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法律

相談 37:米国人の夫と結婚して、40年米国で暮らしてきましたが

2016.02.29 Mon

日本で生まれ育ちましたが、縁あって、米国人と結婚し、40年にわたって米国で暮らしてきました。1年前に夫が入院したとき、米国の social security の支払いをしていないことがわかり、米国でのさまざまな社会保障を受けることができないことが判明しました。
夫が亡くなったときには、米国の social security もなく、心細いので、日本に帰りたいと思っています。その場合、日本で生活保護を受けて暮らすことはできるでしょうか。なお、日本には、3歳年下の妹がいます。
70代 女性 カリフォルニア州在住

回答

回答 37:吉田容子さん(弁護士)

それはご心配ですね。
生活保護制度は、資産や能力等すべてを活用してもなお生活に困窮する方に対し、困窮の程度に応じて必要な保護を行い、健康で文化的な最低限度の生活を保障し、その自立を助長する制度です(制度の適用対象は「国民」ですが、永住・定住・日本人の配偶者等などの在留資格を持つ外国籍住民にも準用されます)。支給される保護費は、地域や世帯の状況によって異なります。
保護を受けるための要件は、なかなか厳格です。生活保護は世帯単位で行い、世帯員全員がその利用し得る資産・能力その他あらゆるものをその最低限度の生活の維持のために活用することが前提であり、また、扶養義務者の扶養は生活保護法による保護に優先します。すなわち、
ア、<資産の活用>生活保護を利用する前に、利用できる資産(預貯金、生命保険、自動車、生活に利用されていない土地・家屋など)があれば売却するなどして、生活費に充てる必要があります。
イ、<能力の活用>生活保護を利用する前に、あなたの世帯の中で働くことが可能である方は皆、その能力に応じて働くことに努めなければなりません。
ウ、<あらゆるものの活用>生活保護を利用する前に、他の法律や制度による給付がある方は、それを優先して受給し生活費に充てることが求められます(雇用保険・健康保険・各種年金・児童扶養手当・高齢福祉手当・身体障害者福祉手当など)。
エ、<扶養義務者の扶養>生活保護を利用する前に、配偶者・親・成人している子・兄弟姉妹・それ以外の親族に、できる限りの援助をお願いするように求められます。
これらの受給要件を満たしたうえで、世帯の収入と厚生労働大臣の定める基準で計算される最低生活費を比較し、収入が最低生活費に満たない場合に、保護が適用されます。貴女の場合も、これらの要件を満たす必要があります。詳しくは、帰国後、お住まいの地域の福祉事務所にお尋ねいただくか、妹さんを通じるなどして福祉事務所にお尋ねくださるのがよいと思います。
ただ、以下に注意すべきことを補足しておきます。
まず、帰国後、一人で生活されるのか、それとも妹さんや他の方と同居されるのか、です。前者の場合は、貴女だけについて前記ア~エの要件を満たせばよいのですが、後者の場合は、同居される方と生計が同一であると判断されると、その全員について前記ア~エの要たすことが必要となります。
次に、親族間の扶養義務については、同じ親族でも、求められる扶養の程度に、法律上、違いがあります。配偶者間及び親の未成熟子に対する義務は「扶養義務者に経済的な余力がない場合であっても、被扶養者に対して自分の生活と同質で同程度の生活を保持させる義務」(生活保持義務)ですが、兄弟姉妹間の義務は「扶養義務者が経済力に余力があり、要扶養状態にある権利者に健康で文化的な最低限度の生活を援助する義務」(生活扶助義務)です。前者に比べて後者は一段と軽い義務と言ってよいと思います。また、扶養義務者による扶養は生活保護の要件ではありません。「扶養が保護に優先する」と言われるのは、保護受給者に対して、実際に扶養義務者から援助(仕送り等)が行われた場合に、これを収入認定してその援助の分だけ保護費を減額するという意味であり、扶養義務者による扶養が保護受給の要件ということではありません。ただ、生活保護の申請があると、福祉事務所は直系血族(親子)と兄弟姉妹に対し、申請者への扶養が可能か否かについての照会文書を送付する扱いとなっています。
したがって、仮に貴女にお子さんがいる場合は、お子さんには貴女に対する生活保持義務があります。また、妹さんには貴女に対する生活扶助義務があります。ただ、これらの義務は、貴女が要扶養状態にあること(標準家計費または最低生活保護基準が目安)、また、義務者の側に扶養能力があること(標準家計費を越える資力があることまたは社旗的地位相応の生活をしてなお余力があること)が前提です。特に妹さんについては、ご自身も高齢であることを考えれば、具体的な義務が発生する可能性は低いといえるでしょう。
いずれにしても、扶養義務者による扶養は生活保護の要件ではありませんので、貴女自身が前記ア~エの要件を満たす場合には、生活保護の受給が可能と言えるでしょう。

回答者プロフィール

吉田容子

日弁連両性の平等に関する委員会委員を長く務め、現在は立命館大ロースクールでジェンダーと法、家族法などを講義する一方、人身売買(トラフィッキング)禁止ネットワーク共同代表を務めるなど女性運動のなかでも頼りになる存在。