今年で5回目を迎える「イスラーム映画祭」は、主に中東やアジアなど、イスラームが広まっている国や地域を舞台にした作品、あるいはムスリムの人たちを主人公にした作品を集めた映画祭だ。毎回、ミニシアターでの企画上映という形をとっており、今回は渋谷ユーロスペース(すでに終了)、名古屋シネマテーク(8月22~28日)、神戸・元町映画館(9月19~25日)の3館で開催される。
これまで企画運営のほとんどを一人で仕切ってきた主宰の藤本高之さんは、バックパッカーの旅をとおしてイスラーム圏の国々に魅了され、イスラームと共に生きる人たちの多様な姿をもっと広く伝えることで、イスラームに対する理解が深まり、さまざまな誤解や偏見も取り除かれていくのではないかと考えて、映画祭の開催を思い立ったのだそうだ(限定販売のムック本『イスラーム映画祭アーカイブ2015-2020』ほか、インタビュー記事:文末に紹介より)。
改めて言うまでもなく、宗教とジェンダーは密接なかかわりがある。本映画祭ではそれも意識されており、イスラームを背景に、女性の人権や女性たちの暮らし・人生をめぐって描かれる作品も数多く取り上げられてきた。
たとえば、本サイトでも紹介したことのある『禁じられた歌声』、『存在のない子供たち』(2018)が記憶に新しいナディーン・ラバキー監督の『私たちはどこに行くの?』、無実の罪で収監されたパレスチナ人女性がイスラエルの刑務所で出産するという出来事を描く『ラヤルの三千夜』、アフガニスタンで初めて作られた女子ボクシングチームに参加する少女を映した『ボクシング・フォー・フリーダム』などである。
今回の映画祭では、再上映4作品を含む、13作品が上映される。
筆者が知っている作品の中では、イエメンを舞台にしたイエメン初の長編映画『わたしはヌジューム、10歳で離婚した』(再上映作品)を強くお勧めしたい。幼くして結婚したヌジュームが、ある朝家を飛び出し、裁判所へ駆け込む。いきなり「離婚したい」と訴えられ驚いた判事に、彼女は自分が嫁がされることになった経緯と、婚家で夫や姑から受けた暴力を語り始める・・・といった物語だ。書籍化もされている、実話に基づいて作られたフィクション映画である。
イエメン出身のハディージャ・アル・サラーミー監督自身も、11歳で結婚させられた経験があると語っている(インタビュー記事:文末に紹介より)。児童婚が、それを強いられる本人にとってどういう経験であるかについて少女の眼差しから語り、同時に「慣習だから」と無批判に児童婚を受け入れている周囲の大人たちの振る舞いや、幼い娘を結婚させる親たちが抱える事情にも光をあてて描かれている。
イエメンは、結婚できる最低年齢が定められておらず、児童婚の因習が残る国だ。このところの内紛の影響で、児童婚の割合はさらに高まっているという。ちなみに国連児童基金(ユニセフ)では、児童婚を「18歳未満での結婚、またはそれに相当する状態にあること」と定義しているが、それをふまえれば、婚姻年齢がようやく2022年から男女ともに18歳に引き上げられる日本にとっても、児童婚は全く無縁な制度とは言えないだろう。
最後に以下、上映作品の全タイトルのみ紹介する。日本初公開となる作品も多いため、ぜひ、劇場もしくは公式ウエブサイトから作品をチェックし、この機会に1作品でもご覧いただきたい。公式ウエブサイトはこちら。(中村奈津子)
<上映作品>
「アル・リサーラ/ザ・メッセージ(アラブ・バージョン/デジタル・リマスター版)」
「銃か、落書きか」
「ゲスト:アレッポ・トゥ・イスタンブール」
「ガザ・サーフ・クラブ」
「ハラール・ラブ (アンド・セックス)」
「ベイルート - ブエノス・アイレス - ベイルート」
「ラグレットの夏」
「イクロ2 わたしの宇宙(そら)」
「神に誓って」
「私たちはどこに行くの?」
「アブ、アダムの息子」
「花嫁と角砂糖」
「わたしはヌジューム、10歳で離婚した」
参考1:藤本高之さんインタビュー記事
「祝祭のイスラーム「イスラーム映画祭5」主催者・藤本高之さんインタビュー 2020年3月12日」(キリスト新聞社)
参考2:ハディージャ・アル・サラーミー監督インタビュー記事
「児童婚の当事者が「今しかない」と撮った 「10歳で離婚した少女」が映画に」(2019年3月16日 朝日新聞社GLOBE+ 文責:高橋友佳理)