「なにやってんだろう私-このままフランスで死にたくない」の物語は、丁度私が62歳になるひと月ほど前から自分なりに精一杯生きてきた証に筆を取ったものです。愛別離苦の人生の、後悔ばかりの日々を追うごとに過去に遡ります。そして26歳まで記憶がよみがえった時、浦島太郎のように大阪の地下鉄で62歳の現実の社会に引き戻されます。そこからまた新しい人生を一人異国の地で真剣に生きてみようと決心した自伝的エッセイです。
 皆それぞれに自分だけのストーリーがあって生きていると思っています。私の場合は53歳の働き盛りの主人を亡くし、子供たちも家を出て、9年間たった一人になりました。ただフランスでの日々、若き時代の日本の日々だけに想いを馳せることは終りにしたかったのです。フランスの家族によってお墓も立てることさえ出来なかったので少し意趣返しになるかもしれません。また主人をせめて本の中に形として残したかった。自分の人生を一度だけ思い切り振り向きたかった。フランスで生まれた子供たちは結婚し親元を離れていく。日本人を母に持ち本当に幸せだったのかは定かではありませんが、子供たちをこの地で、日本の文化と共に必死で育ててきた自負は今でもあります。
 ですが、またあれから5年の歳月が経ち、日本語で書いた本は結局のところ子供たちに読まれることはありませんでした。生きた証に書いた作品で満足だったはずなのに、、、世の中は本当に変わってしまいました。フランス語で残す意味があるのか実際のところわかりません。見失ってはいけない何かを求めて、自分で翻訳し出版する事を決意しました。最初に読んでくれたフランス人の友人の意見は、少し題名がフランス人に強烈すぎないか、子供や孫との確執がよりいっそう大きくならないかと心配してくれました。言語の違いは大きく、今でもニュアンスが分からず戸惑っています。自分が翻訳したのであれば、もしかしてこの直球のつたない文章でも少しは伝わるかもしれない、子供たちに読んでもらいたい、そんな願いがあります。日本語の本は上野千鶴子さんから「日仏を架橋しようとしたひとりの女の軌跡、、、御著持ち歩いて読了、面白かったです。」と感想を寄せてくださって、彼女のネットの中で紹介もしてくださいました。さまざまな読者からも色々な感想をいただきました。
 思い起こせば南仏へ来た当時、県庁で受付事務員の女性に「日本へ帰れ!」と罵倒されたこともあります。それぞれの国が自分たちとは違う人、違う文化を許容できなくなり、多様性を認めず色々な意味で差別が生まれ、格差や生活に困る人が出ています。異国の地に住むのが益々困難になったこの世の中です。このコロナ禍は人間が本当に勝ち抜かなくてはならない試練のような気がします。今だからこそフランスで発表したい。
 翻訳版はeBook と言う形で2月25日よりDecitre, Amazon, Cultura, Fnac....で発売されます。読んでいただければうれしいです。

なにやってんだろう 私 このままフランスで死にたくない

著者:小畑 リアンヌ

文芸社( 2016/01/01 )