レンコンの栽培法、歴史、栄養価、料理までをわかりやすくまとめて紹介するガイドやパネルを作成し、実際に料理までを手掛けて、生涯学習教室や親子の会、視察で市外の方が訪れるときなどに分かりやすく伝え、食材の素晴らしをアピールし続けているのが、茨城県小美玉市のレンコン農家の小松﨑由美子さんだ。

レンコンの栽培から栄養価・レシピまで紹介
「視察にお見えになったときにクイズ形式で出しました。『レンコンは、土の中で、どうやって成長しているでしょう?』。すると半分くらいの人は、ゴボウのように縦に植わっていると思っている。実は横になっている。『横』と答えた人に『はい!正解』と言って説明します。パネルを作っていて見せる。レンコンの節の間から花が出て、葉が出ている。その下にレンコンは横になっている。イメージしてくださいね。するとみんな食いついてくる。楽しく聴いてくれる」。

 由美子さんは、丁寧にレンコンのことを紹介するテキストを自ら作成して、営養価からレシピまで、写真入りでまとめたものを持っている。
「レンコンは、みかんやダイコンよりビタミンCが豊富に含まれています。風邪の症状には良いといわれていますね。ビタミンCがレンコンはデンプン質で守られて損なわれることなくお腹に届くんです。風邪をひきやすい秋冬にはジャガイモ、ニンジンと同じように、正月だけではなく毎日食べてくださいね。3センチでいいです」。

料理を作り食べ方までSNS発信
 由美子さんは、フェイスブックでも、レシピや食べ方を紹介している。農産物直売所「大地のめぐみ」のインスタグラムにタグ付けして宣伝もしている 。

左:家族のために作った天ぷら。一番、シンプルな料理が喜ばれた  右:レンコンのハンバーガー

小松崎 由美子(@yumikosann) • Instagram写真と動画
JA新ひたち野 直売所『大地のめぐみ』公式
農産物直売所 大地のめぐみ(@daichi_megumi) • Instagram写真と動画

 それだけではない。ユーチューブでの配信も行った。ここでは、小美玉市で作成されたレンコンの資料、歴史から、栽培法、栽培量、品種、環境、品種までがまとめられたテキストを用いて、それも上手に使われている。
「茨城県つくば市に「つくばん」という番組があって、そこで2回ほどゲストで出ました。スタジオに 居酒屋風に作ってあって、そこの女将さん役。そのときレンコン料理を出した。レンコンの一杯入った炊き込みご飯「たまりご飯」を出しました。地元のお母さんたちと考えたものです。小美玉市に合併する前にレンコン栽培をしていた玉里村(たまりむら)があり、名前を残したいねということで生まれた。お米に、マイタケ、ゴボウ、ニンジンなどが入っている。原価も安い」。
 親子 教室や大学などでも講座を開いた。
「社会福祉協議会で子供サロンがありまして、2歳のお子さんを持つ方が対象。レンコンのお好み焼きを紹介しました。『山芋の代わりにレンコンを入れてみたら美味しいよ!』。レンコンの福神漬け。みんなに食べてもらった。レンコン、きゅうり、ナス、ショウガで作る。めちゃくちゃおいしい」。

YouTube【つくばん】 おしゃべり屋台 ゲスト:植田健一郎
https://www.youtube.com/watch?v=s74wvxR872E)
YouTube【つくばん】 おしゃべり屋台 ゲスト:塩谷亮
https://www.youtube.com/watch?v=r6krS-xspT8)
YouTube OmitamaTimes vol.3 ★れんこん料理(2020/11/27 LIVE配信)
https://www.youtube.com/watch?v=KkG0dwp14yM

家族が協力して家事や農業を手掛ける
 現在、夫の哲男さん(56)、長男・海都さん(23)、海琴(みこと)さん(21)、海羽(みう)さん(19)と、義母・文子さん(88)との5人家族。
 農業が稼業。レンコンを3・4haで栽培し出荷している。レンコンは、哲男さん、長男、由美子さん、それに5年目のベトナムからの研修生1名の4名で手掛ける。家族経営だ。売上は2500万円。
 出荷は、農協を通して出荷される。あと個別に農協の農産物直売所に出している。出荷は5月下旬から翌年3月上旬。そのあと植え付けの時期となる。品種は「ひたちたから」。
 夫・哲男さんはレンコン農家 2代目。小美玉市の合併前、住まいのある玉里地区は、旧・玉里村。もともとは稲作地帯だったが、1960年代に、転作奨励金をもらい、多くの農家がレンコンに転作をした。コメの生産が過剰となり始めた頃で、転作を促すことで始まったのである。
「近年は生産者が増えて、あんまりうまみはないですけど」と由美子さん。

