2011.10.29 Sat
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14歳の少女がナチ強制収容所で綴った手記。1929年にルーマニアのトランシルヴァニア地方でユダヤ系一家に生まれた著者は、1940年にトランシルヴァニアがハンガリーに併合され、1944年3月にナチがハンガリーに進駐すると、同年夏、アウシュヴィッツ強制収容所に移送される。本書には1944年6月から9月あるいは10月までの手記が収められている。収容所の彼女は隠し持った鉛筆で、書ける紙になら印刷物でも、トイレットペーパーであろうと(カポ〈囚人の中から選ばれた監守〉にノートを貰う幸運もあったが)、とにかく何にでも書きつける。そして別の強制収容所に移されるたびに、靴の中に手記をしのばせ、これを守り抜く。 「はじめに」のなかで、大人になった著者は、飢えの強迫観念から逃れるため、群集のなかに埋没してしまわないよう、プライベートな世界を守るために、書くことは必要なことだったと記している。「かつての生意気娘」が女子収容所の日常を描くこの手記は、生きたいという強い意志に満ち、ときに辛辣で、14歳とは思えないほどの怜悧な観察に基づく。本書はわたしたちが「強制収容所で綴られた少女の手記」という言葉からイメージするものとはほど遠いかもしれない。けれど疑ってかからなければならないのはむしろそのイメージのほうなのだろう。(lita)