなご〉たち」柳原恵著/ドメス出版を取り上げ、ブックトークを予定している。ミニコミ図書館にも収蔵している麗ら舎読書会「通信おなご」「別冊おなご」の活動に触れ、岩手の先駆的フェミニストの方々への聞き取り調査を通して、これまで都市を中心とする日本のフェミニズムの中であまり語られてこなかった東北・岩手の〈おなご〉たちの語りを可視化して位置付けている。
著者は30代と、まさにこれからのフェミニズムを担う次世代。ミニコミ図書館の歩みを振り返る時、地域を越え世代を越える、ミニコミを活用した女性と女性をつなぐ新たな段階となることだろう。全国女性史交流に続き、奇しくも今回ブックトークで取り上げるのも岩手。コメンテーターのお一人に岩手県出身の芥川賞作家・若竹千佐子さん(『おらおらでひとりいぐも』)を迎えてのセッションには今から期待している。とても楽しみである。
*2018年9月3日のイベント情報はこちらをご覧ください。
*2018年9月3日書評セッション「〈化外〉のフェミニズム 岩手・麗ら舎読書会の〈おなご〉たち」の様子は、動画でご覧いただけます。
https://wan.or.jp/article/show/8144