医学部入試における女性差別対策弁護団のリレーエッセイ、今回は弁護団の倉重都が担当させていただきます。

弁護団会議@弁護士会館/2019.5.22

●2019年度の試験の結果は?
 最近、直近の2019年度入試の各大学の結果が発表されています。去年までは、男性の合格率が、女性の合格率よりもずいぶんと高い医学部が複数ありましたよね。案の定といいますか、今年は、男女の合格率がほぼ同じという結果になっております。女性の合格率の方が高かった大学もあったようですね。昨年の夏に、男女差別入試が発覚し、各大学が差別を無くして男女を平等に扱った結果です。いかに今まで、水面下でこっそりと女性の足を引っ張り、男性に高い下駄を履かせてきたかがよくわかりますね。
 弁護団は、現在、順天堂大学に対する提訴の準備をちゃくちゃくと進めております。そのため、順天堂大学の昨年までの入試の合否判定方法を精査しているのですが、調べれば調べるほど、実に精巧に緻密に数字を操作して、女性の合格率を低く抑える仕組みを一生懸命に作った順天堂大学の努力(笑)がよく見えてくるのです。差別することをシステムとして作り上げてきていたのです。知れば知るほど怒りが湧いてきます。

●裁判での請求根拠
 では、実際に裁判ではどのように請求しているのか、どのような理屈で大学を提訴しているかをお伝えいたします。  差別されたことを、謝ってほしいとか、人生返せとか、そういうことは裁判では請求できません。裁判で相手に請求するには、法的根拠が必要です。今回は、民法709条の不法行為という法的構成をとりました。これは、相手の不法な行為によって、こちら側に損害が発生した場合、その損害を賠償させる、というものです。交通事故の加害者に被害者が損害賠償を請求するのと同じです。そして、不法な行為は具体的に特定しなければなりません。交通事故の場合でいえば、運転手のスピードの出しすぎとか飲酒運転にあたるものです。
 この訴訟において、何を不法な行為と捉えるか、弁護団で議論しました。その結果、「女性というだけで点数を不利に操作するような著しく不公平な試験を行うことを、大学側がすでに決定していたにもかかわらず、そのことを隠して、あたかも公平な試験を実施するかのように装って、受験者を募り、受験させ、予定どおり著しく不公平な試験を行った一連の行為」を大学側の不法な行為と捉えることとして、そのように訴状に書きました。
 では、請求する損害はどうするか。これもたくさん議論しました。交通事故でいう治療代、休業損害、慰謝料の部分ですね。様々な意見が飛び交いました。例えば、「不合格だったために医者の道を諦めて他の仕事をしている人が、医者だったら得られたはずの生涯にわたる収入との差額」や、「得点操作がなかったら、合格していたかもしれないから、浪人していた期間の生活費用」などです。実際に、そのような気持ちの人はたくさんいるはずですし、差別的な得点操作が、多くの女性の人生を狂わせた可能性があることを改めてひしひしと感じ、議論しながら、弁護団メンバーは、大学側にさらなる怒りの気持ちをヒートアップさせていきました。会議室が怒りで満ちた空気になるのです。
 しかし、もどかしいことに、裁判で請求するためには、損害をこちらが証拠で証明する必要があるのです。大学側は、不公正な得点操作をしていたこと自体は認めましたが、実際のひとりひとりの受験生が、不公正な操作がなかったら合格していたかどうかということはほんの一部しか開示していません。また他方、余分にかかってしまったお金を割り出す場合、合格していても生活費がかかるのですから、合格していた場合の生活との差額を正確に計算することは困難です。ひとつひとつを厳密に計算していたら、膨大な時間がかかってしまい、いつまでたっても提訴できず、ほとぼりが冷めるのを待ちつつ逃げる気でいる大学側を有利にさせてしまいます。
 そこで、裁判では、各受験生が受験会場に行くまでの交通費・宿泊費と、大学に支払った入学検定料、そして、不公平な試験を受けさせられたこと自体に対する精神的苦痛としての慰謝料に統一しました。

●2種類の慰謝料
 気になる慰謝料の額ですが、大学側がやってきたことは、どう転んでも正当化できない女性差別、それも公正であるはずの入学試験の場での差別です。それならば、慰謝料の額は今までの裁判例よりもずっと高くてよいはずだし、日本社会にいまだ蔓延する女性差別への怒りの意思表示の意味も込めたいと考えました。そのため、「合格していたかどうかを問わず、不公平な試験を受けさせられたこと自体の慰謝料」として200万円という額を設定し請求しております。他方、「合格点を獲得していたにもかかわらず、不公正な得点操作によって不合格とさせられてしまったことが判明した場合の慰謝料」は、これとは別に請求します。つまり慰謝料が2種類あるということです。

 3月22日に提訴した東京医科大学への裁判の第1回口頭弁論期日が、6月7日10時から東京地方裁判所で行われます。
 裁判は始まったばかりです。弁護団は精一杯頑張りますので、これからも注目していてください。ご支援よろしくお願いいたします。

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【関連イベント】
◆「 公開シンポジウム「横行する選考・採用における性差別統計からみる間接差別の実態と課題」
http://www.scj.go.jp/ja/event/pdf2/273-s-1-2.pdf
主 催:第一部社会学委員会ジェンダー研究分科会
日 時:平成31年6月8日(土)13:30〜17:00
場 所: 日本学術会議講堂
参加無料、申し込み不要。

◆医学部入試差別問題についてのシンポジウム「ジェンダー平等こそ私たちの未来~医学部入試差別から考える~」
日時:2019年6月22日(土)14:00~16:00(受付開始時間:13:30〜)
場所:東京ウィメンズプラザ ホール(東京都渋谷区神宮前5−53—67)
主催:医学部入試における女性差別対策弁護団(https://fairexam.net/)
参加費:無料
定員:200人
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