上野研究室

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書評セッションを終えて  加々美 文康

2012.05.08 Tue

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老若男女、さまざまな方々が会場に集まったのを観て、私は再度古市さんの射程の大きさを実感した。学生4割、中年の方が4割、壮年の方が2割といったところか。男女比はおよそ半々くらいだった。

 

会場の方々のレスポンスカードを読ませていただいたが、上野ゼミが、「批判レベルが普段より数段あがるパワースポット」であることを考慮しても、なかなか手厳しい意見が多かった。(「挑戦者が古市さんのコピーみたいで残念だった」等。)

 

書評セッションを通して浮かび上がってきた絶望本の「弱点」。

それは

「データに乏しく検証・反証が難しい事」

「幸福と言う曖昧な指標を持ち込むことの危険」

「ジェンダー無視」

ということだ。

 

だが、やはり古市氏は絶望本の欠点と限界を十分に意識していたのだな、と、自著の限界を、エビデンスを示しながらすらすらと述べてみせる彼からひしひしと感じた。そもそもアカデミズムとジャーナリズムの中間を目指して作られた本とのこと。

 

「自分の興味関心の向かないことには手を出さない」という古市氏の態度には、批判の言説が目立つ。それは社会学者に向かない、と。

向かない、と言い切れるものなのだろうか。長期的にコミットできる事象とは、基本的に自分が興味のある分野でしかないし、流行の事象を消費財的に扱うよりはよほど真摯な態度かと思うのだが・・・。

もちろん、それはマイノリティを無視すると言うこととはノットイコールである。

幸福なものに目を向けてどうする、という意見もあるが、現代的な幸福を世間に示すことで、それで救われる者だっている。

 

古市氏のいるイベントには、若い人が沢山いることが多い。金髪のギャル男みたいな人が会場に来たのを見たこともある。

それは古市氏の力だ。「象牙の塔」と「世間」をつなぐ橋渡し的な存在であり、彼の言葉によってしか刺せない人々というものが確かに存在する。少なくとも私は、彼の本に出会わなければ「社会学」に興味を持たなかった。

 

ネオリベとかニューリベとか、そのようなポジション付けの学問的有意性など私には全く分からないが、勝手にカテゴライズし、カテゴリー批判を加えることに何か意味はあるだろうか。立ち位置を問うたところで、そこに何か生産的な要素はあるだろうか。

 

まぁこのように、生産性にばかり目を向ける行為がネオリベ的であるのかもしれないが、社会に余裕がないからこそ、私たち若者は具体的で実践的なものに飛びつく傾向がある気がする。もはやアカデミズムや抽象論にはそれほど惹かれず、それよりは具体的な処方箋について語り、実践するほうがよほど若い人には魅力的に映るのかもしれない。

 

近頃は当事者性という言葉を耳にすることが増えた。当事者性の話を持ち出すとしばしば議論が混乱する。

いつの時代でも、誰だって「当事者」であるに決まっている。誰でも個別の問題を抱えていて、その問題を引き受けているし、身近で大切な人の問題だって引き受けなければいけない。その問題は、所謂マイノリティにかかわる問題かもしれない。

 

 

古市氏の擁護ばかりになってしまったが、残念だったこともある。マスコミに対する古市氏の態度は、依然として謎に包まれたまま終わってしまったことだ。

「特に消費もされていない、だからこれと言った戦略がない」と言うが、「マス崩壊」に懐疑的な立場をとる古市氏らしくない。どれだけマスメディア以外の媒体が発達しようと、マスはマス。その影響力は侮れない。古市氏は一般人よりはずっとパワーを持っている人物であるし、そのことにもう少し自覚的になっても良いのではないかという感想を持った。

 

 

 

最後に希望を語りたい。

昨年秋に、私は古市氏の書籍に出会い、ツイッターで講演会があることを知り、足を運んだ。講演が終わり、上野さんと古市さんに話しかけ、「そんなに興味があるなら上野ゼミへどうぞ」と言われ、入った。

 

「上野さん、古市さんの本って面白いんですけど、若者の僕からしても間違ってるところって多いと思うんです」と言うと

「そうか、じゃあ君が書評セッションを開きなさい」

と、上野さんは肩を押してくれた。

 

自分の好きな本の著者と直接語りあい、それを全国に発信するなど、20年前だったらおそらく今よりずっと難しいことであっただろうと思う。

こんなことが容易になったのはソーシャルメディアの発達、そして上野さんのような「話を分かってくれる大人」がいてくれるお陰だ。(ちなみに私は上野さんを怖いと思ったことは一度もない。)

 

権利を勝ち取るために、戦ってきた歴史があったことを忘れてはいけない。上野さんは今でも戦い続けていると言う。だから、あきらめれば幸福になる、とはちょっと言えない。私たちは、かつて戦って勝ち取った権利を享受している。その歴史の上に立っている。そこから学ぶことが沢山ある。かつてとは違う形に映るかもしれないが、「今時の若者なり」に戦略はある。

 

 

最後になりましたが、会場に集まってくださった方々、撮影の森田さん、WANのボランティアの方々、そして上野さんと古市さん。

多くのボランティアの方々の協力があり、今回の書評セッションを開催し、無事終えることが出来ました。ありがとうございました。

まだまだいろんな事を学ばなければいけないのだな、と思います。

カテゴリー:レポート

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