
河野銀子・小川眞里子編著 横山美和・大坪久子・大濱慶子・財部香枝著
『女性研究者支援政策の国際比較――日本の現状と課題』明石書店 2021年11月
WANの紹介コーナーでは、本書のようなテーマはあまり論じられることのない地味なものかもしれません。でも私たち6人は、科学技術分野における女性研究者の数が増加し、せめて国際水準に達して欲しいとずっと思っていて、このたび女性研究者の支援政策に関する標記の共著を出版しました。本書は2部構成で、第1部では米国、欧州連合、中国、日本における女性研究者増加政策の比較を意図し、第2部では米国、中国、日本で実際に女性研究者増加のために尽力してきた女性研究者にインタヴューを行って一般書籍や文書類には反映されにくい個人的な思いなど質的調査に焦点を定めました。実際に女性研究者とくにSTEM(科学・技術・工学・数学)分野の女性研究者の少なさは、早くは1980年代から米国で、そして21世紀が始まる頃から広く世界的問題として議論されるようになりました。
わが国もスタートとしてはそれほど後れを取ったわけではないのですが、20年近い歳月が流れてみると、世界の潮流から大きく取り残されていることがはっきりしてきました。2020年までに社会で指導的地位を占める女性割合を30%にまで高めようという目標が2003年に立てられましたが、結局達成できず現状の伸び率ではさらに約40年を要するということが明らかになっています。研究者に占める女性の割合が未だ17%にも達せず、OECD加盟国中最下位。しかも日本は20年間近くこの不名誉な記録保持者なのです。
なぜ女性研究者を増やさなければならないのでしょうか。少子化により将来の研究人材の不足が懸念される中、科学技術立国として国の繫栄を支えてきた科学技術力を落とさぬためには、これまで参画が少なかった女性人材の発掘は必要不可欠です。そしてさらに女性が研究に参画することによって、量を補うばかりでなく、研究人材の多様性が科学技術の質にも変化をもたらし、さらに質の向上も期待できることを示す証拠が増えてきて、女性人材増加のメリットは世界的な共通認識になってきています。科学技術分野への女性の参画は、女性問題であると同時に知識問題でもあるのです。
比較的話題になるのが政治経済分野での女性の参画の少なさですが、科学技術分野への女性の参画もとても低い状況です。欧米の女性研究者支援事業に学び、また近年躍進著しい中国の政策にも学んで、日本は今こそ本気になって女性研究者増加政策に取り組むべき時です。日本の女性研究者の現状を国際的に位置づけ、女性割合が低い背景を探るために行ってきた共同研究の成果に関心を持っていただき、次の一歩に踏み出せたらと心から期待をしています。(文責 小川眞里子)
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