子育ての常識から自由になるレッスンーおかあさんのミカタ (こどものみらい叢書)

著者:高石 恭子

世界思想社( 2021/06/30 )


子育てを楽しいと思わなくてはいけない、母乳だけで育てるのが望ましい、3歳まではおかあさんが傍にいないといけない等々、「母とはこうあるべき」という思い込みは社会においても、おかあさん自身においても強固です。
 「おかあさんのこころ」をテーマとする本書は、母親をがんじがらめにする思い込みをひとつひとつほぐし、「おかあさん」なるものへの見方を変えよう、おかあさんはもっと自由になろう、そして周囲の人はおかあさんの味方になろうよ、と呼びかけます。
 著者の高石恭子さんは、京都大学で河合隼雄先生に学び、甲南大学で臨床心理士として、子育て中のおかあさん方のカウンセリングや、学生相談室のカウンセリングに30年間携わってこられました。
 二人の娘さんを育てるなかでの具体的なエピソードをたくさん引きながら、妊娠・出産・子育てを通して大きく変化するおかあさんのこころに寄り添って書かれています。子育てのゴールに向けて、子どもから離れていくための心構えも説かれており、子育ての途上にあるおかあさんたちの励ましとなることでしょう。

【目次】
はじめに 「子育ては楽しい」のワナ
●新米おかあさんの経験
第1章 赤ちゃんとの出会い――おかあさんもまた「生まれる」
第2章 おっぱいのしもべ?――近づきすぎるとそれしか見えない
第3章 イヤイヤ期の到来――勝ってはいけない闘い
第4章 三歳まではなぜ大切か――「三つ子の魂」に刻まれていること
第5章 おむつは布か紙か――忠告をふるいにかける
●頑張らない子育て
第6章 母親だけではできないヒトの子育て――おとうさんを同志に
第7章 「私が」頑張ってもうまくいかない――子育てはチームで
第8章 きょうだいを育てる――葛藤がきたえる絆 
第9章 負の感情との付きあい方――「話す」ことで「離す」
第10章 距離という劇薬――ほどよい母親でいるために
●こころを解き放つ
第11章 内なる子ども・内なる母――こころの声に耳をすます
第12章 罪悪感という友だちと別れるコツ――負の因果関係にとらわれない
第13章 「別れ」のレッスン――寂しさと誇らしさと
第14章 子育てのゴール――ひとりでいられる力を育む
第15章 育てあげの風景――自分の人生を生きる
あとがき

 「母とはこうあるべき」という考えからは距離をとっているつもりだった私自身、わが子を産んだ直後、母乳が出なくて「母親失格」と号泣しました。出産の疲労から回復する間もなく始まる数時間おきの授乳、慢性的な睡眠不足でふらふらになりながらも小さな命への責任を負っているという緊張感、次々とやってくる親として初めての経験への戸惑い。子育ては楽しい、と単純には言いきれない現実がそこにはありました。
 仕事に復帰すると、綱渡りのような生活が始まります。子どもはしょっちゅう熱を出し、保育園を休みます。その後、看護疲れで自分も倒れます。いつ休んでも誰にも「迷惑」をかけることがないようにと無理を重ね、体調を崩してしまいました。かわいいわが子を前にしても、疲れ切って笑えない。そんな私を、「母親としてどうなの?」とこころの声が追い打ちをかけます。
 暗いトンネルから抜け出すことができたのは、家事の大部分を引き受けてくれた夫のサポートと、保育園の先生方はじめ身近な大人たちに慈しまれすくすくと育っていく子どものエネルギーがあったからです。そして、子育てを終えた年配の女性たちが差し伸べてくれる手にもどれほど救われたことでしょう。しんどいときはSOSを出したらいい、借りられる手は遠慮なく借りたらいい、罪悪感は百害あって一利なし、そんなふうに思えるようになって、ずいぶんと肩の力が抜けました。
 こうした経験から、「おかあさんへのケアが必要」と強く思い、本書を企画しました。

 子育ては楽しいというイメージに縛られているほど、息苦しいものになってしまいます。子育ての過程でわきおこる負の感情や子ども時代を生きなおす苦しみとどのように向きあえばいいのか、「私のせいで…」「私の育て方が悪かったから…」という母親特有の罪悪感から解放されるにはどうしたらいいか、子と親が互いに自立していくために必要な心構えとはなにか――。
 本書は、頑張りすぎているおかあさんたちにとってヒントとなるレッスンがいっぱい詰まっています。編集しながら、幾度も目からウロコが落ち、自分を縛りつけていた糸がほどかれてゆきました。
 これからおかあさんになる人、新米のおかあさん、そして、おかあさんを支える人々にぜひ読んでいただきたいです。