平均寿命が延びることで高齢者の数は多くなり、少子化で子どもたちの数は減り、そして人口全体が少なくなってゆくこと。日本社会にはとくに激しく現れていますが、この傾向は多くの社会に共通にみられるもので、社会政策の分野を中心にさまざまな努力が重ねられているとはいえ、この傾向を逆転できる見込みはありません。
 少子化や人口縮小の弊害はたいへん大きく、この問題と無関係な業界などほとんどないでしょう。ただ、だからといって、もうダメだ、絶望しかない、というのも極端な話ですし、あるいは少子化のないユートピアを夢見てもむなしいこと、いまの目の前の社会をすこしでも生きやすくしてゆかなくてはならないのです。つまりそれが、本書の序章のタイトル「人口縮小! でも、生き心地の良い明日のために」ということだと思います。
 人口が減っている、少子化だ、なんとかせねばということで、「産めよ増やせよ」とまるで戦前・戦中のような雰囲気になりがちですが、それではうまくゆかないことも明らかです。個々人は「社会」のために生きているのではないのですから。たとえば、ウクライナ戦争をおこしたロシアでは出生数が減少、ロシア政府が躍起になって「子どもを持たない考え方」を処罰するという法案が成立するなどしているそうですが、どうでしょうか。そんな社会、ますます子どもを持ちたくなくなるのではないでしょうか。
 「少子化を解決しよう(=子どもを劇的に増やしてV字回復)」ではなく、「少子化で人口も減るけどそれに対応できる生きやすい社会にしよう」というのが、おおむねこの本の方向性ということになります(もちろん、少子化のスピードを多少なりとも緩和させることは望ましいことです)。その思いを本に巻いた帯の「坂道のくだりかた」という言葉にこめました。少子化のスピードはいわば坂道の角度です。
 さて本書では、終章の冒頭、個人的にわたしがとても衝撃をうけたエピソードが出てきます。女性である編者があるところで人口問題について話したとき、(おそらく男性の)参加者から「先生、さっさと女たちに子どもを産ませる方法を教えてくださいよ」と言われたというのです。女性である講演者にこういうことをえらそうに(「さっさと」「女たち」のあたり)言うこともさりながら、少子化の問題解決のために「女たちにどんどん子どもを産ませればいい」と考えている人が、社会の中心的な部分を占めているかもしれないと思うと、……坂道をうまく降りていくのも容易ではありません。

書名:人口縮小! どうする日本?
編者:遠藤薫
頁数:326頁
刊行日:2025/3/31
出版社:東京大学出版会
定価:3190円(税込)

人口縮小! どうする日本?: 持続可能な幸福社会へのアプローチ

著者:遠藤 薫

東京大学出版会( 2025/04/02 )