北イタリア・ピエモンテ州アルバ在住で人と地域と食文化や環境や営みを繋ぐGEN(げん)を主宰する齋藤由佳子さん。
彼女が企画した海外からの日本ツアーが2023年2月から3月にかけて組まれた。参加メンバーはイタリアとフィンランドからの12名。発酵や農業、シェフ、アグリツーリズモ(農村観光)の経営者など、持続社会に現場から取組むプロフェッショナルな人たちだ。
国内各地を10日間かけ、鹿児島、埼玉、群馬、東京、静岡などを巡り、酢、焼酎、納豆、味噌、酒造、鰹節など、発酵文化をメインとしたサスティナブルな取り組みを学んだ。
イタリアとフィンランドから持続社会に取り組む人の国内ツアーが実現

埼玉県入間郡三芳町の石坂産業「石坂オーガニックファーム」の
「納屋茶寮MEGURU」でのイベントで司会をする齋藤由佳子さん。※
GENが主宰する日本でのツアーが組まれたのは3年半ぶり。コロナのために交流ができなかったためだ。齋藤さんは、2016年に設立した『株式会社GEN Japan』の代表取締役社長CEO。資料によれば「2014年 イタリア政府公認スタートアップとして設立、2016年 日本法人 GEN Japan設立。食の伝統の知恵や技術を知り、継承し、イノベーションにつなげる人材教育を、体験と国際交流をキーワードに企画している。
現在は食のみならず、建築や暮らし、環境分野にも関わる。行政や企業からの委託事業〈イタリアをはじめとする欧州圏でのリサーチ、地域発信、国際交流プログラムの企画・制作、国際広報戦略コンサルティングなど〉と、自主事業〈プロフェッショナルや学生向けの、食や伝統を体験するツアー〉がある」とある。
30か国以上のメンバーとのコラボレーションを手掛ける
齋藤さんはこれまで30か国以上の食や環境や文化事業に携わる人たちと各地での連携や学びの場のマッチングなどを行っている。例えばミラノで2015年におこなわれた国際万博の日本食のプロモーションのコーディネート、山形県鶴岡市のユネスコ食文化創造都市の国際交流のサポート、鶴岡市とイタリアとの食文化の交流事業なども手掛けた。健康と食と伝統と持続社会への取り組みの活動を行う人と場とコトを結び、ノウハウの連携と学びの場を提供していく、それらを繋ぎ発信もしていく活動だ。
齋藤由佳子さんは東京都渋谷区出身。武蔵野美術大学を経てロンドンに留学。2000年に株式会社リクルートに入社し、求人広告制作などを担当。同社のBusiness View制度に合格しシリコンバレーに駐在。サンノゼ大学で経営を学び、帰国後にインターネットマーケティングやアライアンス(企業間提携)を担当。社内の新規事業提案コンテストRingでグランプリを獲得し、2007年より同社の先端研究所メディアテクノロジーラボにてHR部門(人材育成事業)および「ゼクシィ」の新規事業プロジェクトマネージャーなどを務めた後、ワイン流通会社を起業。2010年にリクルート退社。2011年、東日本大震災をきっかけにヨーロッパへ親子で移住。2013年にスローフードの創設者がかかわり設立されたイタリア食科学大学大学院(ピエモンテ州)に入学した。
イタリア食科学大学大学院 https://www.unisg.it/en/

イタリア・ピエモンテ州ポレンツォにある食科学大学
卒業後、現在の会社を設立することとなる。会社運営は、食科学大学で知り合った夫と、もう一人、エミリアロマーナニャ州在住で大学の卒業生だった岡崎啓子さんと3人と行っている。毎回のプロジェクトは、これまでのネットワークでチームを組むという形で行われている。
WANの連載「秩父蒸溜所」アンバサダー吉川由美さんの記事が海外に繋がる
今回、ツアーのために来日する齋藤由佳子さんのインタビューを行うことになったのは、WANでの連載「金丸弘美のにっぽんはおいしい!」第13回に登場された埼玉県秩父市・秩父蒸溜所(イチローズモルト)のアンバサダー吉川由美さんの記事をGENのスタッフである岡崎啓子さんが読んで、「来日メンバーと吉川さんを繋いでほしい」と筆者(金丸)に依頼をいただいたのがきっかけ。秩父蒸溜所は発酵で世界的に知られることとなったところ。しかし一般向けの見学は行われていない。そこで筆者が直接、吉川さんに連絡をしたところ、来日メンバーの受け入れを快諾していただけた。後日の報告によると、秩父蒸溜所の視察は参加メンバーに好評だったとのことだった。
吉川さんのWANの記事:連載第13回「国産ウイスキーの素晴らしさを一人でも多くの人に知ってほしい」
https://wan.or.jp/article/show/8147

