
7月24日(日)、祇園祭「後(あと)祭」の巡行を見送った後、同志社大学へ向かう。一般公開シンポジウム「フェミ科研と学問の自由」に参加するために。
「国会議員の科研費介入とフェミニズムバッシングを許さない裁判」支援の会に賛同して、提訴以来、この3年間、京都地裁の傍聴に毎回、駆けつけた。そして2022年5月25日、第一審判決。傍聴券の抽選に外れて外で待機していたら、原告側の請求棄却、「不当判決」の速報に、もう、がっかり。ほんとに、なんということだ。
この裁判は、科研研究(基盤B)「ジェンダー平等社会の実現に資する研究と運動の架橋とネットワーキング」(2014年度~2017年度)研究グループの共同研究者が、杉田水脈衆議院議員に対して名誉毀損を訴えたもの。2019年2月12日、4名の共同研究者が京都地裁に提訴した。
杉田議員が、「慰安婦」問題を扱った研究を「ねつ造」と決めつけ、フェミニズムへの無理解により研究を貶め、経費使用に不正疑惑をかぶせ、さらに「反日」のレッテルを多用して「国益を損ねる研究に科研費を助成することは問題だ」と各種メディアで誹謗中傷を繰り返したことに対し、原告側は「学問の自由への攻撃。学術研究への権力の介入を許さない」と提訴。原告は牟田和恵(大阪大学)、岡野八代(同志社大学)、伊田久美子(大阪府立大学)、古久保さくら(大阪市立大学)の4名のみなさん、WANのお仲間だ。 (フェミ科研費裁判支援の会 https://kaken.fem.jp/)

「不当判決」から2カ月後の7月24日、「フェミ科研と学問の自由」の公開シンポが開かれた。この判決の背後に何があるかを、4人の報告者が、それぞれの学問分野から、まさに謎を解くように明らかにする、実に充実したシンポジウムに参加できたことに感謝。
同志社大学フェミニスト・ジェンダー・セクシュアリティ研究(F.G.S.S.)センターの秋林こずえさんの挨拶の後、杉田水脈の誹謗中傷の言動を、櫻井よしこ「言論テレビ:櫻LIVE」で一部を見る。4年前の夏、90代の母と叔母を熊本から京都へ迎えるため熊本に滞在中、この言論テレビを提訴資料の一つとして文字起こしのお手伝いさせていただいたことがある。
第1報告は、庵逧由香(立命館大学)「朝鮮研究・歴史研究と日本の政治介入」。庵逧さんは「朝鮮強制連行真相究明全国ネットワーク」共同代表。2016年2月26日、杉田水脈議員が衆議院予算委員会で質問。「徴用工問題に科研費が注がれている。慰安婦問題の次に徴用工問題が反日プロパガンダとしてばら蒔かれている」と中傷。元ネタは産経新聞の記事のみ。
2015年、「明治日本の産業革命遺産」登録の際、ユネスコ世界遺産委員会の諮問機関ICOMOSからの要請に「(軍艦島)等での強制労働、強制動員など負の遺産のinterpretation(説明)を書き加える」ことを日本政府は約束するが、登録後、政府はその指示に従わず、東京の産業遺産センターの展示には「強制連行はなかった。朝鮮人差別はなかった。日本人と朝鮮人は仲良く暮らしていた」とのみ記されている。それに異を唱えたのが「朝鮮強制連行真相究明全国ネットワーク」だったことから、杉田議員の先の中傷となったのでは? さらに2018年10月、韓国「徴用工裁判」判決に日本政府は異議を唱え、「河野談話」や戦時下の日本軍慰安婦、強制動員への「否定」という政府主導の「歴史戦」キャンペーンを押し進めていると、庵逧さんは指摘する。
第2報告は、清水晶子(東京大学)「学問の自由とキャンセル・カルチャー」。清水さんは「学問の自由、大学の自治と社会的責任」について国際大学協会声明(1988年)を引く。「学問の自由という原則は、学術コミュニティの構成員、すなわち研究者、教員や学生が、倫理的規則と国際的水準に関して学術コミュニティが定めた枠組みの中で、外部からの圧力を受けることなく学術的活動を追求する自由と定義できる」。まさにフェミ科研の文脈が、ここにある。
