「テレビのバラエティで、ブスとかハゲとかオネエと言っているの、なんとかしたい!」女性ジャーナリストたちの会、薔薇棘で小島慶子さんが話し出すと、そこにいるメンバーたちは「そうだ、そうだ」と共鳴して、あっと言う間にシンポジウムに発展しました。これが本書のはじまりです。
そのシンポジウムの記録と、現状のメディアの問題点を林香里、小島慶子、山本恵子、白河桃子、治部れんげ、浜田敬子、竹下郁子、李美淑、田中東子の各氏が論じたのが本書です。
担当編集者として最初の会合に行ったとき、正直、私は緊張しました。みなさんは私から見ると、第一線で活躍するガラスの天井をものともしない方々だったからです。2019年の初めから出版界を賑わしていたのが韓国の小説『82年生まれ、キム・ジヨン』です。フェミニズム本は売れないと長らく言われてきたので、快挙といってもいいと思います。あの本が売れたのは、主人公ジヨンの人生に、これは私だとどこかで重ねたからではないでしょうか。『足をどかしてくれませんか。』の筆者たちは、ジヨンとは遠い人たちに見えましたが、本書には、女性たちが共感する文章が載ってほしい、そう思い、どこか頭の隅に、一生懸命がんばってもがいているすべての女性たちを思い浮かべながら書いてほしいとお願いしました。
そして集まってきた文章は、「個人的」といってもよい、ご自身のいままでの悩みと苦労と道のりを、ご自身の研究対象、あるいはテーマに結びつけて書いてくださったものでした。
ジェンダーとメディアを研究対象としてもメインのテーマと見なされない悔しさ、受験勉強の末入った大学での男女差別とフェミニズムとの出会い、職場の華女子アナと言われることの拭えない違和感の本質……。ジャーナリストの方々は、就活に行ってさえセクハラを受ける惨さ、企業の働き方そのものがパワハラ、セクハラを生んでしまう仕組み、いまだちっとも変わらない女性観、家庭観のもとに作られるCMと炎上……。また韓国のジャーナリズムの現状を見ることで日本との差異が明らかになりました。さらにこのシンポジウム開催の母体ともなっている女性ジャーナリストのための勉強会、薔薇棘についても語っていただきました。特ダネを取ることだけを目的としない、社会にある問題を明らかにしてともに報道していくジャーナリストたちのつながりの可能性が示されました。
ジャーナリズムは風土を作ると言われているそうですが、それであるならば、もっともっと女性たちの声や抱えている現実が反映されなければならない。声をあげたらみんなで支援できなければならない。もっと女性たちの声が広がり、社会が少しずつでも変わっていくように、本書が小さな一助になるように、そのような気持ちを込めました。(編集者)