※この書評は、乙女塾の公式サイトで掲載したものを、WANのご厚意によって転載させていただいたものです。乙女塾については、文末をご参考ください。

トランスジェンダーQ&A: 素朴な疑問が浮かんだら

著者:高井ゆと里

青弓社( 2024/05/01 )

都知事選皆さん興味を持ってみていましたでしょうか?政治の世界にも今やLGBTQ+に対して賛成か反対かは有権者から見た尺度の1つになっています。

7月10日に広島高裁の判決がでて、男性から女性への戸籍上の性別変更をはじめて手術なしで認める決定がなされました。特例法の5号要件(外観要件)が違憲状態になったわけではなく、ホルモン治療を行うことで性器の外観が女性に近似しているという状態だと判断したことになります。

今後、特例法はどういった方向で改正されるのでしょうか?各党が案を発表していますが、中には賛否が大きそうな内容もふくまれていました。すでに戸籍変更している当事者、まだな当事者のあいだで、いろんな憶測がSNSでながれると思います。

わたしもそんな根拠のない情報に感情を揺さぶられ、外にでるのが怖くなることがあります。そんな時こそ読んで欲しい本があるんです。『トランスジェンダーQ&A 素朴な疑問が浮かんだら(高井 ゆと里(著) / 周司 あきら(著))』です。

一次情報、二次情報、三次情報と言う言葉を知ってますか?
一次情報、二次情報、三次情報と言う言葉を知ってますか?

一次情報は、他人からの伝聞ではなく自らの行動に伴って直接的に得られた情報のこと。自分が実験して得たり、有効な数のアンケート調査で得た情報をいいます。政府や自治体が発信している情報や、参考にした文献情報がきちんと乗ってる大学の論文なども一次情報に準じるものとして取扱います。二次情報は、誰かが得た一次情報を伝聞やメディアを通じて知った情報のこと、三次情報は、伝聞情報のうち情報源が不明なもの(噂話など)ことをいいます。

みんなは、ネット、特に ”X” で流れるトランスジェンダーに関する情報のうち、どれが一次情報であり、どれが二次・三次情報かちゃんと判断して読むことはありますか?

トランスジェンダーに関する誤解やヘイトは、ほとんどが二次いや、三次情報です。それが拡散し、あたかもトランスジェンダーは性犯罪者であるかのような印象操作されている。本当に悲しいことです。

そんな時に出来る唯一のことは、一次情報を手にいれて正しい知識を知ることです。それがこの本の存在価値だと思います。すでに出版されている「トランスジェンダー入門」、「トラスジェンダーと性別移行」の流れをうけて、もっと多くのひとに、もっと基礎的なことから、よく見る言説まで、簡単な言葉で、語りかけるように正しい一次情報を伝えてくれる。それは本当にありがたい事です。

トランスジェンダー入門 (集英社新書)

著者:周司 あきら

集英社( 2023/07/14 )

トランスジェンダーと性別変更 これまでとこれから (岩波ブックレット 1090)

著者:高井 ゆと里

岩波書店( 2024/03/07 )

巻末の「もっと知りたいあなたへ」に書かれてる多くの資料は、筆者が実際に読んで検証したものです。そして2人の筆者自身のトランスとしての体験や、大学の授業で出合う、トランスの生徒たちの体験を、他者の伝聞でなく書かれているのです。

こういう情報は、まだまだネットでは断片的なものしかなく、体系づけられまとめられたものは書籍にしかありません。本を読むのは苦手、動画や短いテキストしか読めないという人には、まず中学生にも理解できるぐらいわかりやすい本書を手にとってほしいです。

性別とはなにかからトランスジェンダーまで

この本は、前半、そもそも「性別とはなにか」ということを、根本的なところから定義していきます。そこに充分に紙面を割いた上で、ではトランスジェンダーとは、どういう人達のことを言うのだろうかということを考えて行きます。このパートは、基礎知識としてみんなに読んで欲しいです。

逆に3章以降は、ネットでよく見る言説に、それは正しいのか間違えてるのかを、前半の知識をもとに説明していきます。この章は、トランスヘイトが話す言葉を取り上げてるので、当事者の中には読むとトラウマになってしまうかもしれないから注意して下さい。逆にトランスじゃない人には、二次・三次情報に踊らされないように必ずよんでほしいです。とくに1章を裂いて書かれてる「第三章 性別分けスペース」すなわち、トイレとお風呂問題に対する正しい物の見方はいかにネットの言論が雑で根拠のないものかを知ることができるように書かれています。

トランスジェンダー、特にトランス女性への誹謗中傷やヘイトは、別に保守的な男性や、男性嫌悪をしている女性からだけではありません。トランス女性からトランス女性へのヘイト、誹謗中傷も結構酷いものがあります。いわゆる同族嫌悪というものですが、年齢、手術の有無、戸籍、ルッキズムといったことで、マウントしたり、影で悪口をいっている。

その限界が、気楽にヘイトしていい弱者として見なされる原因になってるではないかと思うと、わたしは悲しいです。そんなとき、この本を読んでる、読もうとしてくれるアライの方が、気にすることないよ、わたしはあなたの人間性を知ってるから、と言ってくれる。そういう輪がこの本で広がることが嬉しいのです。そしてトランス当事者も、お互いを理解しあって連帯してほしい。

安易に「陰茎をもつものが女風呂にはいって混乱する」という妄想を、地位のある人がまき散らすことの悪意を、この本は警告しています。トランス女性は自分の身体の状態をよく知って行動していると。

この本によって、本当に正しい知識がもっと多くのひとの手にとどきますように願っています。


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