ブランドアンバサダー吉川由美さんとイチローズモルト
こうした経緯を理事長の上野千鶴子さんにお伝えしたところ「WANの記事が海外にも繋がっている。これまでの蓄積から素敵な実りが生まれました!」と返信をいただき、「ぜひ紹介を」ということから特集を組むこととなったというわけだ。
スタッフメンバーはイタリア食科学大学卒業生の岡崎啓子さん
連絡をいただいた岡崎 啓子さんは、齋藤さんと同じくイタリアの食科学大学の卒業生。実は、彼女と筆者は、イタリアのスローフード食科学大学やスローフードの食の祭典「サローネ・デ・グスト」の取材のときに出会っている。当時、岡崎さんは、イタリアの食品の販売・レストラン・教育事業を行う「イータリー」社トリノ市 本店(Eataly S.p.A.) https://eataly.co.jp/で働いていらした。

「イータリー」トリノ市本店
日本を主とする海外展開事業に関わっていて、「イータリー」の日本支店が東京・代官山にできたときに来日。そのとき筆者がコーディネータとして携わっていた総務省・茨城県常陸太田市の食の地域づくり「常陸秋そば」、農林水産省・岐阜県高山市「宿儺かぼちゃ」のブランド事業のプロモーションをサポートしていただいた。
蕎麦もカボチャもイタリアでも古くから栽培されていて、同じ伝統的な作物もまったくことなる食べ方あることを教えていただいた。レストランを貸し切りにして、「イータリー」のトップシェフに参加していただき、蕎麦はロンバルディア州山間部ヴァルテッリーナ地区の伝統パスタ「ピッツォッケリ」に、カボチャはリゾットやスープなどフルコースで参加者に提供していただいた。このとき、食材の文化背景から歴史、品種の特徴、料理、味わいまで伝えてくれた。これはスローフードで行われていることだ。さらに常陸太田市、高山市では、農家や料理家など出迎え、伝統的建造物を使った場にツアーを組み込むことも行った。つまり、今、よくいわれるガストロノミー(食文化を通じての交流)を形にしていたわけだ。これらの活動は、さまざまなメディアに登場することとなる。

代官山「イータリー」で、イタリアの伝統食ピッツォッケリを解説するシェフと岡崎啓子さん
岡崎啓子さんは1977年 埼玉の兼業農家に生まれた。2000年 東京女子大学 現代文科学部コミュニケーション学科卒業(現:現代教養学部)卒業後、イベント制作会社に就職。「案件ごとに異なる業界を垣間見る中で、自分にとっては『食」に関わるのが一番楽しく、自分のルーツにも深く影響していたことに気づきました。当時日本に伝わり始めていたスローフード運動にも注目していたところ、スローフード協会が『食」の全く新しい学びを提供する大学を新設することを知り、2004年渡伊しました」。その後、トリノに本店があるイータリーに入社し、高品質な生産者とのリレーション、仕入れ、輸出入を日伊両サイドからサポートしたほか、事業コンセプトや生産者を深く知り語れる要員がいなかったために、メディア対応やイベント企画も担当。2008-2014年まで勤務。その後出産・育児休暇を経て、GEN Japan/JINOWA consortium メンバーとなったとのこと。
現在はワイン醸造家の夫と子ども二人と、イタリア・エミリアロマーニャ州に家族で住んでいる。残念ながら今回のツアー参加は叶わなかったが、岡崎さんを通じ齋藤由佳子さんと出会うこととなった。そして岡崎さんからは取組の資料が続々と届いた。
齋藤由佳子さん紹介の記事。
https://ideasforgood.jp/2021/06/07/jinowa-interview/
(GENを母体とする、JINOWA(じのわ)という「土」のためのコンソーシアム紹介記事)
https://ideasforgood.jp/2021/06/07/jinowa-interview/
(2022年9月にSony CSL 舩橋博士を迎えてイタリアで行った視察ツアーのレポート。執筆者は齋藤由佳子さん)
https://ideasforgood.jp/2022/12/09/jinowa-italy/

2月25(土) フォーラム「発酵と土壌の国際フォーラム Living Soil, Living Food」。 ファシリテーターの齋藤由佳子さん(右)※
埼玉県のメイン会場は里山と農業を再生させた「石坂オーガニックファーム」
今回のツアーでメイン会場となったのが、埼玉県入間郡三芳町上富にある産業廃棄物処理会社でリサイクルを手掛ける「石坂産業」(石坂典子代表取締役)https://ishizaka-group.co.jp/ が里山を保全させて農業や食の体験と食と循環型環境の学びができる場にと再生させた「三富今昔村」内の「石坂オーガニックファーム」だ。https://www.ishizaka-farm.co.jp/

