山形県米沢市で夫の我妻拓也(わがつま・たくや)さんとともに新規就農をした我妻飛鳥(わがつま・あすか)さんは、子育てをしながら、笑顔のある、農村の未来を創りたいと「野菜農園 笑伝〜EDEN〜」を営む。就農3年目を迎えた。
お子さんは3人。8歳(小学3年)、6歳(小学1年)、3歳(保育園)。
野菜を栽培して出荷をするという、これまでの農業ではなく、女性と子供の視点から料理やレシピまでを提案し、写真をブログやフェイスブックに挙げて、食べ方を伝える。

「子供たちとの料理は、週に1、2回ですかね。時間がないときは、ただちぎる、輪切りにする、だけでも子供は喜ぶ。取れたての野菜だから、それだけもおいしい。それをブログに挙げると『子供のできる料理』というのができる」。子供たちが自分の料理をおいしいと言ってくれるのがうれしい。と飛鳥さん。
畑は、キャベツ60ヘクタール、キュウリ10ヘクタール、スイカ20ヘクタールを栽培。キャベツは、寒中キャベツというのがあって、冬に雪下に寝かせおくことで、甘味が増すというもの。
作物の多くは市場出荷、生協出荷が中心。スイカは小さなテントの直売所を畑の前に作り販売もしている。少量多品目でレタス、ズッキーニ、カラフル大根、ブロッコリーなども栽培をしていて、地元の直売所や、一部は地元レストランにも出している。
ブログには時々マクロビオティックのレシピと料理も登場する。
「インターネットで料理をみていると、簡単で美味しい料理はもちろんですが、マクロビオティックとかオーガニックにも関心が高いというのがわかる。でも、割と高価な輸入食材が使われていることが多い。せっかく、美味しくて体にもいいものは足元にもあるのに、それを知らない方も多くて残念。主婦として節約志向もあるので、無理せず長く続けられる食生活に目を向けたい。自分の畑で、無農薬・無化学肥料でも野菜を作ったりしています。マクロビオティックも少しだけ意識して料理を作り、写真を撮ってメモをして、子供が寝てから夜に原稿にしたりしている」
飛鳥さんは、2016年3月から農水省の「農業女子プロジェクト」に参加している。https://nougyoujoshi.maff.go.jp/overview/
女性農家がネットワークを組むことで情報交換とノウハウの連携をするというものだ。
就農をしたとき、「農業女子プロジェクト」があるというのを知ったという。
「ガーデニング手袋の開発企画の話があって、手袋が必需品の私はすぐ手を上げました。
農業女子プロジェクトは企業さんとの企画に協力できる人が応募して参加するという仕組みです。ほかにもアンケート回答で参加したり、下着の開発に参加したり、化粧品会社のモニターとして参加したものもあります。そんななかで、都市部の農業女子とも交流があり、農業経営について勉強になるお話も聞けることがあります。都市部の方々はちゃんと自分で販路開拓に営業もしている。なんで、自分たちで営業かけないのって言われて、すごい刺激を受けた」
飛鳥さんは、以前ジュニア野菜ソムリエの資格もとった。夫婦で就農前、父親が作った農業法人の直売所があり、そこを手伝っていた時だ。
「私なりにできることはしていきたいと思っていた。野菜ソムリエとして広報にも役立てるかと。知識や食べ方なども一緒にフェイスブックにアップしていけば、手伝えるのではないかと思ったんです。父や直売所運営のためになにか自分にやれることがないかと考えていました。」
彼女の夢は、地域の豊な農業と子供たちの未来
「周辺の地方農業をみてみると、利益があがらず、後継者もおらず、やめるにやめられないという小さい農家が多くある。大手と取引しても販売価格を安く!となってしまう。首都圏に近いところでは、相対取引で高くても売れ、小さい面積でも利益があげられているという話を聞くと都市部と地方とのギャップも感じます。レストランに直接、営業をしたほうがいいとも言われても、配送コストや流通部分で行き詰る。育児に時間もとられるので、なかなか手が回らない。その現状の中で、今自分に出来ること、農業のリアル生活や野菜の豆知識・食べ方を発信することで生産者と消費者の距離を縮めたいと思ったんです。」
「地方の農家、高齢化・担い手不足でやめるにやめられないというのを目の当たりしているので、農業がいい形で将来につながっていくのか考えてしまう。現代に食をつないでくれた農業を大切にし、今まで頑張ってきた農業者も振り返ってやってよかったと思えるような制度、胸を張って引退できる環境つくりが必要。明るく未来につなぐ事例を創りたい。自分の子供にやらせたいとは思っていませんが、やりたいと言うような農業環境にすることが大切だと考えています。今は純粋に子供の成長が楽しく、1年、1年が楽しみ。でもきっと、今自分たちがいかに楽しみながら農業に取り組めるかが重要なんですよね。」
飛鳥さんの手作りお弁当
結婚を機会に夫の希望で農業へ、飛鳥さんは猛反対
実は、飛鳥さんは、農業をする気はまったくなかった。
「実家が農家で、大変だと身をもって感じて育ちました。それに私、虫が嫌い(笑)。夫が農業をやろうって言ったときも私は、大反対でした」
飛鳥さんは、高校卒業後、地元の製造業の会社に勤務。一度やめて、フリーターとなり、販売、製造、エステティックサロンなど、さまざまな仕事を経験した。結婚前は、地元企業の営業事務をしていた。
夫の我妻拓也さんは溶接業をする会社に勤めていた。飛鳥さんとは幼稚園からの同級生で、まさか結婚するとは思っていなかったという。20代過ぎて、同窓会での再開をきっかけに結婚となった、という。
飛鳥さんのお父さんが専業農家で、拓也さんは休みのときに、田植えや草刈りの手伝いによく来てくれていたそうだ。
飛鳥さんのお父さんは、稲作農家。45ヘクタールを栽培する大規模農家だ。それとは別に農家10名で立ち上げた農事組合法人・新田営農組合「新田ファーマーズマーケット」のメンバーで、直売所の運営にも携わっている。http://niida-farmers-market.com/
地元の米、野菜を販売する。ほかに、田んぼの転作で栽培した大豆、枝豆などがそれほど収益をあげられなかったことと、規格外で出荷できない、コメ、大豆、枝豆などもあることから、それらをパウダーにする加工、また野菜・果物をドライにして、食品会社に販売をする目的で作られた。
結婚前から拓也さんは、夫婦が仲良く高齢になっても仕事ができる農業にあこがれていたらしい。飛鳥さんと結婚して2年目、勤めていた会社が倒産したのがきっかけで農業に携わるようになった。
最初は、飛鳥さんの実家の農業を手伝い、給料をもらって農業に従事し、その3年後に独立。
国の青年就農給付金(経営開始型)の支援を受けた(現在は、「農業次世代人材投資資金」)。
http://www.maff.go.jp/j/new_farmer/n_syunou/roudou.html
独立・自営で就農を行う45歳未満が対象。夫婦共同経営だと、最長5年、年間最大225万円の給付が受けられる。

