2016年7月26日、神奈川県相模原市の大規模障害者施設「津久井やまゆり園」で、元職員による入所者殺傷事件が起きました。19名が亡くなり、負傷した人は27名にのぼりました。
報道では被告の動機がクローズアップされましたがその一方で、次のような思いをもつ人もいました。
「やまゆり園事件のあと、車いすを使っている自分のことを、みんなもじつは厄介者と見ているんじゃないか……(中略)外出は好きなほうでしたが、街に出るのも怖くなりました」(『多様性のレッスン』Q43の質問より)
本書は安積遊歩(あさか・ゆうほ)さんと、娘の宇宙(うみ)さんがウェブマガジンで連載していた人生相談をまとめた一冊。
ふたりとも生まれつき骨が弱く、車椅子を使って生活しています。
母の遊歩さんは日本初の障がい者自立支援センターを設立。日本にピアカウンセリングを紹介した人でもあります。
娘の宇宙さんは現在ニュージーランドのオタゴ大学在学中。同大初の車椅子に乗る正規の留学生として入学し、昨年ニュージーランド政府から「多様性と共生賞」を受賞しました。
そんなふたりにとって、もちろん、やまゆり事件は大きな衝撃でした。
前述の質問に対して、こう答えます。
「私もまったく同じ気持ちになりました。……
決してあきらめないで。怖い、怖いと言いながらでいいから、外に出かけていきましょう。怖いから外出しない、という選択を終わりにしない限り、事件の被告のような考えに凝り固まっている人たちには、私たちの人間性が見えないままになるでしょう」(遊歩さん)
「私がこの事件のあと強く感じたのは、私たちはますます自分らしく生きていく必要がある、ということです。自分らしく生きることや、幸せに生きる能力すらないと決めつけてくる社会に対してできることは、自分らしく生きることです」(宇宙さん)
当事者の声があまりに少なすぎる言論空間に、ふたりの力強い言葉を投げ込みたい。そんな思いで収録したQ&Aです。
ふたりによるお悩み相談の企画当初は、「障がいをもつ・もたないにかかわらず、つらい思いを抱いている人の役に立てる本」というコンセプトでした。実際、遊歩さんはピアカウンセラーとして、障がいをもたない人の相談も常に聞いているのです。
ですから本書には、「大切な猫を亡くしました」「仕事を辞めてよかったのでしょうか」「子どもを上手にほめるには」など、〈普通〉の質問も収録しています。アニマルライツや共同親権についてなど、まだまだ一般的ではないかもしれませんが、30年後くらいには常識になっていそうなトピックも盛り込みました。
ただこの連載中に起きたやまゆり園事件をうけて、障がいをもつ方からの質問も意識的に集めて、「差別」というカテゴリで1章(第5章)を立てることにしました。国会議員の発言から雑誌休刊にまで発展した問題にかかわる「人は生産性で測っていい?」という質問や、「障がいをもつ子を産んだら、と 心配です」「子どもの五体満足をのぞむのは当たり前?」の回答をお読みいただければ、ようやく被害者が声をあげられる環境ができはじめた優生保護法への理解を深めることができます。
人に悩みを打ち明けるのがむずかしい世の中。
もし悩みを打ち明けられないでいる人がいたら、どんな悩みにも耳をかたむけ、受けとめてくれるふたりの言葉にふれることから、一歩を始めてみませんか。
2019.02.27 Wed
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タグ:本