◆地方への移住・起業など新たな動きが若い世代で台頭している
講義をしている明治大学農学部食料環境政策学科「食文化と農業ビジネス」(171名)、フェリス女学院大学国際交流学部「地域と食文化」(151名)の講義が終了した。大学の講義は前期1コマのみを受け持っている。最終のレポートは、これまでの講義で印象に残った各地の取組、それに将来の実現したい夢を書いてもらった。これがしっかりと驚くほど充実した内容で記述されていて、講義内容が伝わったのだなと嬉しく何度も涙してしまった。

学生たちが書いてきた最終講義でのレポート。隙間なくびっしりと書き込まれている。
講義は2年ぶりの対面授業。やむなく登校できなかった学生はオンラインで対応した。
コロナでこの2年間に、各地の地域の状況が一変した。ニュースではコロナで飲食店の客が激減、観光地の人が減る、患者が増えるなど、マイナス面が流れた。しかし逆にこれまで日が当たらなかった部分での新たな動きも出始めた。
大学の講義では事前に1年半をかけ、現地のリサーチを行った。すると地方に都市から若い人の移住が増え、起業しイノベーションを起こし始めている人が多くいる。農産物直売所で生鮮を充実させてきたところは売り上げを伸ばしている。これまでの観光地ではない古民家のリノベーションから生まれた宿泊、コワワークスペース、商店など、新たなところにはニーズがある。町全体をマネジメントして地域連携を行い、町をまるごとホテルにする試みが生まれている。など、新たな動きが若者を惹きつけてていることがわかった。
取材活動をベースに講義では毎回150点ほどの写真を使い、できるだけわかりやすく、将来に繋がるように授業を進めてきた。
2014年、国が地方創生法を制定して「まち・ひと・しごと総合戦略」を創設し、どの自治体も国のミッションに合わせ、政策を遂行することとなっている。その具体的内容もホームページで公開されている。この政策遂行のなかで、若者の起業、定住、移住、子育て支援、などがあり、かつ人材育成、移住補助など手厚い支援金を出し、相談窓口も充実してきている。
そのことから、学生には、地方でも新たな仕事があること、若者を支援する窓口・支援金もあること、インターシップの制度があることなど具体例や実践活動・人を紹介した。
まち・ひと・しごと創生 - 地方創生 (chisou.go.jp)(内閣府)
https://www.chisou.go.jp/sousei/mahishi_index.html
◆大学の講義で学生から反響が大きかったベスト7
1・若者の起業支援。高知県「土佐MBA」、和歌山県田辺市「たなべ未来創造塾」
若い人たちの学ぶ場を行政・大学・金融機関・事業者の連携で創り、新たな仕事と自己実現に繋ぐ活動で大きな成果をあげている。移住も起業も増えている。学ぶ場を創りプランを練り融資も行う制度。学生からは「こういう取組を全国に広げてほしい」「こんな制度があるなら、自分も参加したい」と大きなリアクションがあった。

和歌山県田辺市「たなべ未来創造塾」。産官学金融連携の若者の起業支援塾。起業率76.6%。学生の共感度が高かった事例。
たなべ未来創造塾の概要|田辺市 (tanabe.lg.jp)
https://www.city.tanabe.lg.jp/tanabeeigyou/miraijyuku6-gaiyou.html
2・地方への移住・定住の支援
東京・有楽町「ふるさと回帰支援センター」では、45道府県の移住相談窓口がある。さまざまな移住支援策を各自治体が出している。セミナーも頻繁に実施されている。県や市町村などにも相談窓口があり、移住の支援や起業資金、空き家の改修補助、子育ての支援など、自治体それぞれに手厚い支援策を設けている。それを知って「将来、地方で暮らしたい」という声がいくつもあり、実際に調べたり相談窓口を訪ねた学生もいたようだ。
「ふるさと回帰支援センター」https://www.furusatokaiki.net/

3・女性の農業・地域活動参加
上野千鶴子先生(社会学者・東大名誉教授ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長)から「女性に焦点をあてて書いてください」と懇願されて始まったのがWEBサイトWANの連載「金丸弘美のニッポンはおいしい!」。理事長をされているWAN(認定NPO法人ウーメンズ・アクションネットワーク)のメンバーのサポートで始まったもの。タイトルも上野先生の命名。地方で活動する女性を紹介したものだ。これが私の視点も変えた。地方で農業や食に携わりマネジメントや商品開発をしている女性たちが、これまでにない発想で持続社会を生み出している。農産物直売所でさまざまな加工品を生み出し食品ロスをなくし、地域住民に必要な品ぞろえを行い、個人農家の所得を増やし、自立できる経済を生み出す、消費者ニーズに合わせてレシピ提案を行い食べ方伝えることで売り上げを伸ばすなどの女性たちの活躍がクローズアップされることとなった。
「地方の農業は男社会で高齢者が多く衰退していて若者はいない」という固定概念が学生たちに多かったようで、それを覆すたものとなった。女子学生から、「紹介された女性のように強い意志で、自分の夢を叶えられるようになりたい」「地方でだって仕事ができるということ教えてもらった」など、反響は大きかった。

