今回は、弁護団事務局の笹より、東京医科大学に対する訴訟の様子をご紹介したいと思います。
私たちは、2019年3月22日に32名の女性を原告として東京医大に対する損害賠償請求訴訟を提起しました。その後、2度の追加提訴を行い、8月現在、原告は37名になっています。
1 訴訟における被告・東京医科大学の主張
本件で、被告である東京医大は、私たちの損害賠償請求を棄却することを求めています。東京医大の次のような主張からは、今回の入試における女性差別問題を、被告がどのようにとらえているかを垣間見ることができます(なお、この訴訟の主要な書面は、私たち弁護団のホームページで順次公開していく予定です)。
【東京医大の主張】
①(原告側が、一連の入試手続き全体が違法だと主張しているのに対し)入試は全体として適正に実施された。不正に不合格になった者には補償を提案している。
②本件の得点調整により合否に影響が及んだのは、全受験者の1%程度とごく一部かつ少数に過ぎないし、入試の採点ミスの対応事例からすれば、一部の合否判定に不適切な点があったからといって入学試験の全体が違法になるはずがない。
③女性医師は、就業率、勤務時間で男性と有意な差がある。選択する診療科も男性と違う。
④「本学では、従来より、教育の充実とダイバーシティの推進を率先して実施し、特に女性医師の働きやすい環境の整備に努めてきた経緯があり、だからこそ、不適切な得点調整が理事長や学長の個人的・恣意的判断によって行われてしまった今回の事象は、本学にとって痛恨の極みである」(以上、被告第1準備書面より)。(文中太字はは引用者)
2 東京医科大学の記者会見では…
一連の不正が発覚した2018年8月はじめ、東京医大は、記者会見の場で謝罪をしました。
その際、大学の常務理事らは、「社会の信頼を大きく裏切ることになり、心より深くおわびする」「人の一生に関わる重大なことで、」「誠心誠意対応する」と述べ、内部調査を担当した弁護士も、東京医大に対し、「社会全体を欺いたことを忘れないでほしい。」と再発防止を強く求めました。(文中太字はは引用者)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO33910710X00C18A8CC1000/
当時のこのような大学側の反省、社会全体に対する謝罪といった姿勢と、上記の訴訟における大学側の主張の間に、大きな隔たりがあるように感じませんか?
道義的責任と法的責任は区別されるものとはいえ、訴訟での大学側の主張には、問題の影響の大きさや深刻さを否定し、責任を一部の人間に押し付けるだけでなく、属性調整の背景として女性医師の働き方にまで言及するなど、差別の正当化ともとれる内容すら含まれていますよね。
3 2019年度の入試での改善状況=差別的な取り扱いがもたらしてきたもの
2019年6月25日、文科省が、入試において不適切な取り扱い等があった10大学について、改善状況の調査結果を発表しました。
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2019/06/25/1409128_014_1.pdf
女性を差別的に扱う事例が指摘されていたのは、東京医科大学、順天堂大学、北里大学であり、いずれも改善が認められたと結論づけられています。また、性別による差別など不適切な採点があった可能性が高いと指摘された聖マリアンナ医科大学についての判断は、第三者委員会の報告の内容をふまえるべきであり保留とされています。
東京医大については、不正発覚前6年間は、男女の合格率には、平均して男性が女性に比べて約1.5倍、多い年では3倍以上もの開きがありました。これに対し、2019年度は、不正な得点調整が是正された結果として、直近7年間で初めて、僅かですが女性の合格率が、男性の合格率を上回りました(男性の合格率が女性合格率の0.98倍)(ほかの女性差別が是正された3大学でも合格率の男女差は改善しています)。
2019年度は追加合格者がいた影響もあるかもしれませんが、それを考慮しても、劇的な改善状況を見ると、これまでの得点操作が、いかに東京医大が狙ったとおり、女性合格者を抑制するという効果を上げてきたかが分かります。
2018年度までと2019年度の女性合格率の差は、まさに本来合格とされるべきだったのに、差別的採点方法により、不当に不合格とされた女性たちの存在そのものです。そして、「女性合格率=女性合格者数÷女性受験者数」であることを考えれば、知らぬ間に差別的試験を受けさせられてきたすべての女性たちもまた、低く抑えられた女性合格率(大学側の目標)の一部となってきたのです。
4 被害者の努力が報われる訴訟に
いつの年も、東京医大の受験に向けて、多くの人たちが真剣に努力を積み重ねて、公平に評価されると信じ、受験当日を迎えてきたのだと思います。
今回の東京医大の不正行為によって、努力や信頼を裏切られ、また女性である人格の根幹を否定された悔しさや苦しみは計り知れないと思います。そういった想いをきちんと言語化し裁判所に伝えていくことで、原告の女性たちのみならず、その背後にいる多くの当事者の方々の努力も報われるような訴訟にしたいと思います(これまでの期日で原告の方々が述べられた意見陳述の内容も、ぜひ弁護団HPでご覧ください)。
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