
2024 年度日本女性学会大会
シンポジウムテーマ:女性学を継承する
日程:2024年6 月8 日(土)、9 日(日)
会場:武蔵大学江古田キャンパス1 号館(正門入ってすぐ左手)
( 東京都練馬区豊玉上1 - 26 - 1)
参加費:会員500 円/非会員1,000 円
詳細はhttps://joseigakkai-jp.org/
https://joseigakkai-jp.org/wp/wp-content/uploads/2024/04/news161Web_shusei.pdf
をご確認ください。
趣旨説明
日本女性学会が設立されたのは、1979年である。アメリカの諸大学でwomen’s studiesの事情を調査した井上輝子が賀谷恵美子とともに「女性学」を提唱したのは1970年代半ばで、これが女性学会の設立につながったのである。 女性学は、既存の学問が圧倒的に男性によって担われ、男性の社会的経験に基づいて理論化・体系化されてきたことへの問題意識からはじまった。その歪みをただし、新たな方法論や概念・理論や解釈を作りあげ、性差別がどのようなものであり、どう再生産されるのかを解き明かそうとしたのである。
また、女性学は、性差別の撤廃を求めるフェミニズムの学問的表現としての歴史を持つ。日本女性学会が創設されてから約半世紀の間、男性学が誕生し、ジェンダー研究という名称も加わり、さらにはセクシュアリティの研究、またジェンダーとのさまざまな交差を問うような 多様な研究の展開がおこなわれてきた。
こうした歴史に鑑みて、いま、女性学の固有性や現代的意味を改めて問う必要があるのではないかと思われる。 シンポジウムでは、日本の女性学の創設世代の研究者として上野千鶴子、続く世代の研究者として佐藤文香に女性学が何であり、どう継承していくべきなのかについて論じていただき、ディスカッサントとともに議論していく。
上野千鶴子「女性学からジェンダー研究へ:制度化への道」
女性学はウーマンリブを契機として、キャンパスの外で民間学として始まった。井上輝子が女性学を「女性の・女性による・女性のための研究」と定義したことは、国内で物議を醸した。その後、女性学は女性センター、公民館などの社会教育の場と共に、大学での自主講座、総合講座を経て、学問の分野で市民権を獲得するようになった。その後80年代には男性学も誕生し、さらにジェンダー概念が精錬されることによって、より領域横断的な「ジェンダー研究」へと発展するようになった。その過程で大学にも「ジェンダー・セクシュアリティ」を主題とする専門課程が生まれ、講義やゼミが開講され、アカデミアにおける知的再生産のサイクルのうちに制度化されるようになった。わずかとはいえポストがつき、科研費のうちにジェンダー細目が設置され、研究者の養成が可能になった。女性学は制度化を目指してきたし、それ以外の選択肢はなかったが、それを以て女性学の「体制内化」という批判は当たらない。
本シンポでは女性学・ジェンダー研究の歴史をたどりながら、担い手の世代交替とその効果を論じたい。パイオニア世代は運動と接点を持っており、女性学とフェミニズムは車の両輪と考えてきたが、第二世代は学知の再生産の制度のもとで研究者として自己形成をしてきた。さらに第三世代は新しい情報ツールのおかげでアクティビズムとの接点と当事者性を強く持つようになった。また女性学・ジェンダー研究は総論よりも、実証データを積みあげる各論にシフトしてきたように見えるが、それは女性学に限らず、ポスト一般理論の状況にある各ディシプリンに共通した動向である。今やあらゆるディシプリンにジェンダー研究者がいるが、とはいえ、ジェンダー研究を主題とすれば周辺化され、ゲットー化される傾向は変わらない。ジェンダーが領域横断的な概念としてあらゆる学問分野で主流化されるかどうかは(ジェンダー政策が政治の分野で主流化されるかと同じく)、今後の課題である。
佐藤文香「女性学とジェンダー研究のあいだ―なにが異なり、なぜすれ違うのか」
本報告では、ジェンダー研究が制度化の道を歩み始めた1990年代を大学のキャンパスで過ごした世代として、女性学創設世代とポスト・ジェンダー研究制度化世代との間にある認識のギャップの架橋を試みたい。女性学創設世代は「ジェンダー」概念にどのような有用性を見いだしたのか。その「ジェンダー」概念はポスト・ジェンダー研究制度化世代のそれとどのように異なっているのか。両者にとって「セックス」とはいかなるものであり、それはわたしたちの「解放」や、それに向けた戦略のイメージとどのようにかかわっているのか。
もちろん、女性学やジェンダー研究との出会い方は個々人によって大きく異なる。本報告では、便宜的に「世代」という用語を用いるが、年齢が両者をクリアにわける線ではない。いつどのように女性学/ジェンダー研究に出会ったのか、運動を通してなのか学問としてなのか、日本でなのか外国でなのか、大都市圏でなのか地方でなのか、さまざまな要素により幾通りものヴァリエーションがあるだろう。報告ではあえて理念型として「世代」を用いて整理をするが、その背景には、大学で教育に携わる中で長年「世代」間ギャップについて考えてきた報告者自身の経験がある。
わたしたちのものの見方は置かれている位置によって規定される。各々の視界の限界を見定めながら見解を交わしあうこと、女性学もジェンダー研究もそのような対話を通じて発展してきたことを、会員と共に確かめあうような場にできればと願っている。
パネリスト(五十音順)
上野千鶴子 東京大学名誉教授・認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長・上野千鶴子基金代表理事。1948年富山県生まれ。京都大学大学院社会学博士課程修了。社会学博士。元学術会議会員。専門は女性学・ジェンダー研究、高齢者の介護とケアも研究テーマとする。「サントリー学芸賞」「朝日賞」受賞、フィンランド共和国から「HänHonors」受賞、アメリカ芸術科学アカデミー会員でもある。
佐藤文香 一橋大学大学院社会学研究科教授。専門はジェンダーの社会理論・社会学、軍隊・戦争の社会学。主な業績に共編著『ジェンダー研究を継承する』(人文書院2017年)、監修『ジェンダーについて大学生が真剣に考えてみた―あなたがあなたらしくいられるための29問』(明石書店2019年)、『女性兵士という難問―ジェンダーから問う戦争・軍隊の社会学』(慶應義塾大学出版会2022年)、共編著『男性学基本論文集』(勁草書房2024年)など。女性文化研究賞受賞。
ディスカッサント(五十音順)
加藤秀一 明治学院大学社会学部教授。研究テーマは、性現象の社会学的分析、生殖倫理学。近年は、体細胞系列ゲノム編集などの遺伝子関連技術の意味を「非同一性問題」を軸に考察している。著書に『はじめてのジェンダー論』(有斐閣2017年)、『〈個〉からはじめる生命論』(NHK出版2007年)他。
古川直子 長崎総合科学大学共通教育部門講師。専門はジェンダー/セクシュアリティ理論、S・フロイト研究。主要業績に「『セックスもまたジェンダーである』のかーポスト構造主義フェミニズムにおけるジェンダー概念再考に向けて」『ジェンダー研究』(26巻2024年)など。
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