
紫式部ら女性たちが偉大な文学作品を残せた理由
紫式部が生まれ、育ち、結婚し、子育てし、夫を亡くし、『源氏物語』を書き出し、さらに女房出仕をしていた時代の生活の有り様は、現在社会とはまったく違っていた。たとえば、結婚は、夫が妻方で同居する婿取婚である。ただし、現在、「婿を取った」と呼ばれる結婚と違うのは、妻の両親と同居するが、夫婦は別姓で、子どもは父の姓を名乗ること、もう一つは、一定期間たつと新居に移り、夫婦と子どもだけの世帯になる場合があること、である。けっして、夫の両親と同居することはない。さらに、どうも妻は夫の両親と会うこともあまりないのである。嫁姑の確執もなかった!
最近、二つの姓が記された表札を見かけることがよくあるが、娘夫婦と同居していることが想像され、平安時代の同居のあり方に似ているようである。我が家の表札も二つの姓をかかげている。もっとも、これは、選択的夫婦別姓法が成立することを見越しての別姓表札であるが。
自分史の先駈け『蜻蛉日記』、随筆の創造『枕草子』、そして前近代で世界で最も優れた長編物語『源氏物語』、さらには恋心を素直に詠った和泉式部などなど、多くの文学作品・文学者を輩出した背景には、貴族社会では、乳幼児には必ず乳母がつき、女房や女童、従女たちが雑用を行っており、貴族女性には時間的余裕が多かったことがある。この点は、現在とは大きな違いである。
現在、多くの女性たちが外で働きながら、家事やワンオペ育児等で、「不覚な違算」に囲まれて生活している(『別冊NHK100分de名著 フェミニズム』)。貴族女性たちの名著執筆を可能にした時代背景から、私たちが学ぶことも多いのではなかろうか。
紫式部や『源氏物語』を理解するためには、今とまったく違った社会、さらに女性たちの姿を知ってほしいと思う。本書がその助けになることを願っている。
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