レンコンの洗浄。由美子さんと夫・哲男さん 右上は畑 から上がった ばかりのレンコン


 由美子さんの仕事は、レンコンの洗浄作業だ。それに直売所への出荷販売だ。
「午前中に実習生が堀って採ったレンコンを作業場でヒゲ取りをします。レンコンの節の間に根が出ている。それがヒゲ。黒いヒゲを取り洗浄します。スポンジで洗う。7時半頃から12時過ぎまでやる。うちに戻り、家族のご飯を出して片付けて、それから直売所の袋づくりをします。ほぼ毎日。40袋くらいを作る。形のいいA品は、100g100円。形のやや劣るものはB品で、100g50円。食べられるけど見た目が悪いものも、100g25円。これを直売所に出します。1日平均で5000円くらい売れる。月10万円。年間120万円。これを小松﨑由美子の名前で出しています。出したものは売り切れる。楽しいです。買った人が、おいしいと言ってくれる。嬉しいです」。
 由美子 さんは、経理も担当し、青色申告も手掛ける。 料理は家族が手伝ってくれる 。
「朝ごはんは、夫が作ってくれる。昼は長男。夜は、三女が作ってくれる 。冷蔵庫にあるものを上手く使ってくれています」。

大学卒業から結婚してしばらくは企業で働いていた
 小松﨑由美子さんは1969年10月23日生まれ。水戸市で育った。26歳で結婚。
 父親はサラリーマンだった。大学卒業後、茨城県笠間市の石材会社に就職。母親が飲食業を始め、そこに知り合が連れてきたのが、今の夫・レンコン農家の小松﨑哲男さんだった。4年間を経て求婚されて結婚した。その間、由美さんは、アマチュア劇団に入り舞台も立った。
 結婚の条件は、好きなことをさせてもらうこと。農業をするつもりはなかった。
 結婚して新たに茨城県の「茨城フジカラー」に転職。営業を手掛けた。デジタルカメラが出始めた頃だった。仕事は、集合写真から顔を抜き出し葬儀用に遺影にすることだった。しかし由美子さんは、PhotoshopやIllustratorなどを学び、デジタルアルバムのサンプルを作成し、ブライダル関係、ホテル、引き出物店など営業をして、新たな仕事を創りだした。
 残業も多く、夜10時になることもしばしばだった。結婚をして5年、長男を身籠った。
 ちょうどそのころ、育休制度が採り入れられた時期ではあったが、子育てしながらでは、仕事は続けられないのではと会社から言われ、自身も無理と判断し、退職し育児に専念することとなった。しかし、別のP仕事をやってみたいと思い始めてもいた。夫からは農業をしてほしいとは言われなかった。
「その頃、実の母に、『家の仕事をせずに他の仕事を探すというのは、ちょっと違うよ。稼業に背を向けることはするな』と言われた。どうしようと思いました」。
 そんなときに、誘われたのが小美玉市が発行する「おみたMagazine」。ボランティア活動で、住民の人が住民を取材し記事にする。書いたことが字になることに感動し楽しさを知った。
 小美玉市には「小美玉市四季文化館みの~れ」、「小川文化センターアピオス」、「小美玉市生涯学習センターコスモス」などのホールがあり、ホールを活性化させ生涯学習センターの活性化に繋ぐことが推進されている。由美子さんは、生涯学習センターコスモスの実行委員会「コスモスプロジェクト」に参加。
「アーチストを呼んで演奏会をしたり、読み聞かせの会を開いたり、イベントを考え、それを市の予算で考えることができる。それですっかり小美玉市と深い仲になりました」

地域の食のブランド化事業
 そして、由美子さんの大きな転換が訪れる。小美玉市に2010年「茨城空港」が開港。上海、台湾、西安、那覇、福岡、神戸、札幌などを結び、年間約75万人が利用する。その近くに道の駅「空のえき そ・ら・ら」の建設が始まる。ここは、食と農を発信し拠点にしようという計画が生まれる。担当は、当時、小美玉市産業経済部空港対策課の高田勝利さん。
 実は、このプロジェクトに筆者・金丸弘美に声がかかる。どうやら総務省のプロジェクトで手掛けた茨城県常陸太田市「常陸秋そば」のブランド事業が目にとまったようなのだ。詳細なテキストを作成して、歴史・環境・栽培法・品種・食べ方までを詳細にまとめたもの 。

常陸秋そばの故郷 常陸太田の物語/金丸弘美

常陸秋そばの故郷 常陸太田の物語/金丸弘美

 小美玉市でレンコンを中心にブランド化を勧めたいと話があり現地に赴いたのが始まりだ。このプロジェクトで高田勝利さん(現在、行革デジタル推進課)を中心に、多くの地元の人たちに声をかけ食のワークショップを開催していただいた。そのときレンコン農家からの参加メンバーだったのが由美子さんだった。
 高田さんにアドバイスをしたのはレンコンの歴史や品種など履歴を明確にしたテキストを作成すること、役場職員が農家を巡り、レンコンをはじめ、柿、イチゴ、ゴボウなど、どんな産物が地域で栽培されているかを調査に行くこと。そして地元食材で参加型のワークショップを開くことだった。
 高田さんは、緻密に丁寧に、きっちりと形にしてくださった。料理指導をしていただく料理家に馬場香織さんを推薦した。ワークショップは2回開催されて料理は70品目にもなった。参加したみなさんから「小美玉は、なんと豊かなんだろうと」という言葉がもれた。
 この料理会で嬉しそうに楽しそうに常に笑顔を振りまいていたのが由美子さんだった。仲間の女性も誘っての参加でみなさんが嬉しそうに料理作りをしてくれたのだ。
 この料理会で登場したのがレンコンのお好み焼き。料理を習った由美子さんは家で子供たちにホットプレートでお好み焼きを披露したところ、子供たちに「お母さんは天才だね!」と言われたと語ってくれたことが今でも印象に残っている。