今、「学問の自由」の名の下に何が起きているか。「学問の自由」が利用され、濫用される英語圏での実例を知って、もう、びっくり。学問の自由とは全く別のベクトルで、「差別的・抑圧的な考察や言説に対して、政治的・経済的に力のない側、社会的少数者の側からなされる批判や異議申立てを<学問の自由への侵害である>とする言説が見られる」というのだ。
キャンセル・カルチャーとは「ソーシャルメディア上で自分を傷つけ侮辱する(offend)言葉を言った人を拒絶する振る舞い方」。これに対して今、保守派による「キャンセル・カルチャー批判」が巻き起こっている。マイノリティ側を「自分たちを脅かす敵」と見なし、マジョリティ、力のある側が「自分たちこそ差別・抑圧され、自由を侵害されている被害者だ」として、キャンセル・カルチャーを「検閲」だと捉えるのだ。しかも左翼陣営の著名人さえ同調する動きがあるという。それに抗して若いマイノリティのライターや研究者たちは、「キャンセル・カルチャー批判」を強く批判している。
「学問・言論の自由」を支点とする「抑圧側」と「被抑圧側」の「逆転の構図」がある。抑圧され、周縁化された側からの異議申立てを封じる口実として「学問・言論の自由」が利用、拡散され、力を獲得してきている「現実」がある。清水さんは「2022年時点の学問の自由は両刃の剣であること、学問の自由の特定の利用には警戒すべきであることを忘れてはいけない」と警告し、最後にイギリスのフェミニストSara Ahmedの「自由の濫用」をサバイブするための戦略を引き、「トランスフォビア(トランスジェンダーへの不寛容)や反トランス発言を主張する者との「討議や対話」を拒絶することこそが生き延びるための鍵となる」と結んだ。
第3報告は、飯田祐子(名古屋大学)「誰が誰に語り、誰が誰を読むのか」。原告の牟田和恵さんが「『源氏物語』はセクハラ文学だ」と書いたことを、「世界に誇るあの文学が、セクハラだというの?」と杉田議員は揶揄する。だが、牟田さんの指摘は、すでに承認されている見解でもあり、牟田さんは、その後の文章で「『源氏物語』に登場する、主人公ではない周縁的な女性たちの、現在にも通じる表面化し難い葛藤や苦難を描いている点で高く評価できる」と、フェミニズムの視点からの『源氏物語』の読み直しを書いている。
飯田さんはフェミニズム文学批評の立場から、今、「文学場」(文学を生産する場)がジェンダー化していること。「誰が誰に語り、誰が誰を読むのか」が分析されてきているという。ジェンダーだけでなく、人種やセクシュアリティなど異なる力学から、女性を「一枚岩化」しないことが前提にある。さらに読者の「多数性」を指摘し、作者がマイノリティの場合、自分の作品が読者にどう「読まれる」かに意識的にならざるをえない。それを「被読性」と呼ぶなら、「被読性」(読まれ方)が高いものほどテクストの中に「語りにくさ」や「言いよどみ」がある。たとえば慰安婦をめぐる文学作品は、過去には慰安婦の「不可視性」や慰安婦の「描かれ方に問題がある」と指摘されたが、今は彼女たちの声をどう受け取るか、語りにくい声と聴くことの難しさ、あえてそれを聴き取ろうとする作品が生まれてきているという。その一つ、内藤千珠子『「アイドルの国」の性暴力』を引き、「単純に共鳴できないことを前提にしつつ、共鳴しようと考える時、次のステップに進んでいけるのではないか」と多様な読者とのつながりを求めてゆく。
また飯田さんはフェミ科研について杉田議員の「代表性」のもつ影響力を重視する。彼女は「誰に向けて」語っているのか。自分の声を聴いてくれる人たちに向けて恣意的に語るのだが、彼女の「代表性」故に、その言葉は不特定多数の、宛先なき人たちにも伝播していく。一方、彼女は牟田さんと直接向き合い、意見を交わそうとする姿勢は、さらさらない。そういえば杉田議員は一度も地裁の法廷に現れなかったのだ。裁判から逃げているんだ。