『農家やるなら夫婦でだべ!』
と、もう彼は決めていた。
「なにいっても耳にはいらない。私は3人目の出産育児で、出産と同時になかば強引な形での就農となった。
私自身が、二人姉妹の長女だったこともあり、後継ぎがいないので、いずれは農業をやらなきゃと思ってくれていたところもあったみたいです。
今は、彼なりの考えがあって、土地を借りて、あらたに農業を始めました。スイカもそのひとつ。山形は近くにブランドスイカもあり、市場でもこのあたりでスイカを作っている人はいないといわれていました。でも、水はけの良いこの畑なら彼はどうしてもすいかを作ってみたいと、栽培しはじめました。今では笑伝といえばすいかだよね、といってもらえるようになりました。
もがいても農業と私は縁が深かったのでしょうね(笑)。だったら私になにができるか、そこから始まったのが、料理レシピづくり、野菜ソムリエプロの取得、農業女子プロジェクトなどの参加で、自分たちの農業をよりよく楽しく取り組み、発信することでした」
「今は夏場が集中的に忙しい。キュウリ農家は、昼も夜もない。朝から収穫して日中箱詰め。それを主人が市場に運ぶ。夕方も収穫して子供が寝静まった夜に、9時、10時ころからまた箱詰め作業をする。1日50~100ケースを詰める。スイカは直売所に2か所、生協でも注文販売をうける。主人は朝4時半起きで作業、私は子供に食事を作って、学校や保育園に送り出してから合流します。
最初の1年目は、やっぱりこんなに大変なのかと思った。だいぶ慣れましたが(笑)。数年経て感じること、また、採りたて野菜を食べた美味しさや買ってもらった・食べてもらった喜びなども交え、そういう実感もリアルに情報発信し、就農を考えている人の参考にもなればと思っています。」
独立した農園名を「野菜農園 笑伝~EDEN~」とした。
「明るく、笑顔が伝わる農業にしたいというおもいからです。今後、規模を拡大して、販路開拓もしたい。それには人も必要です。農業の可能性をこれからもっと広げていきたい。そんなことで今、クラウドファンディングも実施しているところなんです」
(取材協力:山形県米沢市教育委員会 社会教育・体育課)

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株式会社EDEN -笑伝-
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SHOP: https://farmeden.thebase.in/
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