こころ
相談No.6「この不景気の時代、子どもの自立をどう考えればよいのでしょう」
2010.12.11 Sat
25歳の子どもの母親です。息子は昨年修士を終えましたが就職できなかったので大学院に籍を残し就活をしています。共働きの一人っ子なので授業料と下宿代を親が負担することは経済的には無理なことではありませんが、しかし、これをいつまで続けるのかを考えると頭の痛い問題です。
実際に仕事がないのですからできるだけの支援をしてやりたいと思いますが、甘やかして自立できなくなるようなことになってはと不安でもあります。
私自身は、これ以上、就職ができないなら博士課程に進むか、資格をとって具体的な進路を目指すことを勧めたいのですが、大学を終えた子どもの進路に口を挟まないようにしています。しかし、正直なところ、私自身の学生時とはあまりにも状況が異なることに親としてどうしてよいのか戸惑っています。
これまで親から自立することが当たり前と思って子どもを育てて来ましたが、考えてみれば私の家族の中で親から自立した核家族を実践したのは私の代が始めてのことで、両親もその前もみな親と同居の暮らしでした。
「当たり前」と思っていたことが、実は私たちの時代が特別に実現できた「特殊」な時代であったのかと思うと愕然とします。私自身、親から自立するように育てられた経験がありませんので、「親から自立」する育て方がよく分かっていないことに今さらながら気づきました。
人の成長において「自立」とは何も経済的な自立だけを意味するのではないのかも知れません。これから子どもはしばらく経済的に自立できなかもしれませんし、場合によっては就職するまで同居しなければならいことも起こるかもしれませんが、そういう状況になっても子どもと適切な距離を保っていくにはどうすればよいのかアドバイスをお願いします。(京都/59歳 女性)
回答
No.6回答
ご質問を拝読して、あなたより、10歳ちょっと年上の私にとって感慨深かったのは、「自立のしかた」です。私の場合を書かせてくださいね。私自身自立しなければ、と思ったこともなければ、親から、自立しろ、と言われたこともありません。こんな言葉自体も流通していませんでした。ただ様々な理由で親の家を、ただただ出たかったのでした。
見栄をきって出た以上、その後は、なんでも自分ですることを通して、結果的には自立できたように思います。ある意味親を反面教師にすることで、私が「立ち上がってきた」(私の場合の特殊な要素はありますが)と思えるのです。ずいぶん古い話ですが参考までに。
最近(いつからでしょうね)、いつまでも親の家でいいと思う若者が増えている、と聞きます。また親もそれを許しているようです。もし親の家を出て、それなりに自活することを自立というなら、このような親子の相互依存で成り立ってしまっている家を出ること自体が難しくなっているのでしょうね。
それは置いて、求人や就活の状況の厳しさについては同情的であると言う以上、私にはそれについて論じられませんし、あなたも息子さんとの距離をお尋ねだと理解していいですね?これについて、まずあなたがあまりご子息とのコミュニケーションのないことが気になりました。口を出さないというのは、確かに過干渉よりいいでしょうが、相手のことをよく理解できないということにもなりかねません。もう少し、就活の様子以外に、どうしていきたいのか、等を話し合ってはいかがでしょうか。援助をするもしないも、それ以降のことのように思われます。
ちなみに1970年代に「女性の自立」が言われたとき、指針は「生活的自立」「精神的自立」「経済的自立」でした。今の就職難の時代、「経済的自立」自体大変でしょうが、男性にとっても、この指針は、自立の方向性の一考にならないでしょうか。
回答者プロフィール
河野貴代美
アメリカの大学院で心理臨床を学び、日米の精神病院やファミリーサービスセンターでカウンセラーとして勤務。1970年後半にアメリカからフェミニストセラピーという言葉とその実践を持ち込んだ日本で最初のフェミニストカウンセラー。1980年2月 東京に「フェミニストセラピー”なかま”」として初めての民間開業に踏み切り、その後、日本各地でフェミニストカウンセリングルームの開設を援助し、また女性センターの相談員の教育・研修等、フェミニストカウンセリングのパイオニアとして常に第一線で活躍。アフガンのカブール大学教育心理学部でトラウマの授業、メディアのために国際会議の取材等、国際的な活躍をしてきた。著書に『自立の女性学』『フェミニストカウンセリング①②』訳書に『女性と狂気』『バイセクシュアルという生き方』等多数。