「被占領地のパレスチナ人および他のアラブ人の人権に影響を与えるイスラエルの慣行を調査する特別委員会」は、1968年に国連総会決議によって設置されたものです。ここに訳した報告書では、イスラエルの被占領下にあるパレスチナ領(ガザ地区、東エルサレムを含むヨルダン川西岸地区)およびシリア・ゴラン高原の人権状況を、2023年10月から2024年7月までの期間について報告しています。2024年9月20日に、第79回国連総会に提出されました。
本報告書は、すでに試訳した「東エルサレムを含むパレスチナ被占領地とイスラエルに関する 独立国際調査委員会」による9月11日付の報告書と、重なる問題を扱いつつ補完しあう内容です。IV)において2023年10月7日のパレスチナ武装勢力による攻撃についてまとめられたあと、V)においてその後の被占領下パレスチナでの人権状況の概要が示され、VI) においてさまざまな人権に沿った詳しい分析がなされます。その後、VII) では国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)への攻撃と中傷キャンペーンについて、VIII)では被占領下シリア・ゴラン高原の人権状況についてまとめられ、IX)の結論と、X)の勧告で結ばれています。
子どもを含むパレスチナ民間人の無差別殺害、封鎖されたガザ域内での何度もの強制移動、極端な物資の制限、飢餓の武器化-ーこれらは2024年12月現在も続いており、終わりが見えない状況です。またイスラエルは1月に被占領下パレスチナでのUNRWAの活動禁止法を施行しようとしています。「パレスチナ人女性への衝撃」(20-22ページ) は、この状況下でさらに深刻化するおそれがあります。最後の勧告には、国連加盟国である日本にも向けられたものが含まれ、この事態を止めるための指針が示されています。ぜひお読みいただければと思います。(片山亜紀)
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<目次>
概要
I. はじめに
II. 任務
III. 特別委員会の活動
IV. 2023 年10 月7 日
V. 被占領下パレスチナ領における人権状況
ガザ地区における人権と人道の危機/ 東エルサレムを含む被占領下西岸における人権
VI. テーマ別人権問題
戦争兵器としての食料/ 清潔で健康的かつ持続可能な環境を享受する権利/ パレスチナ人女性
への衝撃/ 拘禁の場における拷問や、性的暴力やジェンダーに基づく暴力などの残酷で、非人道
的で、品位を傷つける処遇/ 子どもたちと将来の世代の権利
VII. 国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)
VIII. 被占領下シリア・ゴラン高原の人権状況
IX. 結論
X. 勧告概要
概要
本報告書は〈被占領地のパレスチナ人および他のアラブ人の人権に影響を与えるイスラエルの慣
行を調査する特別委員会〉が、その任務遂行の取り組みに関する情報を収めたものであり、被占領下
パレスチナ領および被占領下シリア・ゴラン高原における、2023 年10 月から2024 年7 月までの
人権に関わるさまざまな懸念を記録している。特別委員会は被占領地への訪問を実施できなかった
が、ジュネーブで年次協議を実施し、〔ヨルダンの〕アンマンを訪れ、政府高官、国連組織・機構、
市民社会団体の代表、若者団体の代表、人権擁護者、パレスチナ人家族と面会した。
本報告書は、被占領下パレスチナ領における国際人道法違反および国際人権法違反について、数々
の深刻な懸念を表明している。これらの懸念には、戦争の武器としての飢餓、ガザにおけるジェノサ
イドの可能性、東エルサレムを含む西岸におけるアパルトヘイト体制への懸念などが含まれる。本
報告書は、2023 年10 月7 日以降の紛争激化がパレスチナ人の諸権利――食料への権利、清潔で健
康的かつ持続可能な環境への権利、身体的完全性・自由・身体の安全への権利――に与えた衝撃を記
録している。そして同時に、女性の権利、子どもの権利、そしてさらに広範な数世代にわたる人々の
権利に対する不均衡な影響も記録している。本報告書はまた、国連パレスチナ難民救済事業機関
(UNRWA)に対する現在進行中の攻撃にも焦点を当て、被占領下シリア・ゴラン高原での動向にも
言及する。本報告書は、国連総会と国連加盟国への勧告、イスラエル国への勧告、そしてイスラエル
との取引によって被占領地におけるイスラエルの不法なプレゼンスの維持に何らかの方法で寄与す
る企業への勧告を行う。
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