石坂オーガニックファーム
実は、GENの齋藤さんと石坂オーガニックファームは以前からコラボレーションをしていて、循環型農業と資源再生リサイクルと環境教育に取り組む活動を広く知ってもらうために発信する石坂オーガニックファームのサイト運営をGENが引き受けている。今回のツアーはリアルで海外の人たちと繋がり、現場を知ってもらい、そこから連携を行って世界へ発信をしていこうと言う初の試みだ。

埼玉県でのツアープログラム内容
リサイクル化率98%の土砂系混合廃棄物のリサイクルプラント石坂産業
石坂産業は、リサイクル業では突出した存在。池袋から東武東上線『ふじみ野駅』より車で約15分のところにある。建設物の解体から排出される瓦礫類、コンクリート、屋根、プラスチック、木材、金属などを中心に土砂系混合廃棄物と呼ばれるものに特化したプラントとして作られた。周辺に広大な里山があり、敷地は東京ドーム4・5個分以上。リサイクルプラントがある敷地は全体の2割にも満たない。周辺は市街地調整区域で住宅がほとんど建てられない。13名の地主と一緒に落葉樹の里山の保全活動が行われている。

石坂産業のリサイクルプラント
里山は、かつてゴミの不法投棄で処理に困難をきたしていた。それを石坂産業がボランティアで片づけを行ったという。このボランティア活動が地域に受け入れられ、里山の持ち主から土地をあずかり、里山再生活動に発展する。環境学習の場として一般開放し、自然観察会や里山の自然を教材としたさまざまな体験プログラム、食育体験などを設け、入村の際に大人からは保全費として入村料を協力してもらうようにし、他の売上も維持管理費に回すようにした。村内にはレストラン、カフェもある。農業法人も設けて農業にも取り組む。国際基準の生産工程管理基準グローバルギャップ認証、JAS有機認証も取得し在来種も含め100種類以上の作物を栽培する。それが「三富今昔村(さんとめこんじゃくむら)」だ。https://santome-community.com/about/


自然農法の畑と食事ができる「くぬぎの森 交流プラザ」
石坂産業周辺の一帯は江戸時代に開拓され「三富(さんとめ)」と呼ばれた。三富とは三芳町上富、所沢市・中富、下富を合わせた名称。埼玉県の川越市、所沢市、狭山市、ふじみ野市、三芳町にまたがる広大な地域だ。350年前に開墾された。当時はすすき野原で木々は1本もなく10キロの範囲に川がなかった。5代目将軍徳川綱吉の側用人・川越藩主柳沢吉保が農産物を栽培し藩政を豊かにするために開拓をしたという。
植林をし、森を作り木々が根を張り地下の水を吸い上げ、そこで井戸を掘り、水を確保し、1軒あたり幅72メートル、奥行き682メートルの短冊形の土地に、家屋、畑、雑木地を作り、人を住まわせた。屋敷の周りにはケヤキ、ヒノキを植え防風林に。成長すれば材木資材に。落ち葉は堆肥化して肥料にするという。実によく考えられた循環の仕組みが築かれていた。そのことが歴史と地域を学ぶうちにわかり、循環と持続的な農業の継承を行うと同時に、資源を有効かつ利用・理解できる場にということから石坂オーガニックファームの活動が始まった。

石坂オーガニックファーム
石坂産業は、資源再生工場見学、環境学習ができる場として、三芳町と包括協定を結び活動をしている。三富今昔村は埼玉県で唯一「体験の機会の場」(民間の団体が提供する自然体験活動などの体験の機会の場に対し、国・都道府県知事、政令都市または中核市の長が認定する)として認定されている。2023年5月現在、全国30団体しかないという。2017年に環境省と協定を締結し、環境省と協働事業で「体験の機会の場」の充実・拡大にも取り組み、環境教育の学びの場としても活動がされている。小学校、中学校、大学の授業のフィールドとしても使われている。海外からの視察も多い。グローバルな活動から齋藤由佳子さんのGENとの連携事業が生まれ、今回が初の現地ツアー受け入れとなったというわけだ。

