東京都下の小さな自治体、狛江市長選がこの週末6/19日に。
官僚から天下りした現職市長に、「小さな声を聞く狛江」代表の女性候補、平井里美さん(54歳)が挑戦。
1年かけて「市民センターを考える市民の会」を率いてきました。わたしとの関わりが深かったので目が離せません。
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小さな自治体の民主主義(「北陸六味」朝日新聞北陸版5月13日付け)

 狛江市は東京都下にある人口8万人ほどの自治体。その中央公民館と図書館が老朽化したので改修計画が持ち上がった。
 市が提示した計画案に市民がストップをかけ、「市民センターを考える市民の会」を立ち上げた。行政と協定を結び、1年間にわたるワーキンググループによる検討の結果、こんな市民センターがほしい、と報告書を出した。
 わたしはその立ち上がりと報告会に関わった。昨年2月1日の「市民センターを考える市民の会」スタート時に「大人が学ぶということ 『当事者主権』と市民自治」のテーマで講演。今年の4月14日には「上野千鶴子と足もとの民主主義を考える」というテーマで講演と市民参加のパネルディスカッション。このあいだに、狛江の市民がどれだけの「民主主義」を実践したか、を実感した。  ワーキンググループは最大時に100人を超え、およそ週に1回のペースで、深夜に及ぶかんかんがくがくの議論を積み重ねてきた。立場の違う人たちの異見をまとめるのは苦労の連続で、途中で音をあげたリーダー格の女性のメールに、「民主主義はノイズの発生装置。ノイズを楽しんでください」と返信したら、「納得。気がラクになった」と返事が来た。
 実のところ、議会も行政も市民のワーキンググループがおキライ。ノイズの発生がキライだからだ。民主主義ってテマヒマのかかる意思決定のツールだが、権力者は民主主義がキライで、オレさまに任せろ、が好きなのは、地方自治体から中央政府まで共通しているようだ。
 多様なニーズを持つ市民が、多世代で、自由に使える市民交流スペースがほしい、そこからつながる公民館と図書館にしたい、そんなにおカネもかけなくてよい……という市民のアイデアに、若い建築家たちも協力した。
 こんなときには、すでにある事例が参考になる。わたしがしばしば引き合いに出すのは、新潟県長岡市のアオーレ長岡。駅に直結した市庁舎とそれに隣接した多目的の公共空間を地元産の建材で作り出した。議場もガラス張りで外から見えるようになっている。設計者は隈研吾さん。
 もうひとつは、金沢市民芸術村だ。工場跡地をリノベーションしただけの公共空間を、舞台芸術やパフォーミングアート、音楽イベント、展示場などに利用している。
 ユニークなのは365日24時間利用という市民の自主管理システム。公共施設のネックは管理がきびしくて時間になると追い立てられること。芸術村では管理者が帰った後に、信頼関係のもとに利用者が鍵を自主管理しているのだ。このおかげで、金沢には市民劇団やバンドが簇生(ぞくせい)しているという。仕掛け人はやはり建築家の水野一郎さん。
 施設は目に見える結果だが、つくるプロセスが大事。そしてつくった後の運用がもっと大事。人口8万の小自治体なら、手の届く「市民参加」が可能だ。狛江の「民主主義」の実験からは、とうぶん目が離せない。
(社会学者)