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法律

相談51:昨年(2016年)の7月に次男を出産し、育児休業中です

2017.08.03 Thu

昨年(2016年)の7月に次男を出産し、育児休業中です。

今年の7月には、会社に復帰したく、会社に連絡したところ、以前の職場(A支店)には、すでに別の担当者がいるため、以前の職場には、戻れないこと、そして、自宅から1時間半ほど離れたB支店に配属される可能性が高いとの連絡を受けました。また、短時間勤務についても勤務時間帯を相談したいと思ったのですが、配属されてから、配属先の上司と相談してほしいとのことです。長男を出産したときには、以前の上司がいろいろと相談にのってくださったのですが、今回は、そのような状況もなく、不安が募るばかりです。

社会全体では、「マタハラ」対策が進み、育児休業からの復帰についてよりよい状態になっているはずなのに、なぜでしょうか。なお、働いている会社は、かなり大規模で、「くるみん」マークも取得しています。今後、どのように会社と交渉すればよいのか、教えてください。

回答

回答51:養父知美さん(弁護士)

育児・介護休業法は、事業主が、労働者が育児休業の申出をしたり、育児休業をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他の不利益な取扱いをしてはならないと定めており(同法10条)、育児のための労働時間短縮措置についても同様に、その申出をしたり、措置が講じられたことを理由に、解雇その他の不利益な取扱いをすることを禁じています(同法23条、23条の2)。これらの規定は、強行法規とされており、これらの規定に反する不利益な取扱いは無効とされます。

育児休業後は、本来、元の職場に復帰させることが原則とされており、ここに言う「不利益な取扱い」には、「不利益な配置の変更を行うこと」も含まれます(「子の養育又は家族の介護を行い、又は行うことになる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置に関する指針」※1下記サイト参照)

従って、あなたの場合にも、本来、元の職場であるA支店への復帰がなされるべきです。自宅から1時間半ほど離れたB支店への配置換えが、通勤時間が大幅に増えるなど、あなたにとって「不利益な配置の変更」と言えるのであれば、育児休業を取得したことを理由にそのような配置換えを行うことは、育児・介護休業法違反となり許されません。

問題は、会社が配置換えの理由を「別の担当者がいるため」として、あなたをA支店に戻すことに業務上支障があり、配置換えの必要性があると主張している点です。つまり、B支店への配置換えは、あなたが育児休業をしたことを理由とするものではなく、会社の人事配置上の必要によるものであるから、育児・介護休業法違反にはならないのではないかとの疑問です。

結論から言うと、あなたの場合、B社への配置転換が強行されたとしたら、「育児休業をしたことを理由として」の「不利益な配置の変更」とみなされ、育児・介護休業法違反により無効とされる可能性が高いと思われます。

妊娠中の軽易な業務への転換(労働基準法65条3項)に際して副主任を免ぜられ、育児休業からの復帰後も副主任に任じられなかったことが、雇用機会均等法9条3項、育児・介護休業法10条違反であるとして争われた「広島中央保健生協病院事件」の最高裁判所の判決(最高裁第1小法廷判決平成26年10月23日判決)を踏まえて、厚生労働省より出された解釈通達(平成27年1月23日・雇児発0123第1号「改正雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律の施行について」および「育児休業・介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律の施行について」の一部改正について)※2が、以下のように述べているからです。

育児休業の申出又は取得をしたことを契機として、不利益取扱いが行われた場合は、原則として育児休業の申出又は取得をしたことを理由として、不利益取扱いがなされたと解される。ただし、以下の①②のいずれかに該当する場合は除く。

① (イ) 円滑な業務運営や人員の適正配置の確保などの業務上の必要性から支障があるため当該不利益取扱いを行わざるを得ない場合において、(ロ) その業務上の必要性の内容や程度が、法第十条の趣旨に実質的に反しないものと認められるほどに、当該不利益取扱いにより受ける影響の内容や程度を上回ると認められる特段の事情が存在すると認められるとき

② (イ) 当該労働者が当該取扱いに同意している場合において、(ロ) 当該育児休業及び当該取扱いにより受ける有利な影響の内容や程度が当該取扱いにより受ける不利な影響の内容や程度を上回り、当該取扱いについて事業主から労働者に対して適切に説明がなされる等、一般的な労働者であれば当該取扱いについて同意するような合理的な理由が客観的に存在するとき

そして、「契機として」については、基本的に育児休業の申出又は取得をしたことと時間的に近接して当該不利益取扱いが行われたか否かをもって判断するとされており、例えば、定期的に人事考課・昇給等が行われている場合においては、事由の終了後の直近の人事考課・昇給等の機会までの間に、不利益な取扱いが行われた場合は、契機として行われたものと判断するとされています。


この通達が示す基準に照らすなら、あなたの場合、育児休業期間満了による復帰のタイミングでの配置転換であることから、育児休業を取得したことを契機として行われたものと言え、育児休業の取得を理由とする不利益取扱いであると言えます。

また、育児休業期間満了後の復帰は予定されていたことであり、休業中の穴埋めのために別の担当者を置くことも育児休業制度の適切な運用のために通常行われるべき人事措置であるから、これをもって「不利益取扱い」を正当化できるほどの「特段の事情」があるとは到底認められない、むしろ、このような理由をもって「不利益取扱い」を認めるとしたら、それこそ「法の規定の趣旨」を真っ向から反すると言えます。したがって、あなたが同意しない限り、この配置転換は、育児・介護休業法に反する違法なものと言えるでしょう。

あなたの会社が、かなり大規模で、「くるみん」マークも取得しているというのであれば、なおさらのこと、このような配置転換は許されません。前述の最高裁判例や解釈通達(※2下記のサイト参照)を示すなどして、会社と交渉してください。会社との交渉が上手くいかなかった場合には、都道府県の労働局に対し、紛争解決の援助を求めたり、調停の申請を行うこともできます(育児・介護休業法52条の4,5)。

※1http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/3_0701-1s_1.pdf

※2
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000089162.pdf
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000089158.pdf

回答者プロフィール

養父知美

とも法律事務所は、知をもって(法律の専門家としての知識をもって)、友として(あなた自身や家族になりかわることはできないけれど、あなたの力になりたいと願う友人として)、共に(ひとりで頑張らないで、ひとまかせにしないで、一緒に)、問題解決をめざす法律事務所です。

タグ:非婚・結婚・離婚 / くらし・生活 / 女性政策 / 養父知美

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