由美子さん、実はレンコンはあまり好きではなかった
 実は、あとで知ったのだが由美子さんは、農家もレンコンもあまり好きではなかったのだという。
「レンコンのテキストを作ることは勉強になった。いろんな種類があって、栄養価が豊富なんだと実感したんです。それから実践でワークショップがあって、小美玉にはいろんな食材がある。いままでだとレンコンだとキンピラ、天ぷらなどだった。そうじゃなくて、馬場先生の指導で、いろんな食べ方、味わいもいろいろあるというのが勉強になった。レンコンが、すごい宝物のように思えてきた。あれがきっかけで私が嫁いできた農家の立ち位置が、つまらないものから楽しいもの変わったんです。農業の面白さを気づかせてもらった。食べ方、味わいも学んだ。テキストがあることで、だれにでも自信をもって語れるようになった」と由美子さん。
 作成されたテキストは16ページもある。品種、栽培面積、小美玉市での栽培の歴史。生産量。土壌条件を始め、栽培の様子や、栄養価、ワークショップの様子、料理レシピまでが掲載されている力作。レンコンに50種類もあるというのも、このとき初めて知った。小美玉で主に栽培されているのは「タマノミノリ」「ミノリユタカ」「一捻」。そして由美子さんの農家で栽培されているのが「ひたちたから」。



食のワークショップ

 ワークショップでみなさんが作ったレンコン料理は12種類。
・すり下ろしたレンコンにキャベツを入れた「レンコンのお好み焼き」。
・大豆の煮たもの、玉ねぎ、シイタケ、シメジ、豚ひき肉、レンコンなどを入れて煮た「レンコンと大豆のつくね団子」。
・レンコンのすりおろしと地元の湖「霞が浦」で採れる「ざざ海老」を入れて揚げた「レンコンの揚げ餅」。
・レンコン、かぼちゃ、ブロッコリー、ネギなどオーブンで焼いてポン酢に浸した「ポン酢ひたし」。
・レンコンを醤油,砂糖、七味唐辛子などと炒めた「レンコンのピリ辛炒め」。
・レンコンと豚ひき肉を入れた「シュウマイ」。
・レンコンを酢、ハチミツなどに漬けた「レンコンの甘酢漬け」。
・レンコンに海老を挟んで揚げた「はさみ揚げ」。
・レンコンのみじん切り、ジャガイモのマッシュ、玉ねぎ、牛ひき肉、マッシュルーム、トマトソースなどを入れてオーブンで焼いた「シェパーズパイ」。
・牛蒡、レンコン、えのき、キャベツ、エリンギ、ブナシメジなど出汁で煮た「根菜スープ」。
・レンコンをすって片栗粉で固めて揚げた「レンコンすりながし」などだ。
 由美子さんは、今では、福祉協議会に呼ばれて親子のレンコン教室の講師をしたり、市民団体の集いでレンコン料理を紹介したりと、さまざまな場面でレンコンを紹介している。
「レンコンの美味しさをを一人でも多くの人に知ってもらえたら嬉しい」と由美子さん 。

 現在、小美玉市では特に優れた農産物等を、小美玉ブランド「小美玉のめぐみ」として全国へ情報発信を進めている。由美子さんの夢は、レンコンで試みた食のテキストを広げること。
「レンコンのテキストのことは、農政課も魅力発信課もよく理解してもらっていて、すごく勉強になっている。ワークショップのときに、ゴボウもイチゴも柿も作りました。そのデータをずっと持っていたので、こういうデータがありますと、小美玉市の農産物としていろんな種類のテキストを創るのは先々あるのかなと感じています。小美玉市の食を安定させるには、説明や品物を見せるだけではなく、食べてもらうことがすごく大切だと思っていて、その場を、どう繋いでいくか、それを形にして広げていきたい。それが夢です」。
 参考:https://www.city.omitama.lg.jp/0337/info-0000011247-0.html

食のワークショップで登場した料理たち

●参考文献
常陸太田市「常陸秋そば」のブランド事業を紹介した本。
『田舎力 ヒト・夢・カネが集まる5つの法則』(NHK生活人新書)
小美玉市「レンコン」ワークショップを取り上げた本。
『実践! 田舎力―小さくても経済が回る5つの方法』(NHK新書)