埼玉県秩父市「株式会社ベンチャーウイスキー(秩父蒸溜所)」のアンバサダー吉川由美さん。世界に国産ウイスキーを発信。女子学生の共感がもっとも高かった事例のひとつ。
https://wan.or.jp/article/show/8147
「金丸弘美のニッポンはおいしい!」WEB連載配信中
http://www.banraisya.co.jp/kanamaru/yotei/yoteidetail.php?&no=768&a=2017
4・イタリアの農村観光アグリツーリズム
イタリアでは「アグリツーリズム」という農村の農家をリノベーションし、新たな宿泊と観光と食を連携する活動が、行政・大学・金融支援で実施され、全国で2万軒以上ある。若い人の経営が増えている。この制度を日本でも行うべきと共感度が高かったもの。また、「こんな仕組みがあるなら、私も祖母の家で実践してみたい」という声もあった。

学生に反響の高かった農業インターシップの案内。公益社団法人日本農業法人協会がだしているもの。250法人が受け入れを行っている。
5・農業の無料で参加できるインターシップ制度
農業では、ここ10年で毎年5万名が新規就農。このうち49歳以下が毎年2万名いる。農業をする前にインターシップ制度があり2日から6週間、無料で参加できる国の支援事業がある。250以上の受けいれ農業法人がある。初めて知ったという学生が圧倒的。参加したいと申しこんだ学生もいた。新規就農というと農業生産を思いがちだが、農業法人のなかには、レストラン、直売所、商品開発、通販をしている企業形態のところもあり、就職という道もある。新規就農の若人2万名のうち約7000名が農業法人の就職を選択している。インターシップ制度を利用したい参加したい、なかには就職を考えなおしたいという声が届いた。
農業インターンシップ| 公益社団法人 日本農業法人協会 (hojin.or.jp)
https://hojin.or.jp/agri/agri_category/human/internship/
6・空き家をリノベ―ションした新たなビジネスや暮らし方
空き家は全国840万戸。空き家率は13.6%。国家問題にもなっている。ところが、若い建築家、設計家を始め、移住した若い人たちなどから、空き家をリノベーションしてゲストハウスに、カフェ、コアワーキングスペース、などなど、さまざまな新たな活用が始まっている。そのネットワーク「日本まちやど協会」、「ゲストハウスサイト footprints」、古民家を繋ぐ「gochi荘」なども生まれている。それらに日本政策金融公庫や地銀などが融資しているケースもある。UIターンも多い。学生からも、空き家が目立つ、田舎の家の今後をどうするか話がでているなどの声もあり、「古いものを上手く生かして新たな活用があるなら自分たちもやってみたい」という反響が多くあった。女子学生にいちばん多かったのは、「古民家を生かしたカフェを将来やってみたい」という声だった。
「日本まちやど協会」 https://machiyado.jp/
「ゲストハウス情報マガジン FootPrints」https://www.footprints-note.com/
「おいしい宿に泊まろう gochi荘」https://gochisouoyado.com/

「古民家ゲストハウス やまぼうし」(兵庫県 丹波・篠山)「gochi荘」より
7・食育基本法と医療費用と生活習慣
講義の最初に「腸内セルフチェックシート」「BMI」で自己健康判断をしてもらっている。そこから、生活習慣や食生活の大切さを知ってもらい、成人し年齢が増えるとともに肥満や高血圧、糖尿病など生活習慣病が広がり、医療費負担が大きいことを伝えている。また学校や病院などでも食育活動が行われていることを伝えた。女子学生ではダイエット志向が高く、それも自己流で体調を崩すケースが少なくないことがレポートでもわかった。若い世代の「やせ過ぎ」も食生活では課題となっている事項だ。食育は、若い世代にこそしっかり伝えるべきと改めて思ったものだ。
講義の学生の感想を通して思ったことは、若い人への起業や子育て支援など、さまざまな施策や未来を拓くイノベーションが各地で動いている。だが大学生には十分伝わっていない。中学・高校から、若い人への未来を築く活動を行っていることを、各自治体や学校でもしっかり伝えていくべきだと思ったのと同時に、各地の豊かな未来を創る活動のノウハウ連携をしっかり行っていかなければならないと思ったものだ。
(この記事は『月刊社会民主』2022年9月号に連載「田舎力 地域力創造Vol.151」として掲載されたものです。編集部の許可を得て転載しました。)
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