牟田さんが書いたものの一部を切り取り、自分自身の「代表性」を機能させ、自分の共同体を強化するためにのみ「敵」をつくって発言する。分断を煽るための「中傷」の構造自体をこそ問う必要があると、「読者」について考えてきた飯田さんは強調する。
最後の報告は、高山佳奈子(京都大学)「法制度から見た名誉毀損と科研費」。高山さんは日本学術振興会学術システム研究センター専門研究員として科研費の審査に過去4年間、従事してきた。その立場からも今回の判決には憤りを覚えるという。
「名誉」とは何か。法律上、「人に対する社会的評価」であり、「毀損」とは「社会的評価を下げる中傷的な危険のある表現を発すること」。名誉棄損は民法でも刑法でも採用され、しかも民事は刑法の名誉棄損罪よりも広く、損害賠償請求が認められているという。
高山さんは今回、「裁判は勝つ」と思っていたという。だが、司法の闇は深い。杉田議員がいう「ねつ造」とは、誰が読んでも評価を下げる、100%、否定的評価なのに、判決は「社会的評価を下げる表現ではない」としたのだ。
「お手盛りの審査をしているのではないか」と批判された独立行政法人日本学術振興会もまた、名誉棄損されている。科研費の審査は何重にもチェックがあり、不当なことが行われていないかを厳しく審査する。審査員の選定は募集枠組みごとに専門領域から多様な候補者リスト原案を作成し、複数の専門研究員が人選に偏りがないかをチェックし、必要に応じて修正。審査後も、利益誘導や不正がなかったかを厳正に審査することはいうまでもない。
では判決の問題点は何か。判決文は「「ねつ造」との表現は、特に原告の研究を対象としてそれが虚偽の事実をもとにしてされたものであるとの事実を摘示するものとは認められない」と、わかりにくい日本語で書かれている。しかも「ねつ造」を「名誉棄損ではない」と何度も繰り返す。その裏に何があるか。「裁判所が極右勢力による攻撃を恐れて、このような判決になった可能性があるのではないか」とも思う。杉田議員を支持する勢力の正体が、今、白日のもとに明らかにされたばかりだ。
さらに裁判官は「女性」国会議員の杉田議員の影響力を「幼稚園児がいっているようなものだ」と過小評価する。「女性には判断能力がない」「影響力がない」とする「女性蔑視的メカニズム」が司法自体に働いているのではないかとさえ思いたくもなる。原告が女性研究者4人だったこともまた、それに重なるのではないかと、そう思わざるをえない面も否定できない。
高山さんは「国際刑事法学」の観点から戦時に大規模人権侵害がなかったかのように宣伝することが犯罪として扱われている国が少なくないとし、日本が行った戦時人権侵害についても、「なかった」とすることは「ヘイトクライム」と評価されるという。最後に上告に向けて、「研究者コミュニティは事実の歪曲や隠蔽と今後も闘っていく必要がある」と、持続的な闘いを強く呼びかけた。
そのあと海外滞在中の牟田さん(冒頭、牟田さんからメッセージあり)を除く原告3人からのコメントと会場からの質疑応答があり、4時間以上にわたるシンポジウムが終わった。
第二審、控訴審の大阪高裁での第1回口頭弁論が10月7日(金)に決まった。これからもずっと、支援を続けていくからね。
ことのほか暑いこの夏。3年ぶりの祇園祭も終わった。7月17日の前(さき)祭と24日の後(あと)祭の巡行も夏日和となった。小6の孫娘は役行者山で「粽どうですか?」と粽売りのお手伝いをする。
「厄祓い」の祭に事寄せて、「あたんする」(仇・仕返し)ではないが、現政権を封じるために、岸田改造内閣・杉田水脈「総務政務官起用」に抗議し、安倍晋三元首相「国葬阻止」を、叫ぼう。

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