エッセイ

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アメリカ・メディア界の女王引退から考える女性の成功とハラスメント  勝海志のぶ

2014.05.29 Thu

 5月16日、アメリカでもっとも有名なジャーナリストのひとり、バーバラ・ウォルターズが引退しました。84歳であるバーバラは、15年ほどの長い下積みを経て、女性として初めて報道番組の共同司会者に抜擢され、さらに年俸1億円を手に入れたパイオニアです。彼女のキャリアアップの道程には常に”アメリカのメディア史上初の女性・・・・・・”という冠がついて回りました。

 しかし、メディア界の女王として君臨するまでの道のりは簡単なものではありませんでした。1960、70年代のメディア界は、どの国でも男性支配の世界。「女性がレポートをしたり取材をしても、誰もまじめに取り合ってくれなかった」とバーバラは回想しています。バーバラが一歩一歩、男性が占める領域に足を踏み入れるたびに、彼らが醸し出す嫌悪感とひどいバッシングに苦しみました。
      
 それでも彼女は、粘り強く着実に仕事を全うしていきます。引退するまで、およそ”50年間”、社会的正義のため、後進のために、テレビをとおしてジャーナリズムを追究し続けました。彼女の天才的なインタビューの才能は、故ニクソン元大統領から現在まで、アメリカ歴代大統領全員の単独インタビューに成功しているという功績から窺えます。

 男性の占領していたポジションに女性が進出するときには、必ずといっていいほど、ハラスメントを武器として邪魔をする者が出てきます。日本では、アベノミクスの一環として、女性の社会進出を積極的に支援するとともに、女性の管理職増加を国策として推進し始めました。ここで忘れてはならないのは、国の政策として状況が変化したとしても、保守的なマインドの組織では、人の価値観が時代についていくには時間がかかるということです。バーバラが男性の領域を”侵し始めた”とたん、メディア界の中で凄まじい個人攻撃に遭ったように、これから活躍が期待される優秀な日本女性たちも、陰険なセクシャル・ハラスメントに晒される可能性は否定できないのではなないでしょうか。すでに、悩んでいる女性たちが増えつつあるのかもしれません。

 アメリカの調査結果では、組織の中で高いポジションにいる女性ほど、セクハラの被害に遭っているという報告があります。それは、職場だけでなく、取引先など外部においてもです。アメリカでは女性の社会進出が早くにスタートしたぶん、セクハラへの理解は改善しつつありますが、告発したら厄介者扱いされ活躍の場を減らされるという傾向は根強くあるようです。加害者がクライアントである場合はなおさら、組織は被害を公にせず、訴えた女性を飼い殺しにする—-。管理職に昇進する女性たちは、ハラスメントに敏感なので告発し泣き寝入りしないことが、女性の昇進とセクハラの告発件数が比例していることの原因かもしれないという意見もあります。

 このようなアメリカの事例を基にすると、日本の組織内で女性の昇進が増えることは喜ばしいことである一方、彼女たちはハラスメントの対象になりやすいとも考えらます。「女はダメだ」「平等なぞ、ありえない」と、あたかも女性に非があるように繕うことで、男性たちは自分たちの支配領域が侵されるのを防いできました。それももはやこれまででしょうが、”パワーの魔術師”であり、支配欲の塊である保守的な男性たちは、「やっぱり、女はダメなんだ」と再び勢力を取り戻そうと、あらゆる手を尽くしてくるのかもしれません。

 ニューヨーク市では5月16日を「バーバラ・ウォルターズ・デー」と制定しました。また、バーバラが長年、共同司会者を務めたワイドショーの出演最終日には、ヒラリー・クリントン前国務長官がゲスト出演。さらに、現役有名女性キャスターたちが勢ぞろいし、パイオニアであるバーバラに賛辞を送るという、感動的な演出で締めくくられました。
     
 女性の社会進出流れで、ハラスメントは置き去りにされやすい問題です。優秀な女性たちが一層輝いてキャリアアップいてけるように、ぜひ、日本企業全体にセクシャル・ハラスメントへの注意を、改めて喚起していただきたいと願います。

カテゴリー:投稿エッセイ

タグ:アメリカ / セクシャル・ハラスメント / 勝海志のぶ / ジャーナリスト / バーバラ・ウォルターズ