
第二次世界大戦が終結した年のポーランド。フランス赤十字の医療施設で助手をつとめる医師マチルドは、負傷したフランス兵たちを祖国へ帰還させるための任務についていた。そこへ、ポーランド人のシスターが一人、助けを求めて飛び込んでくる。マチルドは任務に違反することを半ば承知で、そのシスターとともに修道院を訪れた。
マチルドがそこで目にしたのは、あろうことか、出産間近の苦痛に呻く修道女の姿だった。やがて彼女は、修道女たちが、ポーランドに逗留したソ連兵たちから集団で性暴力を受け、7名が妊娠してしまっていたこと、にもかかわらず、どこへも支援を求められずに、自らの身にふりかかってきた冒涜と信仰とのはざまで幾重にも苦悩していた事実を知る――。


映画『夜明けの祈り』は、実在したフランスの女性医師マドレーヌ・ポーリアックが経験した事実をもとに、戦争のただ中で非人道的な性暴力を受けた女性たちへの、彼女の献身的な医療行為と救済活動、そして修道女たちとの交流を描いた物語である。
映画では、主人公マチルド(ルー・ドゥ・ラージュ)の、この時代に女性医師として生きる選択をする強さや、医者としての使命感に加え、傷つき弱さを抱えた人たちへの生身の共感が修道女たちの心を動かしていく。彼女の正義感あふれる振る舞いや、まっすぐなまなざしは力強く、とても魅力的だ。と同時に、望まれずに生まれくる命を、教義を超えて守ろうとする一人のシスター、マリア(アガタ・ブゼク)の感情が揺れ動くまなざしも忘れがたい。マリアとマチルドが、徐々に互いへの信頼とシスターフッドを紡いでいく展開も印象に残る。


さらに、悲しみを静寂の中に映しだす、映像の美しさにも息をのむ。人里離れた、仄暗い修道院のなかで信仰を体現して暮らす修道女たちの佇まいに、わたしは自分の中にある感情が幾度も共鳴し、心が吸い込まれそうになった。静謐さの奥にある深い悲しみや憤り、不安と混乱、祈り、あるいは生きていくうえで必要なささやかな喜びをすくいとった数々の場面にも深い感銘を受けた。受けた傷は元には戻らないが、一旦見失ったその後の人生を、自らの手に取り戻していくシスターたちを描いたラストにも救われる。それは、この作品を介して恐ろしい事実に触れた人たちすべての願いであり、一条の、希望の光でもあるのだと思う。

監督は『ココ・アヴァン・シャネル』『ボヴァリー夫人とパン屋』など話題作が続くアンヌ・フォンテーヌ。撮影に『ホーリー・モーターズ』『ハンナ・アーレント』などフランスを代表する撮影監督カロリーヌ・シャンプティエ。2017年第42回仏セザール賞にて作品賞、監督賞など主要4部門にノミネート。フランス映画祭2017にてエールフランス観客賞受賞。公式サイトはこちら。(中村奈津子)
8月5日(土)、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
監督&翻案:アンヌ・フォンテーヌ 製作:エリック・アルトメイヤー、ニコラス・アルトメイヤー 音楽:グレゴワール・エッツェル 撮影:カロリーヌ・シャンプティエ
出演:ルー・ドゥ・ラージュ『世界にひとつの金メダル』、アガタ・ブゼク『イレブン・ミニッツ』、アガタ・クレシャ『イーダ』
2016年/フランス=ポーランド/フランス語、ポーランド語、ロシア語/1時間55分/アメリカンビスタ/カラー/音声5.1ch/原題:Les Innocentes/
日本語字幕:丸山垂穂 提供:ニューセレクト、ロングライド 配給:ロングライド 推薦:カトリック中央協議会広報 後援:アンスティチュ・フランセ日本/フランス大使館 協力:ユニフランス yoake-inori.com
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