
韓国の女性団体のデモ 韓国女性新聞
2022年2月26日に開催した「第1回W-WANおしゃべり会:夫婦別姓-各国事情」では、韓国、中国、シンガポール、イラン、コロンビア、ドイツ、日本出身・在住のW-WANメンバーがそれぞれの国の夫婦別姓をめぐる事情を紹介しました。
そのなかから今回は韓国の事情について、おしゃべり会でのお話をまとめ追記したものをご紹介します。
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夫婦別姓-韓国の事情

韓国女性団体連合 2003年戸主制廃止を促す決意大会 韓国国会前
韓国では、夫婦が別姓を使う。韓国女性は結婚しても、自分の父親の姓(旧姓)を使うのだが、これは女性の地位が高いからではなく、家族の一員として嫁を認めない伝統的な慣習に基づいている。では、子供の姓はどうか。現在、韓国の民法では、夫婦の合意がある時、子供に母親の姓をつけることが可能だが、普通、子供は父親の姓を使う。子供が大人になってから、自分の姓を母親の姓に変えたい時は、簡単には変えられない。

韓国女性団体連合 国会前一人デモ
戸主制との闘い
子孫は父系を継承するものとみなし、父姓のみを名乗らせる、これが自然だと考えることを「父姓主義」という。2005年まで、韓国の民法には「子は父の姓と本(先祖の故郷)に従う」という条項があった。このような韓国家族制度の根幹となった制度は「男だけ家族を統率する戸主になれる」という戸主制であった。たとえば、女性が結婚したら、その女性の戸籍は、父親の戸籍から夫の戸籍に入るが、離婚したら、父親の戸籍に戻る。父親が死んでいたら、兄か弟の戸籍に入る。また、結婚していて夫が死んだら、息子の戸籍に入る。戸主の地位相続の順位は、長男、次男順。息子がいない時だけ、娘が戸主になれた。

戸主制廃止運動本部 国会前一人デモ
また、女性が離婚して子供を育てている場合、戸籍では女性と子供の関係が、女性=子供の同居人と記載されていた。だから、離婚している女性の子供がパスポート、通帳を作るときなどは、父親(離婚した夫)から必要な書類をもらわなければならなかった。このような家族制度が戸主制であり、きわめて性差別的な制度であったので、今から17年前の2005年、女たちの闘争によって戸主制が憲法に違反していると違憲の判決が出て、廃止された。最初に戸主制廃止の主張が出たのは1950年代だったから、半世紀がかかってようやく廃止されたといえる。

街頭署名運動 ソウル市女性家族財団のアーカイブ
特に、民主化以降の1990年代から、韓国社会の家父長性に気づいた女性たちのいろいろなデモ、抗議が激しく展開された。女たちのデモ、国会前の一人デモ、街頭署名運動などがとても活発に行われていた。1999年韓国の女性団体が連帯して「戸主制廃止運動本部」を発足し、2000年には多くの市民団体が加わり、137個の団体から構成された「戸主制廃止市民連帯」が結成され、違憲訴訟を推進した。韓国女性団体連合は「戸主制被害および不満ホットライン」電話を設け、女たちの経験した事例を集めた。

戸主制廃止後、喜ぶ女性たち
子供の姓を母親の姓にできるのは、婚姻届けを出すとき
戸主制の廃止以降、改正された民法では、カップルが夫婦婚姻届けを出す時、合意書を提出すれば、子供の姓に母親の姓をつけられる。婚姻届の問4番には「子供の姓を母の姓と本にすることについて協議しましたか」と書かれているが、この質問に「はい」をチェックして合意書を出す。だが、婚姻届を出した後から、たとえば、子供の出生届けを出すときは、母親の姓にすることはできない。訴訟するしかない。
また、変化が起きている
2021年11月、結婚8年目に子供を生んだある夫婦は家庭法院(裁判所)の変更許可を得て、生まれて六ヶ月になった子供に母親の姓をつけた。2020年9月、20代のペ・セジョン、ペ・セジン姉妹も、裁判を起こして、自分たちの姓を母親の姓に変えた。姉妹は裁判の請求理由について次のように述べた。
「私たち姉妹は、多くの韓国人と同じく、父親の姓をつけて生きてきました。戸主制が廃止される前に生まれて、母親の姓を選ぶ機会がありませんでした。憲法に基づき、父親の姓から母親の姓に変更することを求めます。私たちの姓を変えることによって、父親の姓に従うのは当然なことではなく、尊厳と自律性が重要だということについて考え直すきっかけとなってほしいです。」
ぺさん姉妹は、長らく戸主制廃止運動に奔走してきた母親のペ・ジンキョンさんに対する尊敬、自分の意志で生きていこうとする韓国の女性といっしょに進もうとする勇気から、新しい行動を始めた。
最近の世論調査では、韓国人の70%が子供の出生届けを出すときも、姓を選べられるように制度を改善することに賛成しているという結果が出た。これからも、女たちや、平等と尊厳の権利を信じている人々によって、みんなのために意味のあるいい変化が起きるだろう。

セジンさん(左)が母ジンキョンさんに感謝状を贈る
裁判の勝訴を祝う家族パーティで、ぺさん姉妹は、母親のぺ・ジンキョンさんに、
「戸主制廃止のため闘って私たち二人の娘が未来を夢見る機会を作ってくれて感謝します」
という感謝状を贈った。

裁判勝訴を祝うセジョンさん、セジンさんの家族パーティ
そして父親には、
「すばらしい未来とジェンダー平等な世の中を作るための勇気に感謝します」
というメッセージを伝え祝った。
*族譜と韓国の父姓主義
父系血統主義をあらわしている「族譜ぞくふ」というのがある。族譜は、朝鮮時代の初期(15世紀)、支配階級である「ヤンバン」の血統を証明するもの、身分制の秩序を維持させる目的として作られて、男女ともに記録されていた。朝鮮時代の中期(17世紀の末)から男だけが記載されてきた。朝鮮時代の後期(18世紀)になると、多くの平民が軍役から逃れるため、没落したヤンバンから族譜を買って「ヤンバン」となり、18世紀の末には「ヤンバン」が人口の90%を上回ることになった。今日の韓国では、都市化、個人化なども影響して、族譜は旧来の価値が色あせてきている。俗語で「族譜」とは過去の試験問題のことを意味している。
韓国で有名なフェミニスト・アーティスト尹錫男(ユンソクナム、83歳)は、作品 『 族譜 』(1993年)で、男性支配、家父長支配社会を厳しく批判して、女たちの共感を引き起こした。
参考:https://faam.city.fukuoka.lg.jp/collections/2649/
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