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シンポジウム「竹中理論の意義をつなぐ」(2013年2月2日於ドーンセンター)レポート(2)

2013.04.05 Fri

※この記事はシンポジウム「竹中理論の意義をつなぐ」レポートの(2)になります。(1)はこちらから。

二番目にご登壇の北明美さんは、「竹中理論と社会政策」と題され、『著作集』第Ⅴ巻『社会政策とジェンダー』を中心に、第Ⅱ巻『戦後女子労働史論』、第Ⅳ巻『女性の賃金問題とジェンダー』における議論を発表の初出順に整理し、今日的な問題でもあり続ける多くの課題を網羅する先見性や、その根本は変わらず時代に合わせ主張内容が次々と発展していく様子について述べられました。

最初に、今回の報告内容とは直接の関係はないとされつつも、竹中理論全体において、家族機能が「資本にとって冗費とみなされ」労働力の再生産が主婦の私的労働で遂行されるという「家父長制」、賃金に反映される「女子に対する不当な社会的評価」、さらには年功賃金制度を変え「同一価値労働同一賃金原則」を実現するには社会保障制度としての「家族手当制度」の確立との結合が不可欠であることなど、今日的な重要な論点について議論されていることが確認されました。

次に、本論である社会政策に関する視点として、Ⅴ巻における1960年代、1970年代にかけての議論が紹介されました。「育児の社会化」や資本の「合理化の手段」としての女性労働という観点からの育児休職制度の問題点、生存権や「男子と対等に働くための前提条件」として「母性保護」を扱う視点、また、「社会保障における女性の地位」では、労働運動に社会保障への観点が十分でなかったこと、再生産を「奥さん」の役割とし社会保障は必要ないとする日本の家族制度の問題点や年金や雇用保険に関する問題点が、この時代に竹中理論においてなされています。

「母性保護」に関しては、それは過保護であるという声にたいし、諸外国の夜業に対する取り組みと比較し日本は遅れている、男性も含めた保護が本来ならば必要であるとの指摘が1972年の時点でなされています。さらに竹中先生は、1975年の国際婦人年世界会議において、社会保障における婦人の地位の向上が議題に挙げられていたことにもその同時代において着目され、日本の労働運動が女性を従属的に位置付ける家父長制的構造や社会保障の視点を持つことを求められます。

またこういった議論の中では、家父長制的構造の中で女性に割り当てられた家事労働の経済的な評価、PW、UPに関する議論(北さん曰く、性別役割分業の肯定とも受け止められ「竹中理論の中でももっとも誤解にさらされた」論点であるということです)もなされています。資本主義社会においては、それが無償労働として女性に課せられ「女性の抑圧の物質的基礎となっている」。しかし、資本の商品やサービス購入で個別の家族における家事労働が代替されても限界がある。女性が無償で担ってきた家事労働の一部が商品で代替されても、女性は家事労働をしつつさらに低賃金で不安定な有償労働も行うこととなる、すなわち、女性の労働が資本に都合のよい景気調節弁となる契機ともなる。

ウーマン・パワー政策として女性の労働力化が進められながら、女性の家庭責任が強調される一見むちゃくちゃな状況において、家庭と仕事のはざまで苦悩する多くの女性たちは、自分たちのおかれた状況とその原因をこのようにみごとに解明してくれる竹中理論に涙し、かつそれに触発されて闘いのこぶしを握ったのではないか、と北さんは述べられました。労働力商品化体制という用語が竹中先生の論文に登場したのは1980年以降ということですが、1970年代から80年代にかけての議論がその言葉の基盤にあるのではということでした。資本主義における労働力の商品化体制は、生産の領域と家庭内の再生産の領域の性格を決定する「結節環をなしている」(Ⅱ巻)ということです。

そこで、安易な資本主義的商品による代替ではなく、社会にとって重要なものとしての家事労働のコストを社会がどのように請け負うか、その具体的なプロセスとはどのようなことか、さらに、1980年代以降は、それまでの商品化批判や社会化への視点に加え、いま一つ労働者個人の主体的にケアを行う権利の保障(例えば短時間労働への転換の権利)をすべきだとするという新たな議論が展開されてきました。

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1980年代90年代以降の竹中理論の中からは、女子保護規定の見直しに伴い「母性保護」(生殖・出産・育児)については、生殖、育児についてはともに両性の保護であるべきだ、という視点、専業主婦を優遇する税制や社会保険制度の問題、社会政策のあり方、労働の評価を世帯ではなく個人への評価とする視点からの男女雇用機会均等法改正の是非、近代家族からの脱却や、個人潜在能力(capability)の分配を踏まえた社会政策の考察といった論点が整理され、それらがいかに幅広い先駆的なものであったかが確認されました。今日や未来の個人の労働のあり方と社会に関する視点として、2000年代では「男性稼ぎ手モデルからの脱却」に関する議論、均等法施行後20年を振り返り、まずは生活最低限の賃金の保障が必要だとする議論が今日にいたるまで続けられているということです

最後に、北さんは、竹中理論のもっとも大きい特徴として、初期のころからの一貫性と、その先駆性を挙げられます。また、その主張は不変でありつつも、次々と新たな概念が加わっていくこと、すなわち1960年代に組み立てた理論の柱がさらに太くなっていくという竹中理論の重みについても確認されました。加えて、竹中先生の社会政策論、社会保障論とは、労働力商品化体制論と社会保障の展開がそれぞれ別のものとしてではなく、相互規定の中で社会保障が展開し、労働力商品化体制も変化していく視点を持つものであるところに大きな特徴、意義があると述べられました。

北さんは、報告の冒頭で『竹中恵美子著作集』は講演録と学術論文両方が収録されているので読みやすいのでは、と述べられました。本報告にて挙げられた竹中理論の各論点およびその展開の図式の提示は、今日でも議論の続く数々の問題の本質をついたものばかりであると同時に、我々が『竹中恵美子著作集』を読む際に、どのように読むことが可能なのかという大変有用な指標を示されていました。
(報告 荒木菜穂)

※次回、シンポジウム「竹中理論の意義をつなぐ」レポート(3)は4月10日公開予定です。

この記事の(1)はこちらから。


現代労働市場の理論 (竹中恵美子著作集I)
■戦後女子労働史論 (竹中恵美子著作集II)
■戦間・戦後期の労働市場と女性労働(竹中恵美子著作集III)
■女性の賃金問題とジェンダー(竹中恵美子著作集第IV巻)
■社会政策とジェンダー (竹中恵美子著作集第V巻)
■家事労働(アンペイド・ワーク)論(竹中恵美子著作集VI)
■現代フェミニズムと労働論 (竹中恵美子著作集Ⅶ)








カテゴリー:フォーラム労働・社会政策・ジェンダー

タグ:労働 / 荒木菜穂 / 竹中恵美子