法律
相談45 : 先日 県の男女共同参画センター主催の講座があり、参加しました
2016.12.08 Thu
先日 県の男女共同参画センター主催の『「熟年離婚を考えたとき」~今から独りで生きていけるのか~』という講座があり参加しました。
チラシには定員20名と記されていましたが 会場には50名はいたでしょうか。離婚を考えている女性が多いことがうかがわれました。
講師さんの「嫁は夫の親を介護する義務はない」という話のとき 会場に「ハッ!」とした雰囲気が走りました。両隣の方も 勿論私も
思わずペンを取りメモをしていました。この頃 嫁が義理の親の介護をしなくなったと言われていますが まだまだ 義理の親の介護問題に悩まされている女性がいます。 義理の親を見送った後 財産分のとき嫁には何のお礼も支払われなかったこともよく聞きます。「介護する義務が無いということは 財産を分与される権利はない」ということなのですね。その法的な根拠が知りたいです。
三重県 (ペンネーム)二木好子
回答
回答45 : 吉田容子さん(弁護士)
「義理の親の介護は嫁の義務」という風潮は、少しずつ薄れてきているようにも思いますが、まだまだ悩まされる女性が多いのが現状だと思います。しかし、講師がお話しされたように、「嫁」に「夫の親を介護する義務」はありません。
まず、民法には「直系血族及び同居の親族は互いに扶け合わなければならない」(注1)との規定があります(730条)。しかし、これは、第二次世界大戦後の民法改正の際、家制度の廃止に反対する保守派との妥協の産物として規定されたものであって、道徳的な意味しかなく、「嫁の介護義務」の根拠となるものではありません。ただ、「長男の嫁」が義理の親の世話をするのが当然だという風潮がまだあるように、戦前の家意識に基づく扶養や介護を事実上強制する役割を果たしてきたことは事実であり、早急に削除されるべき規定です。
次に、民法は、一定範囲の近親者に、高齢、障がい、病気などのため経済的に自立できない人を扶養する義務を課しています。しかし、民法上、扶養義務を負うのは、①配偶者(752条)、②直系血族、兄弟姉妹(877条1項)だけであって、子の配偶者(嫁)はこのいずれにも該当しません。
もっとも、③家庭裁判所は、特別の事情があるときに、3親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができるとの規定があり(877条2項)、「嫁と義理の親」は姻族1親等ですから、③によって介護の義務を負わされるのでは、と心配される方がいるかもしれません。でも、大丈夫。家庭裁判所が③によって扶養義務を課すのは、要扶養者(義理の親)から以前に長期にわたって扶養された場合、相続によって家産的な財産(家業に不可欠な財産)を承継したなど、まさに「特別の事情」がある場合に限られており、子の配偶者(嫁)がこれに該当する可能性はほとんどありえません。
それに、そもそも、現在の民法の下で、「扶養」は、純粋に経済的な援助に限定されています。明治民法にあった「引取り扶養」(つまりは介護)の規定は削除されています。つまり、要扶養者は扶養義務者に対し介護を請求することはできず、扶養義務者が要扶養者の介護を義務付けられることもありません。高齢者が誰かに介護をしてほしいと希望する場合には、介護保険制度を利用して介護サービスを受け、その費用を自ら負担するか、負担できない場合は扶養義務者に請求することになるだけです。
以上のように、どこからみても、「嫁」が「義理の親」の介護を義務付けられることは、ありません。
もっとも、法律を離れた場面で、事実上、「嫁」が「義理の親」の介護を強要されるという事態が、まだあるように思います。そのような場合には、せめて介護契約を締結する(ヘルパーの賃金相当額を支払う旨)ようにしてください。
次に、夫の親が死亡した場合に、夫の配偶者(嫁)には、そもそも相続権はありません。法律上、相続権があるのは、死亡した人(被相続人)の①配偶者、②子、子がいなければ親、親もいなければ兄弟姉妹、だけです(886条~890条)。「息子の嫁」は、被相続人と養子縁組をしている場合を除けば、被相続人の「子」ではありませんので、相続人ではありません。このことは、例え「息子の嫁」が「義理の親」の介護を一生懸命にしたとしても、変わりません(なお、ご質問の中に「財産分与」という言葉が出てきますが、これは「遺産分割」のことを指していると思われますますので、その前提で回答しています)。
つまり、「介護する義務が無いということは、財産を分与される権利はない」というのではなく、「そもそも介護する義務はないし、仮に介護をしても遺産分割を受ける権利はない」ということなのです。
そうすると、実際に介護をしていた場合には、その苦労が何も報われないのは余りに酷いのではないか、というご意見があると思います。私もそう思います。そのような場合、実務では、実際に介護した妻(嫁)の寄与をその夫(被相続人の子)の寄与とみて、夫の具体的相続分を増やす、という方法をとることがあります。しかし、実際に介護をしていない夫の相続分を増やすというのは如何にも不自然ですし、実際に妻がその増加分を取得できる保証はなく、夫婦一体思想の表れと言わざるを得ません。むしろ、「不当利得」の返還請求(有償の介護契約があれば得られたであろうヘルパーの賃金相当額の請求)あるいは事務管理による費用償還請求(同)を認めるべきだと言われていますが、実際にはなかなか困難なようです。結局、被相続人が亡くなる前に、有償の介護契約を締結しておくのが一番ですが、これもなかなか難しいようです。
注1:「親族」には「血族」と「姻族」があります。血族関係は、出生(自然血族)と養子縁組(法定血族)によって生じる関係であり、例えば、「親と子」は血族です。これに対し、姻族関係は、夫婦の一方と他方も血族との間の関係であり、例えば、「妻と夫の親」は姻族です。
回答者プロフィール
吉田容子
日弁連両性の平等に関する委員会委員を長く務め、現在は立命館大ロースクールでジェンダーと法、家族法などを講義する一方、人身売買(トラフィッキング)禁止ネットワーク共同代表を務めるなど女性運動のなかでも頼りになる存在。
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