家庭内の児童虐待やドメスティック・バイオレンス(DV)の悪化・件数の増加が、昨今の新型コロナウィルス(COVID-19)対策に伴う経済状態の悪化や自宅待機などにより懸念されます。新型コロナウィルス対策状況下におけるDV・児童虐待防止に関する要望書が、全国女性シェルターネットから政府に対し3月30日提出されました。相談現場ではすでに少しずつながらそうした相談が入ってきており、相談支援に携わってきた全国女性シェルターネットの経験則からも(阪神淡路大震災、東日本大震災時など)今後の悪化が予測されています。

要望書の詳細は全国女性シェルターネットのサイトからご覧いただけます。http://www.nwsnet.or.jp/

【要望】
1.緊急の状況下においても、DV や虐待の相談窓口を閉じないでください。 増加することを予測して、電話相談の回線、DV シェルター、児童を保護する施設などを 増やす等の体制整備をしてください。SNS での相談を実施する場合、直接支援経験のあるス タッフや民間シェルターなどによって行われるべきです。 また相談窓口は開いていることを周知すること、避難を求めて来た人がいたなら、どこが 相談を受けても、直ちに一時保護につながるよう、支援につなぐ体制の情報を共有し、命に かかわる事態を防いでください。
2. コロナ対策の期間中は、 都道府県の一時保護等の措置業務が滞ることを想定し、(現在北 海道では行われているように)被害者が市町村や民間シェルターに逃げ込んだら自動的に一 時保護を開始できるようにしてください。そして民間団体が市町村や当事者から直接一時保 護を求められて受け入れた場合は、団体が一時保護委託先であるなしに関わらず、国や都道 府県が経費を負担すべきです。また、一時保護期間が 2 週間としている都道府県が多いです が、コロナウィルス対策の状況をふまえ、柔軟に期間延長をするようにして下さい。
3.経済的困窮に陥る母子家庭などが増えることが考えられます。もし、低所得者への救済策 として一時給付金などを導入される場合、住民票を移さないまま、DV を理由に家を出てい る配偶者や子どもにはそうした援助金が受け取れない危険性があります。本来ならば個人単 位で救済されるべきです。しかし、世帯単位での給付を行う場合でも、住民票上の世帯主で なくても、少なくとも、以下のような条件を満たす DV 被害者が申し出た場合、援助金等を 給付する特別な措置を行ってください。(また、銀行口座のない人への給付についても柔軟に 対応してください。) ・DV の相談証明がある人 ・DV 法の保護命令が出ている事件の被害者 ・住民基本台帳の閲覧制限等の支援措置がとられている人 ・その他、児童相談所、警察、配偶者暴力相談支援センター、自治体の男女共同参画推進セ ンターの相談窓口、民間団体などが相談を受けており、それらの機関が、住民票所在地で はない所に居住しているDV被害者であることを証明する人(現行の住民基本台帳閲覧制 限の支援措置の申し出手続きに準じる)
4.生活を支えるためには、現金給付だけでなく、生活保護基準よりも下回る収入状況の人に は生活保護を適用して下回る金額を支給する方がより安定的に救済できると思います。生活 保護の適用の拡大をして下さい。また、生活保護と就労収入で生計を維持している世帯の収 入認定についても、事務的ではなく柔軟な対応をしてください。 5.シェルター等の利用者やスタッフに感染者が出た場合、メディアで詳しく報道されると秘 匿しているシェルターの場所が知られてしまう危険があります。各自治体の発表の報道をみ てみると、かなり詳しい個人情報が出ているようです。DV シェルター関係者の発表内容や 報道への配慮をして下さい。


