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「全日本おばちゃん党」の始動式に参加して 藤本伸樹(ヒューライツ大阪)

2012.11.26 Mon

「福祉」「人権」「おっさん政治」をめぐり議論炸裂

各地のおばちゃんがフェイスブック上に集う「全日本おばちゃん党」が11月23日、大阪市内で始動式を開いた。「党」を立ち上げたのは大阪国際大の教員で国際人権法が専門の谷口真由美さん。9月14日、フェイスブックに「オッサン政治劇場に嫌気がさしたという、昨日のFBの書き込みに沢山の共感を頂いたので、『全日本おばちゃん党』(英語名称:All Japan Obachan Party(AJOP))でも立ち上げようかと(笑)」とつぶやいたのがきっかけ。反響が大きくフェイスブック上に「全日本おばちゃん党」をシャレで作ったところ、2カ月半で1,000人近い賛同者が集まっている(11月25日現在)。入党資格は「おばちゃん」のみ(性自認が「おばちゃん」も可)。

フェイスブックでは非公開グループの設定になっているため、「党員」ではない男性の私は投稿を読むことができないため、どんな議論が行われているのか興味津津で始動式の会場に向かった。

受付で、まず小さなシールを渡された。大きな模造紙に8つの政党の党首の写真が並べられ、その下に「好き」「きらい」「この人だれ」「何してるかわからん」の四択のスペースがあり、シールを貼っていくというもの。それから、「全日本おばちゃん党」に期待することを書くコーナーがあった。最後にご褒美に?アメちゃんをもらって着席した。フェイスブックを軸にした集まりならではの趣向として、賛同する意見が出たときに掲げるための「いいね」のカードも配布された。参加者は100数十人で、男性は2割くらいだったろうか。

始動式は、パネルディスカッションの方式で行われた。パネリストは、「とりあえず党代表代行」の谷口真由美さん、「とりあえず副代表代行」の猪熊弘子さん(ジャーナリスト)と早乙女智子さん(産婦人科医)の3人で、総合司会は社会活動家の湯浅誠さん。

最初に、あえて「おばちゃん」と名乗ることについての説明があった。「おばちゃん」は蔑称として使われることがあるけれど、自らを「おばちゃん」と肯定的な姿勢で名乗る心意気を込めているという。

 ディスカッションのテーマは「グダグダ福祉に喝」「トンでも人権問題に喝」「オッサン政治に喝」の3つで構成され、3人の異なった専門領域から歯に衣着せぬ議論が行き交った。奇しくも総選挙が近づいているだけに、どの課題も切迫感があった。

 たとえば、少子化と子育ての課題について、2人ないし4人の子育てをしている母親であるという立場から、問題が山積しているにもかかわらず効果的な政策が講じられていないという意見が3人のあいだで共有された。働く女性に対する妊娠・出産・育休リストラが増えており、子どもを産みたいけど産めないという状況がさらに悪化している。産んでも保育所の待機児童問題に代表されるように育てるのが至難のわざ。小額支給の児童手当だけでは家計が苦しいという。政治家や政府は少子化対策だといいながら、まるで「少子化にする対策」が実施されているようだという辛辣な批判まで飛び出した。

 自民党が衆院選公約に「国防軍」の憲法明記を盛り込んだことや、石原都知事による「日本は核兵器を持って、徴兵制を復活すればよい」という考えに対して、「日本は核をもたなければならないと言うのなら、自分の頭の上に乗っけてください」「徴兵制を復活したいならば、真っ先に自分が行ってください。うちの子は出しません、よその子も出しません」と一蹴した。

「おっちゃん」も「おばちゃん」に続こう

 そのように、「おっさん政治」を次々と斬る議論が炸裂した。しかし、おっさんを排除しようとしているおばちゃんという構図でないという。みんなで生きやすい社会、つまり「分け分け」する社会を目指していくのが目標だ。とかくおっさんは、「自分のものだけ」という発想が強く、その先には自己利益や国益の追求が待っているというのである。

 男性は、「おっさん」から「おっちゃん」になったうえで「おばちゃんマインド」になればいいのではないかという提案が行われた。つまり、「おっさん」は上から目線で、自分が社会を回していると考え、教えてあげようという態度である一方、「おっちゃん」はたとえばわからないことは尋ねるという協調的な姿勢を持っているという考えからだ。

 同時に、「政治はわからへん」となかには遠ざかろうとする「おばちゃん」の底上げも必要であるという意見も出た。

今後、日本維新の会の政策「維新八策」のパロディーとして、女性の意見をまとめたマニフェスト「おばちゃんハッサク」を発表する予定だという。また、世界のおばちゃんを日本に集めて「おばちゃんサミット」を開きたい、と党代表代行の谷口さんは抱負を語った。

あっという間に時間が過ぎた。話し上手な湯浅さんが、3人のおばちゃんのパワーに圧倒された3時間であった。

「全日本おばちゃん党」は実際の政党ではない。とはいえ、インターネット空間や現実世界で「おっさん政治」に喝を入れ、「地域を日本を世界を救うのは、もうおばちゃんしかいませんっ!」と宣言する。始動式の議論でもクローズアップされたが、世界経済フォーラムが毎年発表する「ジェンダー・ギャップ指数2012」では、日本は135カ国中101位という顕著なジェンダー不平等の実態が浮き彫りになった。これはとりもなおさず「おっさん政治」の帰結に他ならない。いま、したたかにしなやかに、社会をよくしていこうとするおばちゃんたちの愛と勇気に呼応して、「おっさん政治」を終わらせるための推進力となりうる「おっちゃん」に、男性たちも自己変革するときではないか、と私は始動式で新鮮な刺激を受けた。

カテゴリー:全日本おばちゃん党

タグ:政治 / 衆院選