※この書評は、著者から献本いただいた本の書評を、乙女塾の公式サイトで掲載したものを、WANのご厚意によって転載させていただいたものです。乙女塾については、文末をご参考ください。

トランスジェンダー入門 (集英社新書)

著者:周司 あきら

集英社( 2023/07/14 )

インターネット上には、トランスジェンダーについての情報が、あちらこちらにあり、トランスジェンダーもシスジェンダーもそれらの情報を断片的に読んで、それらをつぎはぎしているのかと思います。

それが故に、シスヘテロはもちろん、トランジェンダー当事者も、正しくトランスジェンダーの抱える問題を理解できてないのが今の状況だと思います。そこで新書という本を読む習慣のあまりない人でも、気軽に読める形で出版された書籍があります。「トランスジェンダー入門」(集英社新書 960円+税)です。

著者は、トランスジェンダー当事者と研究者の間で話題になった「トランスジェンダー問題」の翻訳者高井ゆと里さんと、周司あきらさんの2人。400ページを超えるトランスジェンダー問題では伝わらなかった、トランスジェンダーの基礎的なところを体系的かつ網羅的に整理する事で、シスへテロの人達がトランスの置かれている現状を理解し、そしてトランスジェンダー当事者が自分を整理するためにこの本は書かれました。

トランスジェンダー問題――議論は正義のために

著者:ショーン・フェイ

明石書店( 2022/10/09 )

帯には「最初に知ってほしいこと」「トランスジェンダーの全体像がわかる本邦初の入門書」とあります。章立ては以下の6章、トランスジェンダーがぶつかるであろう諸問題をきちんと段階的に整理しています。

– 第1章:トランスジェンダーとは?
– 第2章:性別移行
– 第3章:差別
– 第4章:医療と健康
– 第5章:法律
– 第6章:フェミニズムと男性学

自分の性別違和感に気がつき、ネットや乙女塾、先輩達に話を聞いて学んできた自分としては、自分の立ち位置ややり方が、着目しているコトが、大枠で間違えてなかったことを確認できたのはとてもよかったです。またトランス男性トランス女性だけでなく、ノンバイナリー特有の問題点に触れているとこころも好感が持てました。

詳細は、ぜひ本書をお手に取って読んで頂きたいです。集中してよめば1日半でおせんべい食べながら読み切れる量です。今はネットの時代だと言われながら、その雑多な情報に惑わされず、体系的にまとめられた「本」というメディアを信じてみるのも悪くはありません。

ここで、当事者としての、わたしの琴線に引っかかった記述を少しあげてみましょう。

★トランスジェンダーの定義

トランスジェンダーとは、世間でよく言われるような「心の性と身体の性が一致しない人」ではないと冒頭に述べられています。では、どういう定義が正しいのでしょう? 本書では次のように定義しています。

「出生時に割り当てられた性別と、ジェンダーアイデンティティが異なる人たち」

出生時に割り当てられるとはどういうことか、ジェンダーアイデンティティとは何かは、第1章で詳しく述べられています。ここは基本となるところで、本書内でくり返しでてきますので、抑えておきましょう。

★性別にまつわる二つの課題

トランスジェンダーは次に述べる2つの課題を乗り越えることを要請されます。

1つ目は、「女の子として/男の子としてこれからもずっと生きなさい」という課題
2つめは、「女の子は女の子らしく/男の子は男の子らしく生きなさい」という課題

これらは最後の第6章のフェミズムとの連動でも述べられますが、過度な男女二元論による性的役割やらしさの強要というものがトランスジェンダーだけでなく、シス女性にもプレッシャーになっていることが指摘されます。

★性別移行はオセロのように

性別移行というものは、医療や法律も関係するため、オセロの盤面を1マスずつコマを置き、1枚ずつ盤面の色を変えていくようにゆっくりと行われるものだそうです。パスや埋没といったものは、一朝一夕でできるものでなないということを、すこし象徴的に述べられていたことが印象的でした。

★同性婚

トランスジェンダーの多くは異性愛ではない。アメリカの調査では15%しか異性愛はおらず、ヨーロッパの調査では89%が異性愛ではないと回答しているそうです。これは自分を含めて周りの実感からも納得がいく数字です。トランス女性だから男性が好きとは限らないのです。

★らしさの強要

フェミニズムが否定している過度な「女性らしさ」がある一方、トランス女性だけに強要される「女性らしさ」がある。(パスや埋没するために、わざわざ女性らしいかっこをせざるを得ない)これらを規程しているのは、明らかに異性愛的な男性優位社会なので、フェミニストとトランスジェンダーは共闘してそれを解体しないといけないと思いました。


★最後に…

あえて、第3章から第5章における、差別、医療と健康、法律にはふれていません。それは当事者ならリアルに受ける差別や困難として知っているだろうし、逆にシスへテロの人には、ここで要約したものを読んで分かったような気持ちになって欲しくないからです。

トランスジェンダーの希死念慮率、メンタル疾患の所有率、就学・就職での差別、WHOから差別的と勧告をうけている特措法の現状など、この部分を話だしたら、止まらなくなるからです。この部分については、各自で読んでトランスジェンダーが置かれている現状を知り、理解し、社会を変えていく仲間になって欲しいと思います。

ノンバイナリーまで扱っている本書の、読書カードの性別欄が男女しかなかったのが少し悲しいですが、それが今の社会の現実を物語っているのです。いつものフォーマットを使ったのだと思いますが、こういう小さなところから、男女二元論で苦しむ社会が減っていけばいいなと思いました。


★乙女塾について

キャッチコピーは“ 明日にかける魔法 ”。乙女塾は女の子らしくを叶えるレッスンスクール。トランスジェンダー・MtF(Male to Female)・女装・自信が持てない女性など、性や自分らしさに悩むあなたが、理想の明日を手に入れるためにお手伝いをする学びの場です。

立ち上げ当初は「女の子らしくなる」ということを積極的に追求していたのですが時代とともにそれも変化し、「その人らしさ」を得るためのお手伝いをさせて頂いております。

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