【すでに起きている状況】(要望書からの部分抜粋)
・自治体の相談センターが面談を中止するところも少なくないため、DV が悪化していても相 談支援につながりにくくなっている。
・児相での相談はかなり増加していて、夫が家にいることで妻にも子どもにも高圧力コントロ ールがひどくなり、電話が多くなっている。
・電話だけでなく面接で相談したいが、新型コロナの影響をとても気にして、電車に乗るのも 怖く面談にも来られない。もっと手軽な SNS で相談ができるようにして欲しいとの当事者か らの要望が出ている。
・「夫が在宅ワークになり、子どもも休校となったため、ストレスがたまり、夫が家族に身体的 な暴力を振るうようになった。」
・「夫がテレワークで自宅にいるようになり、これまで長時間労働ですれ違っていた夫が 妻に家事一切を、押し付け、ことごとく文句を言うようになり、モラハラが起こってきた。」
・「かねてから DV で母子で家を出ようと準備していたが、自営業の夫が仕事がなくずっと在宅 し、家族を監視したりするようになったので、避難が難しくなり、絶望している」
・「妻が子を残し、DV で避難したが、学校が休みになり子どもたちが父と一緒に過ごすように なって、大声で怒鳴ったり、幼児が泣くと夜も戸外にしめだされたりしたため、子どもたち が父の下から逃げ出した。一部の子ども(女児)は児相に保護されたが、部屋が足りず、男児 は児相に保護されないでいる。」
・「相談センターの面談が休止になって電話相談のみになっているが、自営業の夫からの DV を 相談中の被害者が夫と子どもが在宅しているので電話での相談は困難と思われ、連絡が途絶 えている」
・「DV 夫と家庭内での別居中。発達障害の子どもがいて、離婚できない状況。学校が休み になり、学童や子ども食堂も休みになり子どもが家にいることで、夫とから妻、夫から 子どもへ暴力が増え、妻も子どもへの暴力をしてしまう状況が起きている。」
・「住民票を移さずに避難して支援措置も受けていない。夫が公務員、警官の場合など、 金銭的支援を直接自分の名前を出して自分で申請できない、するのが怖い。また、自分 の口座もない場合もあり、口座振り込みで受け取れない。なので、民間支援団体に申請 してもらい、団体が受け取りそれを当事者に渡してほしい。」(東日本大震災の時もそう した希望があった。)
・これから直接保障があるとしても、配偶者ビザの外国人DV被害者で離婚せずに別居の場合、 民間だけにつながっている場合あり、受け取れるかを心配している。
・新型コロナの外国人向けの情報が厚労省にあるが、そこに行き着くことができない。 同国人ネットワークで情報を得ることができるが、DV 被害で逃げている場合は、そのネ ットワークにアクセスすることも不安。安心してわかりやすい情報を手に入れたい。 就業ビザや技能実習生にも経済的支援が出るのか心配の声も出ている。

要望書のPDFはこちら↓

【各国の対応】 ・イタリア政府は、2020 年 3 月 24 日、DV 相談センターやシェルターへの影響を考慮し、そ のため、DV 被害者に避難所を提供することが困難な状況にある場合には、暴力防止センタ ーやシェルターが自治体に連絡して、適切な解決策を探すことができます。ホテルや空いて いる住宅などを確保し、その費用を政府が負担すると発表しています。 http://www.pariopportunita.gov.it/news/accordo-con-la-ministra-dellinterno-lamorgese-perlaccoglienza-nei-centri-anti-violenza-e-nelle-case-rifugio/ ・フランスでは コロナ対策で自宅退避命令が出たことから、DV 被害者に危険が強まるとして男女平等担 当大臣が 3 月 25 日に声明を出しています。移動制限に伴い、シェルターの機能も一時的に 停止しましたが、各担当部署はシェルターを再開し、被害者を受け入れること、その際感染 予防に気をつけること、裁判所は休みになっているが、法務大臣は裁判所による DV 保護命 令機能を継続させるとしています。(全文和訳は別紙) https://www.egalite-femmes-hommes.gouv.fr/category/presse/communiques/ CP – LE GOUVERNEMENT PLEINEMENT MOBILISÉ CONTRE LES VIOLENCES CONJUGALES ET INTRAFAMILIALES – 25.03.20