本稿は、パリテ・キャンペーン(初出 2020/04/06 07:27)の記事の転載です。

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新型コロナウィルスの感染拡大とその防止策は、わたしたちの日常をどこまで変えていくのか。科学的知見が定まっていないなか、影響が甚大な政治的判断が次々と下されていく。何が正しい判断なのか、答えは後でしかわからない。だけれども、今日の一手が明日の命運を握るのは確かだろう。一つひとつの意思決定が、未来をより良い方向に導くのか、破滅的な方向への向かわせるのかの分かれ道となり、どの結末を迎えるのであれ、わたしたちはそれを共同で引き受けなければならない。

これほど意思決定がわたしたちの生命を左右する状況であるにもかかわらず、日本政府の意思決定は決定的な欠陥を抱える。透明性に欠け、女性がいないという点だ。ジェンダーの視点なくしては、有効な対策は打ち立てられないにもかかわらず。

医療崩壊を避けるためには、医療現場で働く女性たちが働き続けられる環境の整備は喫緊の課題だ。そのためには保育・介護への社会的支援が欠かせない。外出制限によりDV被害者や児童虐待が増えることもすでに報告されており、DVシェルターや相談窓口、児童相談所への予算を緊急に増やす必要がある。経済活動にも深刻な打撃となっており、女性は非正規雇用が多く、シングル・マザーの貧困率が高いことを考えると、個人を対象とした生活支援が不可欠である。

ところが、現時点で打ち出される生活保障は、世帯が単位だったり、風俗従事者を支援金支給の対象から外したりなど、あからさまな差別の上に構築されている。支給対象をなるべく絞り込みたいという思惑がある限り、私たちのなかに無数の分断線が引かれ、排除される人が生み出される。

弱者切り捨ての政策が進み、自己責任論が跋扈し、社会的連帯や助け合いの余裕を失った状況下で未知のものへの恐怖の拡大は、不寛容と差別を助長する。政府が私たちの社会を切り分けるだけではなく、社会の防衛装置が積極的に排除を生み出していく。感染者、そして外国人への差別には最大限警戒しなければならない。

すでに、女性たちの声はさまざまなところからあがっている。ひとり親支援を行うNPO法人しんぐるまざーす・ふぉーらむはNPO法人キッズドアや公益財団法人あすのばと一緒に子ども一人当たり3万円の給付上乗せ支給を求める署名を集め、新型コロナウィルス対策担当大臣に提出した。働く女性を中核とする日本BPW連合会は新型コロナウィルス対策から女性を取り残さないようにと総理大臣宛に要望書を出している(#女性参政権記念ウィーク2020で再掲)。全国シェルターネットはDV・虐待相談窓口の運営継続を求める要望書を総理大臣・厚労大臣働・男女共同参画担当大臣に提出した。また、性風俗で働く当事者団体のSWASHは小学校休校対応支援金の支給対象から風俗従事者を除外しないよう要望書を厚労大臣に提出した。

これからもさまざまな女性たちの声が発せられてくるだろう。その声を誰が受け止め、動いたのか。わたしたちは注意深く見守っていこう。誰が女性たちを真の意味で代表しているのか、見極めなければならない。そして、次の選挙では、女性を代表する議員がもっともっと増えるよう、私たちの票の力を行使しよう。

感染症は感染者の生命のみならず、日本の政治と社会の弱さを衝いてくる。その弱さとは、無力感ではないだろうか。確かに、ここまでの大規模なパンデミックへの対応は未知のことであり、ただただ事態を見守るしかないと言う諦観にとらわれるかもしれない。しかし、パンデミック発生の前から、日本社会には無力感と諦めが蔓延していたのではないだろうか。今ここで、何もできることがないと諦めてしまっては、本当に破滅的な道しか残されないのではないだろうか。

議員の発言や行動を監視するぐらいのことは、家にいてもできる。適切な評価を下し、他の人に伝えることも。わたしたちの票には力がある。政権は世論の動向に敏感だ。2枚の布マスクはじめ、おかしな政策は批判をすれば、変えることができるはずだ。

パリテの実現は、わたしたちが自分の力に気づくことから可能になる。まっとうな政治を取り戻すために、今日できることを自分のいる場所で続けていこう。

三浦 まり(パリテ・キャンペーン実行委員会、上智大学教員)