男性と女性の脳は、平均的に見れば性差がある、という。
「女脳・男脳」という言葉はいかにもうさんくさいけれど、どうも「性差はないとは言えない」というのが科学的に正しい見解とされているようだ。結局、性別による脳の違いはあるのか、ないのか?
イスラエルの神経科学者である著者のジョエルは、遺伝か環境かにかかわらず、人の脳は数々の「女性的な特徴」と「男性的な特徴」を合わせ持ち、一人ひとり特有のモザイクになっていることを研究によって明らかにした。男性的な脳の特徴をより多く持つ女性もいれば、女性的な脳の特徴を多く持つ男性もいて、さらにその脳のモザイクは〈一生を通じて変化し続け、そのパターンは万華鏡の色付きピースのように融通無碍に変化する〉(p64)という。
だから、たとえ性別による脳の違いがあっても、そもそも性別のみで人の脳を分類すること自体に、あまり意味がないのだ。
数学や機械に強く、料理も得意な女性や、おしゃれで子ども好きで、論理的な男性はたくさんいる。考えてみれば当たり前のことなのだが、人はなにかといえば男女二つのグループに分類するクセが染みついているらしい。赤ちゃんは、生まれた瞬間から(いや、生まれる前からすでに)ジェンダーに応じて異なる扱いを受けている。
ジェンダーバイアスは社会にあまりにも深く根付いていて、大人たちは知らず知らずのうちに子どもたちを型に押し込めている。二人の子をもつ親としても、それが子どもたちの未来の可能性を狭めてしまうことが恐ろしい。本書によって、〈子どもは生殖器の形態にかかわりなくさまざまな選択肢を与えられるべきだ〉(p143)と考える人が増えてくれたら嬉しい。
◆書誌データ
書名 :ジェンダーと脳――性別を超える脳の多様性
著者名:ダフナ・ジョエル&ルバ・ヴィハンスキ
翻訳者: 鍛原 多惠子
頁数 :208頁
出版社:紀伊國屋書店
刊行日:2021/8/31
定価 :1980円(税込)