*夢?現実!上野千鶴子氏講演会決定!*

2019年春 T女子高校 着任2年目

 私たちが「K女の女性学」を始めた2019年4月、ある入学式の祝辞が社会現象を巻き起こしていた。TVで繰り返し流される祝辞と、その凜とした姿に私たちプロジェクトメンバーもすっかり魅了されていた。「時の人」となった上野千鶴子氏の存在に勇気づけられ、勝手に「私たちに追い風が吹き始めた」と感じていた。やはり私たちが始めたことは間違っていなかった。

「K女の女性学」の特色の1つとして、多くの著名人による講演会を計画しており、すでに依頼していた講師の方々からは快諾を得ていた。うーん、なかなかいい滑り出しである。
 プロジェクトメンバーの一人が、「教頭先生、上野先生を呼びましょう。」と私に耳打ちした。「え?冗談でしょ?」県立高校が招へいするには大物すぎてあまりに大胆な人選である。先生の多忙なスケジュールと予算的にも夢のような話であると思った。しかし、そのメンバーは、「女性学にぴったりです。上野先生しかいません。」と何度も真顔で繰り返した。とうとうその言葉に突き動かされ、気付いたらパソコンに向かって「私はG県立T女子高校のTと申します。突然のメール大変失礼いたします…」とパチパチとキーを打ち、送信をクリックしていた。今でも何とも大胆で図々しい行動であったかと自分で驚いてしまう。忘れもしない2019年4月28日の昼下がりのことであった。
 すると、驚いたことにその約1時間後…。受信が記録されている??「Tさま メイル拝見。高校で女性学、必要です!大学へ行ってからでは遅いです。それにジェンダー研究とは言わず、女性学と名乗っていらっしゃることにも好感を持ちました。女子校ならではの試みですね。日程とテーマ次第です、ご提案ください。うえの」え?ホンモノ?本当に?えーー!!上野先生ご本人からのお返事だった。何事も諦めずにチャレンジしてみることの大切さをこのときほど実感した瞬間はない。

 その後、どうしてもお目にかかって直接お礼を申し上げたいと思い、新宿で行われた講演会に出かけ、1番前の真ん中の席を陣取った。時間はあっという間に流れ、質疑応答の時間になった。次々と手が挙がり、先生はテキパキと回答していた。ある女性が、女の子を育てる上での悩みを話していたとき、感極まってポロポロと泣き出した。先生は、彼女の話を黙って聞いていたが、少し間を置いて「子育て、辛いんだね。」と優しくお声をかけた。「弱者の味方」である先生を身近に感じた瞬間であった。
 講演会後、サイン会が行われ、私も胸をドキドキさせながら列に並びその時をじっと待っていた。いよいよだ!ホンモノの上野先生と目が合った。「先生、私、G県のT女子高校のTです。この度は、厚かましいお願いをお受けくださりありがとうございました。」一気に喋り、名刺を差し出した。私と名刺を交互に見ていた先生は、「あ、あなたがTさんね。」とお声をかけてくださり、横に積んであった先生のご著書「女ぎらい」を1冊取って表紙裏に私の名前をサラサラとお書きになりながら「県立の女子校ってどんな感じなの?」と、いくつか質問をされた。緊張していたためか、この時に何とお答えしたのかよく覚えていないのだが、先生が「うんうん」と頷きながら、「あら!また書いちゃったわ。」と、笑いながら「はい。」と2冊目の私の名前が書かれた「女ぎらい」を渡してくださったことは鮮明に記憶している。「とても優しくてチャーミングで素敵な方であった。」と、帰りの電車の中で余韻に浸りながら、私は1人でニヤけていたに違いない。

第一回目はこちらから https://wan.or.jp/article/show/9635