わたしは、「女ぎらい」が好きだ。
言い換えるなら、2010年に出版された『女ぎらい ニッポンのミソジニー』
(紀伊國屋書店 2010年10月出版)が好きだった。
ジェンダー研究のパイオニアである上野千鶴子さんの
多数ある著書のなかでもバイブル的な存在。
そう思って、そこに書かれた数々のキーワードや
センテンスを胸に刻んで生きてきた。
なんらかの、わたしを取り巻く不都合な事象が訪れたときにその効力が発揮される。
たとえて言えば、消化酵素のように「女ぎらい」のテキストのなかから
有用なワードや概念を使うことで昇華させる。
そしてさらに生き延びるための機能としてはたらく言説。
女であるわたしが、わたしの生命の灯を灯し続けるため身に纏い、
手放さない信念である。
「女ぎらい ニッポンのミソジニー」は8年の時を経て、
「セクハラ」「こじらせ女子」の二本の論考があらたに追加され文庫化された。
前回の原稿で、『この本を読んで「へええ、信じらんなーい。
こんなばかげた時代があっただなんて、
と読者が驚き呆れてくれたら・・」と、上野さんは願う。』と書いたが、
こんなばかげた時代は、いまもなお変わることなく綿々と続いている。
「ばかげた」と、ひとことで言ってしまったが、
そこには、一方的で、気づいたとしてもことばにすらできなかった時代から、
それでも声を出し、声を上げ、闘い、勝ち取った時代へと、
幾層にも織り重なった多くの女性の経験があったと言える。
そのかつては埋もれていた声が、いまこの瞬間も、
だれか発声できない状況の女性に届くなら、それが支えとなるだろう。
#MeToo、#WithYouが示すように、あなたは決してひとりではない。
この未だに変わらない時代を過ぎ去った時代とすること。
そんな未来を夢だけに終わらせたくはない。
ここにあなたに届く、いまを変える声がある。
■堀 紀美子■
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上野千鶴子著
『女ぎらい ニッポンのミソジニー』
(朝日新聞出版 2018年10月発行)
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