『あいち国際女性映画祭2019』が9月4日(水)~8日(日)に開催され、国内外の女性監督作品を中心に33本の映画が上映された。

『雪子さんの足音』 (c) 旦々舎

『雪子さんの足音』(日本)は、吉行和子さんの「私、とんでもないバーサンが演りたい!」というメッセージから制作がスタートしたのだという。

――雪子さん(吉行和子)は月光荘の大家で銀髪の老嬢。文化的な女性で、何歳になっても欲望があり、女のエロスにあふれている。香織(菜葉菜)は若いが人間関係に屈折している。そんな二人の女性は、当時大学生だった男子学生の薫(寛一郎)を何かと振り回していた。過剰な好意と親切に息がつまりそうな薫――。

ゲストトークの吉行和子さんは「浜野監督の『百合祭』(2001)に出演し、また一緒に映画を撮ることができ大変うれしく思います。雪子さんの心の奥の素敵な欲望に気付いていただけたら幸せに思います」と話された。浜野佐知監督(写真)は「あいち国際女性映画祭は今回で4回目で誇りに思います。吉行さんと菜葉菜さん、寛一郎さんの人間味あふれた演技を通し、映画のおもしろさを心で感じてほしい」と話された。会場には原作者の小説家木村紅美さんも駆けつけ、拍手で迎えられた。


『一粒の麦 荻野吟子の生涯』 (c) 現代ぷろだくしょん

『一粒の麦、萩野吟子の生涯』(日本)は、明治18年(1885年)、医術開業試験に合格し、日本の公認女性医師第1号となった荻野吟子の生涯を描いた。明治時代、18歳で結婚した吟子は夫に性病をうつされた。病院に行くと、医師や研修医はすべて男性。恥ずかしい思いで、医者へ行かない女性も多い。吟子は医師になることを決意する。

ゲストトークの山田火砂子監督は、長年映画プロデューサーをされていたが、映画監督の夫の死後、知的障がい者の娘の半生を題材にした作品で初監督したのは71歳のとき。娘がいたことで生きる力になったと話された。現在87歳。まだまた意欲がありお元気だ。  

京マチ子追悼上映『男はつらいよ 寅次郎純情詩集』のゲストトークは倍賞千恵子さん。1960年に松竹歌劇団に入団、1961年に松竹映画『斑女』で映画デビューした。『男はつらいよ』シリーズでは寅さんの妹さくらを演じている。山田洋次監督の現場は、本読みリハーサル、スタジオリハーサル、テスト、本番となるが、うまくいかないと山田監督は考え込み、シナリオを書き直すこともあるという。2019年12月には『男はつらいよ お帰り寅さん』シリーズ第50作めが公開される。デジタル時代になったからできる作品だ。寅さんはあくまで若々しく、子どもだった満男は小説家になった。

『mama』(c) シネマスコーレ

『mama』(日本)は、はるな愛さん初監督作品で名古屋ロケされた。吉野ママこと伝説のゲイボーイ吉野寿雄がいるバーにトランスジェンダーの亜美とゆしん、俳優の田中俊介が訪れる。ゲストトークのはるなさんは想いが溢れ、次のように一気に話された。「映画監督には責任がともない怖いが、喜びも大きい。音楽にはこだわった。ぜひ、二作めも撮りたい」。


その他『紅花緑葉(原題)』(中国、日本初公開)、『女は女である』(香港)、『ワーキング・ウーマン』(イスラエル)、『僕の帰る場所』(日本、ミャンマー)などの長編作品上映やシンポジウムなどが行われた。

『紅花緑葉(原題)』

『女は女である』 (c) Association of World Citizens Hong Kong China

『ワーキング・ウーマン』 (c) Lama Films

『僕の帰る場所』 (c) E.x.N.K.K.


フィルム・コンペティションの短編作品は13作品。実写部門グランプリ&観客賞は『わたしのヒーロー』(佐藤陽子監督)、審査員特別賞は『CA$H』(タン・ウェイティン監督)。アニメーション部門のグランプリ&観客賞は『タイムマシン』(袴田くるみ監督)、審査員特別賞は『His name is Pesu』(大巻弘美監督)。『わたしのヒーロー』は育児休業、『タイムマシン』はレイプをテーマとした、いずれも優れた作品である。

『わたしのヒーロー』

『CA$H』

『タイムマシン』

『His name is Pesu』


招待作品『オフク』はニューヨーク・ジャパン・シネフェスト推薦。上映後は赤い着物姿のオフクさんが登場し歓声が上がった。


1996年にスタートしたあいち国際女性映画祭は常に進化しており、今年も優れた作品をたくさん見せてくれた。男女共同参画社会を推進する映画祭として来年にも期待したい。公式サイトはこちら。(山田祥子)


※スライドショーの写真、およびゲストトークの浜野佐知監督と赤い着物姿のオフクさんは筆者撮影。紹介作品のスチル写真については、あいち国際女性映画祭事務局よりご提供いただきました。