*WANへ届いたご相談へのお返事を、内容から判断してこちらに掲載します。*
WAN相談
七海(栃木県・18歳)
初めまして、今春大学生になり東京で一人暮らしを始める者です。
私は高校2年のとき、私の通っている女子高のOG団体が主催する講演会で上野千鶴子先生の講演を聞くことができ、その時初めてフェミニズムについて意識するようになりました。
私は情報に敏感な方で、以前から性犯罪無罪判決の記事をネット上で読むなどしていたこともあり、講演会でのフェミニズムはあまり抵抗なく受け入れることができました。働いている母と講演会の内容を共有したり学校で友人と話したりもしました。しかし、最近のネット上でのフェミニズムへの反感やフェミニスト達への暴言、「日本にフェミニズムは必要ない」などという否定的な記事が目についてしまい、フェミニズムを学ぶということに圧迫感や苦しみを感じています。(私自身はフェミニズムを正しいと考えているのですが、フェミニズムの訴える主張とネット上の記事や書き込みのギャップに戸惑ってしまいます。)
周りの友人はそれほどフェミニズムについて考えていないようですし、フェミニズムに精通する知人はおらず、母は共感してくれましたが父は「女性全員が不遇というわけではない」「宗教ではないのか」と否定的です。
私は理系の学部へ進学するので、きっと男性の多い職場に将来就職するだろうという意識があるのですが、男性優位の環境で私は自分の主張をはっきりと言っていくことができるのか、私はこれから女性としてどのような扱いを受けるのだろうかと不安になります。
少し敏感になりすぎているのではないか、杞憂ではないかと感じることもあるのですが、スッキリしないモヤモヤ感(家族で唯一の男性である父に理解して貰えなかったのも原因の1つだと思います)が常に心にあります。
大学へ行って、意見を交換できる同年代のフェミニストに出会うためにすべきことはあるのでしょうか?(また学生フェミニストのための団体などはあるものなのでしょうか?)
私は考えすぎ、敏感になりすぎでしょうか?
この不安感を拭うことは可能ですか?
長文失礼いたしました。
今後もWomen’s Action Networkの活動を陰ながら応援しております。
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七海さま
ご相談の投稿ありがとう。WAN理事長の上野です。わたしの講演を高校生のときに聞いて共感してくださったとのこと、10代のまっすぐな心に届いたと知って、うれしいです。
ネットの世界はミソジニーであふれています。ミソジニーって何、ですって?「女性嫌悪」と訳します。もっと詳しく知りたければ、上野の著書『女ぎらい ニッポンのミソジニー』(朝日文庫、2018年)を読んでください。
ネット界の一部には、女性を口汚く罵ることで鬱憤を晴らす人々がいるようです。#MeTooの伊藤詩織さんも#KuTooの石川優実さんも、ひどいバッシングを受けました。かくいう上野も叩かれています(笑)。それだけで気持ちも萎えるほど悪意に満ちていますが、匿名の世界ですので、どんな人たちで何人いるのかはよくわかりません。実のところは、小心で卑劣な少数のひとたちの強がりにすぎないかもしれません。ネット界を現実ととりちがえないでください。とりわけ短文で言いっぱなしのSNSのメッセージを真に受ける必要はありません。
何かを発言すれば、共感と反感の両方が来ます。片方だけ、ということはありません。でも共感と反感が6対4なら?引き算したら共感の方が多いのだから、それでいいんです。5対5だって、半分は共感ですから、上等です。反感や批判が怖ければ、黙っているしかありません。人が動けば風が起きます。摩擦も起きます。追い風も逆風も吹きます。逆風の強さは、あなたが無視できない力を持った証です。スルーされるより、よっぽどましでしょう(笑)。
ネット界での女性の発信は、出遅れていました。そのために、私たちは女性に安全な発言の場を確保する目的で、WANを作りました。ネットの世界には双方向の送受信を可能にする特性があるのに、WANサイトに掲載される記事の多くには、コメント欄が空けてありません。それというのもフェミ(ニズム)・パトロールをやっている(らしい)バックラッシュ派のひとびとから「くそリプ」(「くそリプライ」こと、「くそったれな反応」のことです)が来るのを防ぐためです。たとえアタマ悪そうな「くそリプ」でも、悪意ある反応を目にするのは、精神衛生によくないですからね。
WANではいっそのこと、「くそリプ」にどう対抗するか、そのノウハウ集を作ろうという声も挙がっています。「くそリプ」の種類は限られていて、メニューに多様性がなく、逆襲するのが簡単だからです。どうです、やってみませんか?
フェミニズムについてのお母さんとお父さんの考えが、食い違っているということですね。まさにこの認識のジェンダー・ギャップにこそ、フェミニズムの存在意義があります。もう18歳ならお母さんに、これまでの人生や夫との関係について、聞いてごらんなさい。お母さんの言い分とお父さんの言い分との、どちらに分があるか、あなた自身で判断してください。そしてお父さんがまちがっているなら、きちんと反論してください。
いちばん大事なのは、仲間を見つけることです。フェミニズムは頭でっかちな知識ではありません。「フェミニズムに精通する知人」がいなくても、日常の経験から共感できることはいくらでもあります。フェミニズムは、あなたが感じるような「もやもや感」から出発しました。フェミニズムから生まれた女性学は、女の経験の言語化と理論化をやってきました。こういう経験をどう名付ければいいのか、不当な非難にはどうやって対抗すればいいのか、と思ったら、たくさんの本がありますから、ことばを学んでください。そうすれば、あ、そっか、あれはミソジニーっていうんだ、お父さんの態度は家父長制って呼ぶんだ、お母さんのやってる家事は不払い労働だったんだ...ってことがわかるはずです。ことばは大事です。ことばは対立する相手に斬り込む武器にもなりますし、自分を守る盾にもなります。
大学に行ったらたくさんの女性や男性に会うでしょう。いろんな教授や社会人にも会うでしょう。フェミニズムを学びたければ、ネットで探索するだけで、サークルや集会やシンポジウムなどが至るところで開催されています。出かけていって、共感できる人たちと出会ってください。自分はひとりじゃない、と感じてください。
七海さんは理系女(リケジョ)を目指しているんですか。それなら男の世界の少数派になる可能性が高いですね。でも、心配しなくてもいいですよ。男性もいろいろです。きちんと自己主張するあなたを評価する男性だって、かならずいます。自分を殺して男性に気に入られるより、自分に正直に生きるほうが、ずっと美容にも健康にもいいですからね。それに女を尊敬できない男にろくな男はいませんから、そんな男は相手にしないことです(笑)。
WANはそのための情報の宝庫です。イベント情報を見てください。WAN主催のシンポやWAN上野ゼミにも足を運んでください。5月16日にはWANの大会シンポ@立教大学 があります。あなた自身の情報発信の場としても、活用できます。
七海さんの筋道立った的確な文章表現を読んで、18歳でこれだけのことが言えたら、たいしたものだと感じました。大学生になったあなたと、どこかでお会いしたいものですね。
2020.03.27 Fri
カテゴリー:ブログ
タグ:フェミニズム / 私とフェミニズムの間 / 親フェミニズム / 反フェミニズム