リサイクルプラントの視察※
海外メンバーと埼玉県の発酵食のプロフェッショナルが交流
2023年2月24(金) 夕方から行なわれたのは、石坂オーガニックファーム内にオープンした「納屋茶寮MEGURU」お披露目会。メディア関係者を中心としたクローズドイベントでメディア関係者だけで20名近くが集まった。「納屋茶寮MEGURU」は、古くからあった農家の古民家を移築し、リノベーションして民具や農業の道具なども上手くお洒落にインテリアに活かした落ち着き懐かしい空間。ファームで採れた季節の野菜をふんだん使った料理やハーブティなどを提供し、これまでの環境と循環の仕組みと土壌の大切さを食文化を通して、知ってもらおうという試みが行われる場所だ。

「納屋茶寮MEGURU」のお披露目会
さらに2月25日(土) 午後から行なわれたのは フォーラム「発酵と土壌の国際フォ-ラム Living Soil, Living Food」。石坂典子石坂産業社長、林伊佐雄三芳町町長が挨拶を行った。そして土壌研究の第一人者である北里大学・陽捷行(みなみかつゆき)名誉教授の基調講演。土壌微生物と生物多様性と人の体と腸内細菌とは密接にかかわって、土壌を守ることは、持続社会に繋がることが紹介された。
その後、齋藤由佳子さんがファシリテーターとして、埼玉の発酵食品生産者数社とイタリアで味噌や醤油を作る発酵マイスターも交えてトークセッションと試食を行った。埼玉県内の醤油や味噌や漬物、酒造の職人が食を紹介し、試食・試飲もできる交流の場となった。





2月26(日) は、 終日、埼玉の発酵食品生産者視察(海外からの参加者のみ)として、冒頭に紹介した秩父蒸溜所(イチローズモルト)をアンバサダーの吉川由美さんの案内のもと訪問した。秩父蒸溜所は世界的な発信の場があり、 エコフィールドにもなっていて、木樽を復活させたり、国産小麦の栽培をすすめたり、残渣を豚の飼料にもされたりしている。 ウイスキーを作るだけでなく環境の取り組みの話を聞かせてもらえないかと吉川さんに伝えられた。
なお、齋藤由佳子さんのインタビューは、石坂産業でのフォーラムの前。2023年2月20日(月)、多忙なスケージュールをぬって神谷町のカフェで行われた。

石坂オーガニックファームに集まったメンバー
海外からのメンバーは日本文化を学びたいと自主的参加
「石坂産業のオーガニックファームは、ただの農園ではない。人のつながりや循環を学ぶということが目的の場です。今回ツアーに参加して来日したのは食のプロフェッショナルの人たち。ホテルやレストランのオーナーだったり会社の起業家だったり。募集したのではなく今回パネラーのひとりで、イタリアでお醤油・味噌を作る発酵食品の第一人者カルロ・ネスラーさんのネットワークのメンバーです。 お互いに勉強し合うことで日本の発酵文化についてよくわかっていて、さらに自主的に学びたい方が12名が参加されました」と齋藤さん。
参加費用は、ひとり3000ユーロ。飛行機代別だという。

今回のツアーに参加された方たち※
「過去に参加されたイタリア人の左官職人や建築家は、ミラノのビオ建築協会という自然素材を活かす建築の研究会に所属していました。みなさん常日頃から自然や環境について勉強されている方たち。ホテルのオーナーさんは、健康とか 免疫とか、そういうことに関心が高い。そこで自然療法といえばということで 酵素風呂に連れて行くとかもしました。ベネチアから参加したミケエレさんは、私たちが今ベネチアで進めている生態系回復のプロジェクトにも関わり、日本の昔ながらの循環型トイレの話に興味をもっていました。彼はパーマカルチャーとか農業の専門家でイタリアではアグロエコロジストで、彼の畑ではヴェネチアの五ツ星ホテルの野菜を作る畑の管理をしています」

石坂オーガニックファームでのフォーラムと交流会
「ステファノさんっていうのはいわゆるシェフ。ジュリアさんはカルロさんの発酵調味料を使ったレシピを開発する女性シェフ。ビーガンの料理教室をしたり病院と連携して免疫力の上がるようなメニュー開発をしたりする人。ダニエルさんはシェフです。 彼はオーナーシェフで、スペインやカナダなどでも活動をするグローバルな人。 イエレルさんはスペインのスローフード活動をしていて、レストランのシェフでもあるんですが、スペインの田舎で育ってコミュニティに根ざした食の教育活動をやっている。こういったレストランは一般のマーケットから食材をなるべく買わず、山でとれた山菜を使うとかしている。山形県 鶴岡市の羽黒山のお山の精進料理に通じるものがあるかなと思っています。ミッコさんはフィンランドの森林資源を循環させるバイオ起業家で、農業現場で廃棄される資源、藁やすすきなど使われていないものを循環させ人の暮らしに役立つ新しい素材を生み出す事業家です」

