
短歌を作り、詩を書き、イギリス小説についての論文を書き、文学とジェンダーについて大学で教えている著者による、初めてのエッセイ集です。47のエッセイ(書評を含む)と2つの対談が収められています。文学、美術、音楽、歴史、国内外での講演、「「女の平和」国会ヒューマンチェーン」への参加、両姓併記パスポートなどトピックは多岐にわたります。
「女の鑑(かがみ)」は、近年ジェンダー視点で再評価された19世紀の英国の女性作家エリザベス・ギャスケルについてのエッセイです。妻であり母であるから文学は二の次だっただろうと思われたギャスケルは、実は当時可能な限り、思うままに生きることができた女性でした。
「『嵐が丘』とシブデン・ホール」は、エミリ・ブロンテの小説『嵐が丘』の舞台の一つとされる、レズビアンの女領主アン・リスターの屋敷の訪問記です。暗号による秘密の日記に自分の心と身体の反応を書き残し、数学や経営の才能を持ち、事実上の同性婚を実現したリスターも思うままに生きた人でした。ギャスケルもリスターも、日本でもっと知られてほしい人物です。
「2010年のケンブリッジ滞在とブリッドポート文学賞のこと」には、私が翻訳出版できなかった『フィリス・ボトム伝』と『バーバラ・リー=スミス・ボディション伝』の著者パム・ハーシュを始めとして、在外研究期間中の様々な出会いと発展について書きました。
「「わたし」と「あなた」の融合と乖離 川口晴美の詩集『液晶区』から詩集『lives』まで」は、高見順賞受賞詩人の川口晴美の詩に登場する女たちについての分析です。漫画家岡崎京子のヒロインのような「一人の女の子の落ち方」を描きながら、岡崎的な血と暴力に満ちたタタカイではなく、静かで冷え冷えとして落ち着いたペルソナを通して、交換不可能な他者の生をありのままに認める姿勢を指摘しました。
「生命の花 三宅霧子歌集『風景の記憶』について」は、戦後、家族を養うために服飾デザイナーとして働いた女性歌人を、ジェンダー視点でたどったエッセイです。経済的自立と精神の自由の意識は、〈実力のなきは蹴落とされゆく現実に男をみなの区別はあらず〉という歌や、夫の死後の〈写真の前には何も供えませぬひもじくあらばお帰り下さい〉という歌や、〈青一天昼の眠りの深からずありのままなる尿意もよおす〉という晩年の歌などに表れています。
ブラジル暮らしの経験がある画家・歌人の小林久美子とのメール対話「短歌形式で外国文学と外国語を活性化できるか」、總持寺後堂(当時)の野田大燈老師との対話「女性と仏教 どうして私を産んだのと子供に聞かれたら、どう答えますか?」も、歌人の対談という枠にとどまらない読み物としてお楽しみいただけるのではないでしょうか。
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