三富今昔村と石坂オーガニックファーム内の案内 ※
「マルチェッロは若い物理学者です。彼は面白いですよ。農業工学者の福岡正信さん(1913年 ~ 2008年。愛媛県の農学者で自然農法を提唱した) の書籍の 翻訳もしているph・D(=Doctor of Philosophy)の物理学の博士です。日本語もできます。アドリア海に面するリミニでの宿泊をやっているキアラは自然療法の資格を持っていたりする方。サーマルセラピーなど身体をどう根本から健康にするかの研究をしている。みんな研究分野は異なりますが発酵や循環型農業に携わっています」
今回の実施はすべて自主的な企画。参加者の予算で賄われ、フィールドの提供を石坂産業の協力を得て行われた。

ファームでの食材を使った料理の紹介 ※
「石坂産業さんのような環境再生に取り組む先端企業のフォーラムに参加体験できるというのは、参加者にとっても非常に価値あることです。他ではできない濃い体験はプログラム自体の価値を上げていきます。受け入れる行政や企業にとっても海外からの専門家からのフィードバックは新しい気づきや今後の地域づくりのヒントになる。双方にとってウィンウィンになることを目指しています」(齋藤さん)
受け入れる地域が主導して体験を設計することも重要だが、異文化の視点を受け入れプログラムの参加者の要望に向き合って有意義なプログラムを作ることも重要という。
「バランスがとても大切です。今回の参加者を敬意をこめて形容するなら『今後の新しい時代を切り開くクリエイター』だと思っています。彼らと今後地域全体のサスティナブルを考えるときに心掛けたいのは食や農とサスティナビリティをもうバラバラに話す時代ではないということ。全部すべて繋がって考えていくべきです。食べるものはオーガニックだけど着ているものは大量生産のファストファッションとかになってしまうのが現状の社会では普通です。でも最終的には全部矛盾なく、循環を考えないといけないわけですから。そういう意味で彼らは生き方も含めて 本当にロールモデルだと思っています。そういう人たちに向けて彼らの創造のインスピレーションになるようなことが、日本の古来の知恵の中に実はたくさんあるように思います。これからのイノベーションにつながるようなものが伝統知に既にあって、そういうものを再発掘して違った目線で活用されることで 日本文化がまた違った形で検証されていって進化して行くのではないかという思いが強くあります」。
彼らは世界各地でひとりひとりが大きなコミュニティを持っていることの意味も大きい。
「彼らに種を植えれば 絶対広く広げてくれる。 本当に素晴らしい人たちに日本の本物、伝統知を理解してもらう。彼らに彼らの言葉や文化になぞらえて伝えてもらうのが一番広がるし、私たちが普通と思っているもののなかに、彼らとってイノベーティブなことが実はたくさんあると思うので それを生かして欲しいです 」(齋藤さん)

発酵と土壌の国際フォーラムでのミニ物産展
今回のフォーラムの舞台となった石坂産業周辺は、かつて雑木林や畑だったのが、戦後、東京や埼玉の都市部の多くの産業廃棄物の処理場の場にもなった。石坂産業も産業廃棄物の処理の焼却を行っていた。しかし2代目の石坂典子代表は、資源化リサイクルプラントに切り替えた。作り手、使い手が考えないとゴミはなくならない。循環の仕組みはメーカーやユーザーも一緒に取り組まないと地球の持続社会は営めない。そこから教育の場としての施設や環境を学ぶフィールドが生まれたという経緯がある。

石坂オーガニックファームの見学 ※
「土壌が枯渇してしまったら本当に文明はおしまい。今回のフォーラムでお話しされていた陽捷行先生の本にも『土壌の大切さ』が記されています。 虫から何からすべての地球上の生き物の命は土によって生かされ生きている。みんな地球の壮大な土づくりという環境に参画している。私たちだって地球の一つの生きもの。だけど私たちが食べて、土からの栄養をいただくばかりで土に返さない。本当に未来を見据えて、土壌を豊かにしないともう未来がない」(齋藤さん)。
個人の気づきも大切だが企業レベルで連携して取り組まないともう間に合わないという思いがあるという。そこで衣食住全てを横断し、産業を通じて土をよくする社会づくりを目指して、2021年にJINOWAという土壌コンソーシアム(共同事業体)を設立。石坂産業を代表に、土についていろんな活動している企業をヨーロッパで集めて、土壌再生ビジネスを再設計するなどの具体的なアクションをやっていこうと考えている。
「このコンソーシアムが土壌再生の活動の土台になっています。」
<後編に続きます>




写真の※印は、『株式会社GEN Japan』齋藤由佳子さん提供。プログラムは岡崎啓子さん提供。
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